107.別ゲー
トロール襲撃事件の翌々日。
魔物の街、生活マニュアル問い合わせ窓口にて――。
「単刀直入に聞く。魔物が現実世界に出現するってどういうことだ?」
サムライの刀聖サナダはいつになく真剣な口調で窓口担当のセシルの問いかける。
トロール襲撃事件の後、すぐにサナダからクガへコンタクトがあった。
そこには〝懸念していたことが現実になってしまった〟と書かれていた。
サナダさんが懸念していたこととは、人間界に魔物が現れること。
それは〝人間と魔物の秩序を守る〟というサムライの活動原理に重大な懸念を与えるものであった。
そして、今、再び、生活マニュアル問い合わせ窓口のセシルの元に来ているのである。
今日はサナダだけでなく、巫女のナナミ、薬聖のコダックもいる。
加えて、クガとアリシアも同行していた。なにしろアリシアがいないと生活マニュアル問い合わせ窓口には入れない。
サナダから「今日はオフレコで頼む」と要望があり、配信も行っていない。
サナダの「魔物が現実世界に出現するってどういうことだ?」という問いに対し、セシルはいつものようにニコニコと答える。
「どうもこうもないのでは? 前例もあるはずです」
「……吸血鬼くんのことか」
「はい、そうです」
サナダとセシルの会話を横で聞いていたアリシアは少しだけ気まずそうな顔をする。
「理性があり、人間であるクガくんに連れられて来た吸血鬼くんと、一昨日、何の前触れもなく現れ、暴走する魔物では、全く話が違うだろ?」
「そうでしょうか?」
セシルはそう違いはないといった反応である。
「いずれにしても魔物はダンジョンの外に出られない……などということは元から規定されていないのです。今までが、たまたまダンジョン内に留まっていただけと考えていただく方が理解しやすいかと思います」
「っ……なるほど……」
サナダは唇を噛みしめる。
「せっかくですから少しだけ助言さしあげましょう」
「……なんだ?」
「ラスボスを倒すなら急いだ方がいいでしょう」
「……! ……どういうことだ?」
「このダンジョンのラスボスにはこのダンジョンの全ての魔物を従えて、現実世界の大規模襲撃……すなわち、〝スタンピード〟を起こす能力があります」
「……!」
そのセシルの言葉に皆が絶句する。
クガは、ふとサナダがかつて言っていた言葉を思い出す。
クガの「ラスボスを倒さずに放置するとどうなるか?」という問いに、サナダは「ラスボスは世界を滅ぼす存在なんだ」と言っていた。
セシルから告げられた大規模襲撃という言葉は、正にそれを予感させる言葉であった。
◇
セシルからラスボスを倒すなら急いだ方がいいと告げられた。
が、しかし、ラスボスの手掛かりは相変わらず掴めていなかった。
クガ、アリシアもサムライも「どうすりゃいいのよ?」状態であった。
しかし、翌日のことである。
「なんかダンジョンの入り口らしきものを発見した」
そう言って、魔物の街の何の変哲もない小道に案内してくれたのはアイエである。
「「えぇえええええええ!?」」
それに激しく驚いていたのはサムライのサナダとナナミであった。
「ほ、本当だぁ……こ、これ地下に続いてるぅ……ダンジョンっぽいね、サナダぁ」
「う、嘘だろ……? アイエくん、僕達が二年かけても見つけられなかったのに……」
ナナミとサナダは狼狽している。
コダックは冷静というかぼんやりとしている。
「まぁ、確かにここ見つけるのはちょっと大変かもね」
しかし、アイエは淡々としたものだ。
「あ、アイエくん、こんな何の変哲もない場所、どうして見つけられたんだ?」
サナダが尋ねる。
「いや、この魔物の街自体がちょっと古いゲームのとある街をモデルにしているみたいでね。そのゲームと同じところに隠し階段を発見したってわけ」
「なるほど……そのゲームでもこの場所はノーヒントなのかい?」
「いや、実際のゲームでは、NPCから情報を集めることで誘導されるようにできていたね」
「……なるほど……道理で見つけられないはずだ……」
「そんなことはどうでもいい! 早く行くぞ!」
サナダとアイエの会話に割って入るアリシアはすでにやる気満々のようだ。
