別れを告げたのは私だ
普通の日だった。一緒にファミリーレストランでご飯を食べ終わったタイミング。
「別れようか」
そう言ったのは私からだった。何かが決定的にずれている感覚が拭いきれなくて。その違和感を放置できなくて。
そんな耐えきれない感覚は、私の口を軽くした。決意などできていなかったのに、いとも簡単に言葉は転げ落ちた。
「分かった」
全く躊躇う様子もなく彼が頷いたことに、グサリと胸を刺された気がした。
しかし、それはなかったことにした。どうせ、時間とともに消えゆくものだ。
別れたところで何も変わらない。そう思っていた。
それなのに。なぜ、物足りなさがあるのだろう。なぜ、私の視線は彼を探しているのだろう。
その答えは見なかったことにした。どうせ無駄なものだから。何も生み出さないから。
この世には、男が星の数ほどいる。そんなことは知っている。
それなのに。なんで私の時間は止まったままに感じるのだろう。
彼しかいない、などと嘘でも思えない。それなのに、この世が錆びついて見えるのはなぜだろう。
うまれてくる疑問は放置し続けた。考えても無意味だ。
ベッドに倒れ込むように寝転がった。天井を見ながら思う。
後悔のない選択って難しい。
自分を巣食う空虚とともに、私は今日も呼吸を続ける。