100.ケルベロス
アリシアがラスボスを直接倒すという方針を固めた翌日のこと。
魔物の街にて――。
「うーむ……ここはどうだ……!? ここは……!? ここはどうだ!? ないか……」
アリシアは魔物の街の至る所を物色していた。
「……」
街の魔物達が異様に動き回るアリシアの姿を変質者を見るような目で眺めている。
そのため、同行人のクガは少々、きまずい。
とはいえ、クガ自身もきょろきょろと怪しそうな場所を探してみる。
現在、クガとアリシアは魔物の街にて、上層へとつながる道がないか探していたのである。
【なるほど、直接、ラスボスを倒すか】
【それにはまずラスボスを見つけなきゃいけないってことね】
【まぁ、普通に考えれば、ラスボスは50層よりも上層にいるってのは、確かにそうだね】
【吸血鬼さん、カサカサ動き回ってておもろい】
【元気な吸血鬼さんが復活してよかったね!】
【曇った吸血鬼さんも捨てがたい……】
「皆さんも怪しい場所があったら教えてくださいね」
クガはリスナーにも協力を仰ぎつつ、捜索を続ける。
しかし……、
「ダメだぁああ! 見つからぬぅう!」
アリシアは早くも根を上げる。
「まだ捜索を始めて三時間だろ……今までこの街で生活していて見つかってないんだから、そんなに簡単に見つかるものでもないだろ……」
「……確かにそうなのだが」
【でもまぁ、見てる方も若干、飽きてくるな】
【そもそも上層への道が本当にあると決まったわけでもないしな】
【確かに……】
【ふぁー】
リスナー達も単調な映像に少々、飽きてきているようであった。
ここまでぶっ続けで捜索をしており、クガも少し疲れてきたのは否めなかった。
「アリシア、少し休憩するか」
「う、うむ……」
そうして、クガとアリシアは噴水のある広場で一休みすることにした。
「よっこいしょ」
アリシアは噴水の縁にこしかける。
クガもその近くに座る。
クガは腹も減ってきていたので、にぎりめしを取り出す。
「アリシアも食べるか?」
クガは一応、聞いてみる。
だが、アリシアは燃費がいいのか、食事はかなり少なくても割と平気なようだ。
だからと言って、食べられる量がすごく少ないというわけでもない。
人間界ではラーメンに添えられたご飯も食べていた。
少なくても平気だし、食べても平気な割と便利な胃袋をしているのだ。
「んー、朝、ウルトラエネジードリンクを一発決めてきてるから、まだ割と大丈夫ではあるのだが……」
ウルトラエナジードリンクとはクガの血のことだ。
「でも…………一つ、いただこうかな。クガの分が減るが大丈夫か?」
「あ、おう……多めに持ってきてるから大丈夫だ」
その日は珍しくにぎりめしを貰うことにしたようだ。
アリシアはクガからにぎりめしを受け取ると、はぐはぐと食べ始める。
「おー、なかなかうまいなこれ……! いつもクガが食っていたからどんな味がするのかちょっと気になっていたんだ」
「そうか……? 典型的な男飯だけどな……」
クガはそんなことを言いながら、自分もにぎりめしをもぐもぐと食べる。
「あれかな? 外で食べると普段より美味しく感じるのだろうか?」
「そうかもな……あとは疲労してるってのもあるかもな」
「なるほど……!」
アリシアは相槌を打つ。
「でも、一番は…………君と一緒だからかもしれないな……」
「っっ……!」
アリシアが唐突に言ったその言葉にクガははっとする。
「…………そうかもな」
だが、照れくさそうにしつつもクガもそう返す。
【あのぉーーー、配信停止してませんけど】
【噴水の音でコメントが聞こえてないんじゃね?】
【くそっ、見せつけやがって】
【ちょっと横になります】
【チャンネル登録解除定期】
やがて噴水の流量が少ないタイミングになる。
「ぶほっ!」
クガはコメントに気が付き、激しくむせるのであった。
【あ、気が付きやがった】
【おかしい……画面が見えない。故障かな?】
【それ、お前が画面破壊したからやろ】
と、その時であった。
「お、お二人のところ、失礼……」
別の人物が二人に声を掛ける。
その人物は、身長は160センチくらい。身軽そうな装束に身を包んでおり、目元ははっきりとしているが、口元はマフラーのようなもので隠している。
中性的な顔立ちをしており、一見すると性別が不明だ。
「あっ……! アイエもん!」
アリシアがその人物の名前を呼ぶ。
そこにいたのはS級パーティの一角、あいうえ王のアイエであった。
「おー、アイエもん、なんかちょっと久しぶりな感じがするなー」
アリシアはそんなことを言う。
【おぉおー! アイエだ!】
