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第1章「陰キャ令嬢、目覚める」 1-2 地味な教室、華やかな目線(前編)

「……それでは、次のホームルームの係決めを始めます」


担任の女性教師が、黒板に「HR係」「掲示係」「風紀係」などを書き出していく。

放課後の教室。疲れた空気の中、ざわめきが生ぬるく漂う。


私は椅子に深く腰かけ、目を細めて周囲を見渡していた。


――なるほど。これが、現代の“貴族制度”ですのね。


すなわち、スクールカースト。


身分制度を廃したと言いながら、結局人間は上下関係を作りたがる。

美貌、運動神経、社交性。

階級の証が貴族の血から、体育の得点やフォロワー数に変わっただけ。


それでも尚、そこに生まれる“空気”は変わらない。

誰が主で、誰が従か。

誰が人を選び、誰が選ばれるのか。


「山崎」


私は隣に座る忠実な“従者”へ声をかける。

先ほど淹れてきたコンビニの緑茶を、緊張気味に差し出してきた男である。


「き、琴音さん……あの、さっきの“従者”って冗談だったり、します?」


「冗談を言う相手と、私は言葉を交わしませんわ」


「……はい……」


不憫な子ですこと。でも、使える男。忠誠心と観察力は育てがいがある。


「このクラスで、最も発言力のある女子は誰?」


「え……それってやっぱ、一ノ瀬さんじゃないかな。生徒会長だし、成績も運動もトップで……男子からも女子からも好かれてるし」


「なるほど。ならばその者が“頂点”なのですね」


「え、なにその言い方……こ、琴音さんって、なんでそんな“支配者目線”なの……?」


「支配している者は支配など意識しませんのよ。あなた、紅茶の入れ方をそろそろ覚えなさい」


「……あ、はい」


ふふ。

徐々に慣れてきたようですわね、この子。

最初に“命令”する相手としては悪くなかった。


私は再び教室を見渡す。


グループの中心に座る派手な髪の女子たち。

それを囲むように笑う男子たち。

教卓の前には、まるで使い魔のように教師の指示を待つ“真面目”系。

そして、誰とも関わらず窓の外を見ている、あの“壁”たち。


分断。階層。沈黙。従属。

現代とはいえ、まるでサロンの縮図ですわ。


けれど、決定的に違うものが一つある。


それは――“誇り”の存在しない、服従の空気。


誰もが上を見て笑い、下を見て黙る。

自らの地位を誇る者すらいない。

“与えられた役割”に甘んじるばかり。


つまらないですわね、本当に。


ならば私が、その秩序を作って差し上げましょう。


新たな“序列”を。この教室に、本物の“頂点”を。


私は口元を吊り上げる。


「学園カースト? まるで“育ちの悪い貴族ごっこ”ですわね」


誰にも聞こえない声で、そっとつぶやいた。


だが、その時――


「……へえ、面白いこと言うじゃない」


教室の入り口。そこに立っていたのは、完璧な笑みをたたえたひとりの少女。


艶のある髪、整った制服、自然体で人を圧倒するオーラ。


山崎が、そっとつぶやく。


「……あれが、一ノ瀬美月」


私は、まっすぐその目を見返す。


そう。ようやく出てきたのね。

この教室、この学園の“仮初の女王”が。


歓迎いたしますわ。


本物の女王として、あなたを越えてみせましょう。

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