第1章「陰キャ令嬢、目覚める」 1-4 ささやかな革命(前編)
――革命とは、誰かが声を上げた瞬間に起きるものではありません。
その兆しは、もっと些細で、もっと見過ごされがちな“違和感”から始まりますの。
教室の空気が、微かに変わっていた。
「ねえ、最近……如月って、話すようになったよね」
「しかも、佐伯さんと仲いいし……なんか、前と違わない?」
「地味ーズかと思ってたのに、なんか妙に存在感あるっていうか……」
そんな、誰ともなく交わされる会話。
かつて“空気”そのものだった私が、今は“違和感”として浮上している。
けれど――それでいい。
違和感は、いずれ空気の一部となり、空気を染め、空気を変える。
それが“ささやかな革命”の第一歩ですわ。
◇ ◇ ◇
昼休み。
私は、佐伯ひなたと山崎を引き連れ、教室の隅で小さな“戦略会議”を開いていた。
「さて、今日は次なる候補の洗い出しからですわね」
「こ、候補って……?」
山崎が挙手のような動きで手を挙げた。
「人材確保ですわ。ひなたは観察を、あなたは情報整理を。私はその判断を担当しますの」
「マ、マジでなんか組織みたいになってる……!」
「なっているのではなく、“始まった”のですわよ。革命が」
「出た! 革命!」
「ふふ、慣れてきましたわね」
私は微笑んで教室を見渡した。
私たちの席の周囲には、なぜかぽっかりと空間ができている。
誰も近づかない。けれど、誰も無視できない。
それはまるで、“玉座”のように扱われた静かな空間。
「……琴音」
隣に座るひなたが、小声で言う。
「窓際の男子──君島。今日、教科書落としたときに拾ってくれた。目立たないけど、話し方、落ち着いてる。気になるかも」
「観察、上々ですわ。もう少し様子を見ましょう」
一方、山崎が手帳を取り出して言う。
「えーと、君島は中学では図書委員で、クイズ研究会の部長だったらしいです。あと、永田とは小学校からの幼なじみ」
「なるほど、個と個ではなく、“対”で捉えるべきですわね」
情報は武器。
今の私たちは、名刺も肩書きもない。
けれど、誰と誰がどうつながっているか、それを読み解く力があれば、自然と“扇の要”は握れる。
……ふと、私は背後の気配に気づいた。
「……」
教室の入口、廊下の影。
制服を着崩さず、眼鏡をかけた長身の女子生徒が、こちらを見ていた。
口元は動かず、けれど明らかに“観察”している。
「……誰?」
「たぶん……二年生の生徒会副書記。七瀬紗良、って人だと思う」
と、ひなたがそっと言う。
「生徒会……?」
「この前、掲示物の差し替えに来てたとき、目が合った」
「なるほど。彼女もまた、風の変化を感じ取った者ですのね」
琴音はにこりと笑い、見返す。
それは、狼煙を上げた者に向けた“返礼の視線”だった。
このささやかな革命が、ついに“外”にも波紋を広げはじめたということ。
革命とは、誰かを倒すことではない。
目に見えない“空気”を変え、人々の認識を染め直すこと。
それは、始まったばかり――。