クガ、アリシア、アイエ、そしてサムライの三人の計六人は地下へと続くダンジョンに入っていく。
ダンジョンに入ると荘厳な牢獄のような佇まいであった。しかし、一本道となっていた。魔物が現れる気配もなかった。
「アイエくんよぉ、ビンゴかもしれねぇ……何やらそれっぽい雰囲気のダンジョンじゃねえの……」
「どうだろうね」
やや武者震いするようなサナダの言葉にアイエは相変わらずそっけない。
【うぉおおおお! ついにきたのか!? ラストダンジョン!】
【どんなボスが待っているんだ!?】
【わくわくどきどき】
リスナーも大いに盛り上がっている。
しばらく道なりに進むと少し広い部屋に出た。
そして、部屋の中央には一人の人物が穏やかに微笑みながら立っていた。
「はぁん? なんで貴方がそこにいるんですかねぇ?」
サナダは怪訝そうに尋ねる。
【うぉおおおおおお! 出たぁあああ!】
【黒幕! 黒幕!!】
菫のようなパープルのふわっとした長い髪に、白を基調として、髪の菫に近い色があしらわれたドレスを身にまとったグラマーな美少女。
「ようこそ、いらっしゃいました。私はセシルと申します。って、皆さまはすでにご存じですよね」
セシルは生活マニュアル問い合わせ窓口にいる時と変わらぬ様子で自己紹介する。
「本来であれば皆さまとはここで初めましてになるはずだったのですが、まぁ、兼務をしていればこんなこともありましょう」
「なるほど……ここがセシルくんの本来の居場所というわけだな」
そう言いながらも、サナダは刀に手を添える。
「意外と血の気が強いのですね。ですが、サナダさん、ここですぐに私と戦闘することはできません」
「なんだと?」
「この先に進むには、とあるミニゲームをしていただく必要があります」
「とあるミニゲーム?」
「えぇ、それが〝人狼風ゲーム〟です」
「「「…………え?」」」
サナダ、ナナミ、そしてクガが疑問の声をあげる。
アリシア、アイエ、コダックはきょとんとしている。
「えーと、今なんて?」
サナダがセシルに再確認する。
「いえ、ですから〝人狼風ゲーム〟です」
「……聞き間違いじゃなかったみたいだな」
【なんか最近、似たような名称のゲームを聞いたような……】
【人狼迷路の館かな?】
【それだそれ】
人狼迷路の館とは、アリシアが準備中のテーマパーク〝モフモフパーク〟のアクティビティである。
「それでえーと……その〝人狼風ゲーム〟とは、どういう内容なんだ?」
「はい、こちらになります」
サナダがセシルに尋ねると、何やらルールのようなものがポップアップする。
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【人狼風ゲームのルール】
参加者は八人です。
そのうち怖~い人狼が一人います。
①別れ道を選んでいただきます。
誰がどこを選んだかは互いにわかりません。
人狼は一緒の道に行った人、一人を必ずキルします。
②合流後、残った人で会議を行います。
その会議で人狼と疑わしき人を一人決定し、処刑します。
①と②を二回繰り返します。
※本ゲーム内のキルや処刑は実際にゲームオーバーになるわけではなく、隔離されるだけなので、その点はご安心ください。
見事、人狼を当てることができれば、人間チームの勝利です!
万が一、人狼を当てることできなければ、手痛~いペナルティが待っているから気を付けましょう!
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【ほぇー、おもしろそうじゃん】
【人狼ゲームをアレンジしたゲームね】
【しかしなんで人狼ゲームw】
【ラストダンジョンで別ゲー化するやつw】
「いろいろと疑問がつきないんだけど……ここにいるのは六人なんだけど、セシルくんも参加人数に含まれるの?」
サナダがセシルに尋ねる。
「そうですね。人数が足りないようなので、私も参加いたしましょう。ですが、ゲームを開始するにはあと一人不足しています」
「なるほど……あと一人か……」
クガは少し考える。
そもそもこのゲームは、ゲームとして成立しているのだろうか……と。
この中に、人狼がいる。それが、もしセシル以外だとしたら裏切り者がいるってことなのだろうか?
