異世界人を助けました
朝になり双子は元に戻っていないか確認に出てみると、お店の入り口の前に傷だらけの二十代位の男性が倒れていた。
「かな君は危ないから離れていて、俺が近づいて確認してみるから」
「気を付けてね」
彼方が恐る恐る近づいて確認してみると、傷だらけの男性は辛うじて息をしている。だが、このままでは死んでしまうだろう。
「息はしてる。でもこのままでは危ないから俺達の居住地に運ぼう。かな君、手伝ってー」
「あ、うん!」
倒れている男性は身長が185㎝ほどあり彼方は身長が165㎝ほどしかない為、1人では運べないから奏に手伝ってもらうしかないのだ。双子の居住地は銭湯の裏手にあり、居住地も銭湯同様に転移してきている。
傷だらけの男性は彼方が頭の方を持ち、奏が足のほうを持ち居住地に運び入れた。運んでいる最中傷だらけの男性は意識は無くしたままだった。
「おっもかった!!かな君桶に水とバンドエイドとガーゼと包帯準備してくれる?」
「うん」
奏は戸棚から救急箱を取り出し、桶に水を入れて彼方がいる所に持って行った。
「この人よくこんな状態で生きてるよね。私もう死んでるかと思ったよ」
「俺達とは違う身体の構造してるのかもね」
双子は手分けして治療を行った。双子は地球で普通の高校生だった為、簡単な治療しかできないので目を覚ますかはこの男性の治癒力次第になる。
「かな君この人見ててくれる?俺銭湯の清掃してくるからさ」
「わかった。よろしく」
彼方はいつお客さんが来てもいいように清掃とお湯の入れ替えをしに行った。奏は見知らぬ怪我人と2人きりになってしまったので少しだけ気まずい。
「う…….、ここは?」
「え、こんな酷い傷でなんで目が覚めるの?!」
普通の人間なら目を覚まさないのにこの男性はなんと目を覚ましたのだ。奏が目を覚ました男性と2人きりにオロオロしている時、彼方は口笛を吹きながら掃き掃除をしていた。
「君は?」
「私は星輝奏」
「ホシーキ・カナデ?不思議な名前なんだな」
「奏が名前で星輝が……家名だよ」
こちらの世界は地球の外国と同じで苗字が後ろみたいだ。恐らく彼方と奏もこちらの世界では珍しい響きの名前だろう。
「で?貴方は?」
「私はグランという。家名は……すまないが言えない」
「あそ。というか、なんでグランさんは傷だらけでうちの店の前に倒れていたの?」
奏は気遣うというのがとても苦手で、普通の人なら聞かないこともズケズケと聞いてしまう少し残念な子だ。それでよく彼方に相手の気持ちをよく考えなさいと怒られている。
「色々動いていたら、な……それにしても、ここは不思議な所だな」
グランは寝かせられている部屋を見渡して不思議そうにしている。それもそうだ、異世界にはエアコンもテレビもパソコンもないのだから。
「そう?」
「ああ」
2人が話していると彼方が銭湯の清掃を終えて戻ってきた。
「え!!傷だらけの男の人なんで目覚めてんの?!普通こんな大怪我なら暫く目覚まさないでしょ!というか、かな君!この人が目覚ましたなら教えてよ!」
彼方は省かれたから怒っているのではなく、奏が動けないとはいえ知らない男性と密室で2人きりになっているのを怒っている。奏は大雑把なので彼方が人一倍奏の心配をしているのだ。
「あ、ごめん」
「もう……で?貴方は?」
「同じ顔……あ、私はグランという」
グランは彼方と奏の顔を見て驚いていた。異世界では双子の出生は極めて稀なのと、国によっては忌避とされている為片方が処分されてしまう。
「グランさんね。俺かな君の双子の兄の彼方ね」
「兄?!女性ではないのか??」
グランは彼方が男と知ってとても驚いているが、それは地球でも同じような反応をされて来たので彼方はまたかと思っていた。まあ、奏が男の子みたいな格好をしているのも相まって彼方が女の子みたいに見えてしまうのだ。
「これでもれっきとした男だよ。あ、ちなみにかな君は女の子ね」
「カナデが女性……これは冗談では無いのか?」
「ほんとほんと。そろそろお昼にしよう。かな君頼める?」
奏では彼方に「分かった」と言い、キッチンにお昼を作りに行った。彼方も料理は出来るが、奏の方が料理上手でめちゃくちゃ美味しい。
「カナタよ助けられた身で言うのもなんなのだが、見ず知らずの者を安易に助けるべきでは無い。私だったから良かったものの」
「あ、大丈夫。俺こう見えても中々強いよ?俺こんな見た目だから弱いと思われがちだけど自分の身を守れるくらいの強さはあるよ」
彼方は空手の黒帯を持っていて、世界に名をとどろかせるくらい強いのだ。
「そうか。ここには君達だけか?」
「そうだよ。親は僕達を捨てたからいないよ。」
「……そうか」
「あ、でも気にしないで。親は糞だったけど、祖父母はちゃんとした人だったから。それに、かな君もいたから寂しいとかないよ」
双子が親に捨てられた事を言うと皆同じような反応をするが、祖父母にはちゃんと愛して貰えたし、彼方には奏が、奏には彼方がいたから寂しいとか思ったことなどない。
「かなちゃん、グランさんご飯出来たよ」
奏は卵がゆとチャーハンを持って2人の所に戻って来た。ご飯も食べ終え双子は銭湯を開店するため、お店に向かった。グランにはそのまま寝ててと伝えた。