第十敵
J「おじさ〜ん、お金貸してよ〜」
俺「は?」
J「タバコ買えるだけでいいからさ〜
今日財布忘れちゃってさ〜」
俺「いや貸さないよ
財布取りに帰ればいいんじゃない?
それに君、未成年でしょ?
非行に協力する気はないよ」
J「え〜、ちょっとくらいいーじゃん!」
K「おい、どうした?
このおっさんに何かされたのか?」
J「あ、よかった!
実はそうなの!
アタシこいつに痴漢されたの!」
俺「……はぁ?」
K「テメェ、オレの女に何してくれてんだコラ
覚悟はできてんだろうなぁ!?」
俺「いや何言ってんの君ら……
コンビニの前で防犯カメラ回ってるし、
そういうのやめといた方がいいよ?」
K「うっせーんだよ!
おい、バット持ってこい!」
L「うぃ〜っす
バットのお届けで〜っす」
M「……ホーーーッムラン!!」
N「ギャハハ!こいつ鼻血出てる!」
O「歯も吹っ飛んだ!うわ痛ったそ〜!」
P「……ゴーーーッル!!」
Q「ハットトリック決まりましたぁ〜!」
R「これ再生数伸びるわ〜!ちゃんと撮れてっかー?」
S「なんだこいつ千円しか持ってねーのかよ」
T「どうせ無職のおっさんだろ?」
U「社会のゴミじゃん」
V「おい、なんかこいつ……息してなくね?」
W「まさか……死んだりしてないよな……?」
X「オレは軽く小突いただけだし……」
Y「お、お前らビビってんの?オレら未成年だし大丈夫……だろ?」
Z「それに……生きてる価値の無いクズを掃除しただけだよな!」
その日、俺は死んだ。
後日、あの少年たちも死んだ。
死んでくれないとおかしい。
いつだってそうやって乗り切ってきた。
世の中には嫌な人間なんてごまんといる。
いちいち構っていたらキリがない。
寿命、事故、病気、自殺……。
理由はなんだっていい。
人間なら誰しも、いつかは必ず死ぬ。
いつかの後日、その時が訪れる。
ただ、どうして俺なんだろう。
他にもっと、先に死ぬべき奴がいるのに、
なんで真面目に生きてきた俺が……。
こんな結末を迎えるくらいなら
たとえ周りからどう思われようと、
あの連中のように好き勝手生きるべきだった。
内なる敵はいつだって「耐えろ」と囁いてきた。
だが、忍耐は美徳なんかじゃない。
他の人間も我慢してるからなんだというんだ。
俺は嫌だった。
その気持ちと向き合うべきだった。
だから俺の人生は退屈なままだった。
……考えたって仕方がない。
もう死んでしまった以上、
それを受け入れるしかない。
ただ、もし、万が一……、
あのくだらない連中に報復できるのなら、
たとえこの魂が地獄へ落ちようとも
俺はその道を選ぶだろう。
俺「──ここは?」
?「気が付きましたか?
ここはあなた方が言うところの死後の世界……分岐点です」
俺「分岐点……?」
?「受け入れるのは難しいでしょうが、
残念ながらあなたは死にました」
俺「……それで、あなたは何者なんですか?」
?「私は神……ではなく、魂の案内役です
死んだ者たちがその後どうしたいのか、
道を指し示すのが私の役目です」
俺「なんだか自分で選べるような言い方ですね」
?「ええ、その通りです
死者が前世でどんな行いをしようが
私は知り得ませんし、裁く権利もありません
また、天国や地獄といったものはありません
似たような世界は存在しますけどね」
俺「……どんな道があるのか教えてもらえますか?」
?「ええ、それが私の役目ですから
……まずはこのまま現世に留まり、
幽霊となって過ごすという道ですね
基本的に何もすることはできませんが、
例えば大切な誰かの人生を見届けたい、だとか
現世に心残りがある方には人気のプランです」
俺「プラン……」
?「次は、悪霊となって現世に残るプランですね
幽霊とは違い、物質への干渉が可能です
現世での恨みを晴らしたい、という理由で選ぶ方が多いです
ただし、魂の消耗が激しいので数日しか持ちません
干渉できる力には個人差がありますが、
復讐のチャンスがあるのはこのプランだけですね」
俺「魂が消耗するとどうなるんですか?」
?「最終的には完全に消滅して“無”になります」
俺「じゃあそれで……」
?「待ってください
まだ他のプランの説明が残っていますので、
最後まで聞いてからでも遅くはありませんよ」
?「…………最後にご紹介しますのはこちら、
“異世界転生・記憶あり・チートあり・貴族生まれ”コースですね
このコースを選んだ時点で現世との繋がりは完全に断たれますが、
新たな人生を思う存分エンジョイしたいのならオススメですよ
少し前までは若者の希望者が殺到していたのですが、
最近では中高齢の方も増えてきていますのでご安心ください」
俺「えっと……どうしよう…………」
?「……実は今ちょうど、異世界で死にかけている赤ん坊がいます」
俺「えっ」
?「その彼は千年に一度現れるかどうかの莫大な魔力の持ち主なのですが、
自身の魔力が強すぎるがゆえに母体へ悪影響を及ぼしているんです
このままでは生まれてくることすらできずに命を落とすのは確実ですが、
転生ボーナスを持ったあなたが魔力を制御すれば助かると思います
……どうです?こんなチャンスは滅多にありませんよ?
人命を救助しつつ、新世界で何不自由なく生き直せるんですよ?」
俺「命を救う……か」
?「彼自身の魔力とあなたに与えられる転生ボーナスが合わされば
世界を創造する神にも、恐怖で支配する魔王にもなれるでしょう
どうぞこの機会をお見逃しなく……!」
俺「……じゃあ、そのコースでお願いします」
そして、俺は生まれ変わった。
後日、彼は魔王になった。