「あ、一応、言っておきますが、私は人狼ではありませんよー」
クガの心を読むかのように、セシルがそんなことを言っている。
すでに疑心暗鬼な雰囲気が流れている。
クガも人狼ゲームについては概要しか知らず、実際にやったこともなく正直に言って自信がなかった。
だから、
「…………あと一人、心当たりがあります」
クガはあと一人を信頼できる自分の身内にすることにした。
クガの指輪が光り、ワープエフェクトが発生する。
中からふわっとした白銀の髪の少女が跪いた状態で現れる。
「グレイ……話した通りだ。手助けを頼む」
「もちろんでございます!」
ワープエフェクトから現れた少女はうるうるとした瞳でクガを見上げる。
【人狼ちゃんか】
【人狼ゲームに人狼ちゃんが参加ってややっこしいな】
【でも人狼ちゃんは人狼ゲーム得意だろうしね】
クガが人狼を呼んだのもそれを頼ってのことであった。
「人数も揃ったことですし、早速、始めていきましょうかね」
セシルは事務的に進行していく。
「それでは皆さん、最初の分かれ道を選んでいただきます。五枚のカードから一つを選んでください。あと当然ですが、分かれ道では配信は禁止ですよ」
セシルがそう言うと、ポップアップと選択肢が現れる。
クガも五枚のカードの中から一つ選択する。すると、Aと表示された。
「……!」
選んだ瞬間、ワープが発生する。
どうやら分かれ道に飛ばされたようだ。
時間にして五秒後くらいであろうか、もう一人がワープで飛ばされてくる。
「あ……」
「…………クガさまぁ」
それはグレイであった。
しばらく待ったが、他に現れる者はいなかった。
つまりAの道を選んだのはクガとグレイの二人ということだ。
クガは少しほっとする。
最初に一緒になったのがグレイでよかった……と。
「グレイ、行こうか……」
「はい……クガさま」
そうして、クガとグレイの二人はAの道を進んでいく。
歩みながらクガは思考する。
グレイが人狼ってことはまずない。そもそも参加する予定がなかったのだ。
人狼なんてありえない……。
ありえない……よな……? 本当に……?
そもそもグレイはS級魔物の人狼なわけで……と、クガが若干、疑心暗鬼になっていたその時であった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「っ……!」
後ろを付いてきていたグレイの呼吸が荒くなる。
クガは恐る恐る振り返る。
「っっっ……!」
その瞬間、グレイがクガの腕を掴む。
まさか……!? とクガは戦慄する。
が、しかし……、グレイはクガの腕にまとわりつく。
「……え?」
「はぁあああああん、クガさまぁあああ! お久しぶりに二人きりになれましたね……」
そんなことを言いながら、グレイは自分の身体をスリスリとこすりつけてくる。
「ちょっ……! グレイ……!」
「クガさま……ずるいのです……」
グレイは拗ねるように、クガを見つめる。
「え……?」
「いつもいつも、あの吸血鬼とばかり……私のことは構ってくれません……」
「……それは…………すまんな」
「…………謝らないでください……謝られると、逆に傷つきます」
「……」
クガはどうしていいかわからず沈黙してしまう。
「それでクガ様、私は人狼ではありませんよ」
「あ、うん、そうだな」
「つまりこれで、クガ様と私は〝白〟確定というわけですね」
「え……?」
「この後の会議で、クガ様と私が一緒にいたと証言すれば、お互いにアリバイができて白確定ということになります」
その後、グレイが少し解説してくれた。
分かれ道から二人が戻ってくるパターンは二つしかない。
①二人とも人間
②三人いて、一人が人狼
このうち、②のパターンは出てきた二人がお互いに相手が人狼であると主張し、罪の擦り付け合いをすることになる。
「つまり二人出てきて、互いに人狼ではないと証言しあった場合、二人とも白が確定するというわけだな!」
「クガさま、その通りです」
「ありがとう、グレイ。なんとなくこのゲームの主旨がわかってきたよ」
「とんでもありません」
そんな話をしているうちに道の終着点に到達する。
「おぉー、クガぁ! 無事だったか……よかった……!」
部屋に入ると、アリシアが迎えてくれる。
「ぬ……クガはグレイと一緒だったのか……?」
「え、まぁ……」
「……そうか」
アリシアは少々、訝しげな顔をする。
「皆さま、これで、全ての分かれ道から人が帰ってきたようです」
セシルがそう告げる。
「…………コダックが帰ってきてないな」
サナダが薬聖のコダックが不在であることを告げる。
「残念ながら、コダックさまは人狼に食い殺されてしまったようです」