【確かに、吸血鬼さんをドラゴンのところまで送ってくれた時以来だな】
【その後、なにしてたんだ?】
「アイエさん、無事でよかったです」
クガもアイエの姿を見て、ほっとしたようにしている。
実はドラゴンを倒した後、クガはアイエに連絡した。
だが、「大丈夫だよ」とだけ帰ってきただけで、その後、どうしたのか分かっていなかったのだ。
【でもアイエが魔物の街にいるってことは……】
「あ、えーと、うん。ぼ、僕も吸血鬼さんと堕勇者さんをドラゴンの部屋に送り出した後、残っていたボス部屋にいってみたんだ。そこにはリヴァイアサンがいてね……それでさっきまで掛かっちゃったんだけど、な、なんとか倒すことができたよ」
【リヴァイアサン……!?】
【まじかよ、すげぇえええええ!】
【さっきまでって、どれだけ長期戦やってたんだよ】
【しかもたった一人で……!?】
【どんな戦い方したんだ……】
【ちなみにこれだけは確認させていただきたいのだけど、リヴァイアサンの色は……色はなんだったの!?】
「ん……? あ、青だったよ」
【うぉおおおお! やっぱり青じゃねえか】
【リヴァイアサンは青! 言っただろ!】
【ってか、アイエが史上二組目のSS級パーティってことだよな!】
【そりゃそうでしょ!】
【パーティってかソロだけどな笑】
【おめでとうー!】
話題はすっかりアイエのことで持ち切りだ。
「え……ということは、アイエさん、あのメッセージくれたとき、戦闘中だったのでしょうか?」
「え、まぁ、そ、そうだね……」
「っ……!」
クガはアイエの底知れぬ実力に絶句する。
サムライもそうであるが、この人もまた怪物であると。
「え、えーと、それでなんか50層に来て、吸血鬼さんと堕勇者さんのの配信を観てたら、上層を探してるみたいだったから、ぼ、僕も二人のお手伝いをしようかと思って来てみたんだけど……」
「いや、なんかすみません……」
アイエが50層に来て、すぐに自分達の配信を観てくれたということに、クガはなんだかちょっと申し訳なくなる。
更にすぐに協力に来てくれたということで恐縮しきりだ。
「あの……アイエさん、さっき倒して来たばっかりとおしゃってましたし、流石に少しは休んだ方がいいんじゃ?」
「あ、あー、いや、最後の方は休憩してただけだから、む、むしろ体調はいい方だよ」
【最後の方は休憩してた?】
【いや、だからどんな戦い方してたんだよ!】
【毒殺とかかな……】
【間違いなくネチネチやるやつだよ】
【ブルブル……】
【詳細はわからないが、なんだかリヴァイアサンが可哀そうに思えてくる恐怖……】
「そ、そうですか……」
言いたいことは全部、リスナーがいってくれたが、クガもリヴァイアサンに少し同情してしまう。
そんなところへ……、更に追加で人間が現れる。
「おー、アイエくん、久しいな」
それはサムライの刀聖、サナダであった。
「あ……サナダ?」
【おぉ、レジェンズの邂逅か】
【二人は面識あったっけなぁ】
【さてさて、どうなるか】
「サナダ、生きてたんだね。おひさ」
「え? リアクション薄っ!」
サナダはアイエの反応があまりにあっさりしていたため、ちょっとショックを受ける。
「そうかな、こんなものじゃないか」
アイエはあっけらかんとしたものである。
しかもアリシアやクガと話す時よりもなぜかきょどっていない。
「それで、サナダは何しに来たの?」
「あ、いや……クガくんと吸血鬼くんが上層へとつながる道を探しているっていうからちょっと助言に来たのさ」
「ん? なんだ? サナダ虫、何か知っているのか?」
「あ、吸血鬼くん、その呼び方、固定なんだ……」
アリシアに前回呼ばれた変な呼称をもう一度呼ばれ、サナダはちょっとだけ傷ついた様子を見せ、
「僕もアイエもんみたいな可愛いあだ名がよかったな……」
などと言っている。
【サナダ虫……】
【なんか妙にしっくりくるあだ名だな】
【俺も使っていこうと思う】
幸い、コメントはサナダには届いていない。
「で、どうなんだ? サナダ虫、何か知っているなら是非とも教えていただきたいのだが……」
「…………まぁ、いいよ。減るものでもないし」
「えっ! 本当にいいのか……!?」
「あぁ、そうだな。お近づきの印ってやつだ……」
◇
「おぉー、本当にあった!」
魔物の街の外れにある岩山の一角に祠のようなものがあった。
サナダはそこにクガ、アリシア、アイエの三人を連れてきていた。
内部は洞穴になっており、少し奥まったところに確かに上へとつながる階段があった。
「吸血鬼くん、ここを見つけるのに半年はかかったんだ。少しは感謝してくれよ?」
「おぅ! サナダ虫、恩に着る! お前、結構、いい奴だな」
「はは……ありがとよ……」
アリシアの好感度が上がったようで、サナダは苦笑いする。
【こんなところにあるんだなぁ】
【いやはや、急展開だな】
【この上には、一体、何があるのだろうか……】
【わくわく】
リスナー達も盛り上がっているようだ。
「えーと、サナダ虫よ、早速行ってもいいのだろうか?」
「あぁ、まぁ、構わないさ。ただ、まぁ、しっかり戦闘の準備はしておけよ。俺が案内できるのはここまでだ」
サナダは静かにそう告げ、クガは息を呑む。
「戦闘の準備はいつでも万端だ! よし、行くぞ! クガ……!」
「あ、あぁ……」
サナダの忠告にもアリシアは全く躊躇はないようだ。
「あ、アイエもんも一緒に行くか?」
「そ、そうだね……吸血鬼さんが嫌でなければ同行させてもらうよ」
「嫌なもんか。アイエもんには何かと世話になっているからな! 共に行こうではないか!」
「あ……うん……」
アリシアに受け容れられ、アイエは嬉しそうにする。
「よーし、それじゃあ、出発進行だ!」
そうして、クガ、アリシア、アイエは階段を昇り始める。
階段は一方通行であった。
そして、しばらく昇っていくと、神殿のような場所に辿り着く。
「おぉー、何やら立派な神殿じゃないか……!」
アリシアは興奮気味だ。
階段は神殿の扉とつながっていた。
「よし……! 入るぞ……!」
アリシアは大して警戒することもなく、その扉を開けてしまう。
「……」
クガは黙ってアリシアに付いていっていたが、少しだけ違和感があった。
【おぉ、ついに上層51層に進出するというわけだな】
【俺達は歴史の証人になるってわけだな!】
【んー…………でも、なんかちょっと違和感が】
【実は俺も……】
【ん……? なになに……?】
【なんかさ……この神殿の雰囲気、ちょっと既視感ない?】
【え……?】
「よっしゃー! 行くぞーーーー!」
アリシアは扉を開け、意気揚々と進んでいく。
その先は、開けた広間へとつながっていた。
「ん……?」
「「「わん王?」」」
その広間の中央にいた巨大な犬が後ろを振り返って不思議そうにこちらを見つめている。
モフモフした毛皮に包まれたその巨大な犬は少し変わっていて、頭が三つある。
【え……? こいつって……】
【……巨大な犬】
【ケル……ベロス……?】
【でも……すっごく可愛い……】
【じゃあ、ケルベロスとちゃうやろ!】
【でも頭が三つある犬】
【ケルベロスやないかい!】
【えぇえええ!? SS級ボスのケルベロス!?】
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【SS級ボスリスト】
・ベヒーモス ← パーティ〝サムライ〟に撃破された
・ドラゴン ← クガ、アリシアに撃破された
・リヴァイアサン ← パーティ〝あいうえ王〟に撃破された
・天狗
・悪魔
・ケルベロス ← こいつ
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「SS級ボスのケルベロスがここにいる……えーと、つまり……」
クガは頭を悩ませる。
「つまり、魔物の街から上に行くと、双頭ダンジョンの地下49層につながってるってことかな」
アイエが核心に迫る。
【え……? まじ……?】
【逆に言うと、地下49層から下に向かっても魔物の街につくってことか?】
【つまりループしてるのか……!】
そういうことであった。
「どうする? アリシア……?」
クガとしては、正直に言ってしまうと、少し拍子抜けではあった。
未知の領域へ繋がっていたわけでもないし、なんならラスボスへの数少ない候補が減ってしまったのだから。
だが……、
「み、見ろ……! クガ……! モフモフだぞ! わんわんおだぞ!」
アリシアは目を爛々と輝かせている。
【そういえば、吸血鬼さん、SSボス選ぶとき、第一候補はドラゴンだったけど、ケルベロスも捨てがたいとかなんとか言ってたよな】
【可愛げのある奴なら眷属にしてやろうとも言っていたような……】
「「「わん王……」」」
ケルベロスにコメントが届いているわけはないのだが、何か身の危険を感じ取ったのか身震いしている。
「行くぞ……! クガ、アイエもん! 奴は私の眷属にする!」
「あー、はいはい……相手はああ見えて、SS級だぞ、油断するなよ」
「ふふ……それでこそ吸血鬼さんだ」
そうして、アリシアは無事にSS級ボスのケルベロスを眷属にすることに成功するのであった。




