エピローグ 現実は小説よりも奇なり
竹内の研究発表を聞き終えた神無は寮の自室に戻るとベッドに座りそのまま仰向けに倒れた。そして目を瞑り数十分前の事を思い出す。
竹内の説明に足りてない所がいくつもあったが今後も続けるなら正解にたどり着くだろう。
十日条は中学二年のころから去年まで一人で研究していたモンティ・ホール問題の事を振り返る。
モンティ・ホール問題でやってるゲームの当たる確率は1/2と考えるのが普通だ。では何故そうじゃないと考えられているのかと言えばこの問題には特別な条件が有るからと言われている。
この『特別な』条件というのは前提条件と言われているものでモンティ・ホール問題を説明するには不可欠な要素で『数学者が間違えたのは条件の提示がきちんとされてなかったからだ』と言う人もいるくらいに大事なものだ。逆に言えばその特別な条件がなければ当たる確率は1/2になる(『特別な』条件という表現は1/2の理屈にも必要となる前提条件があるためそれらと分けるためだ)。
つまりモンティ・ホール問題は【1/3から1/2になる理屈に特別な条件を付けることで変化する事を証明する問題】と言える。なのでこの問題を正しく証明するには以下の説明が必要になる。
①:条件の無い時に1/2になる理屈を説明する。
②:特別な条件がどのように作用するのか説明をする。
③:変化した部分が結果をどのように変えるかの説明をする。
しかしモンティ・ホール問題の全ての説明は①の説明が無い。それでは変化してる事の証明とはいえ無いのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1/2の理屈を簡単な論理を使って説明すると以下のようになる。
プレイヤーは扉を選ぶ時に『それぞれの扉の当たる確率は等しい』と考える。なので、
A=B=C
となる。そしてこれは次のように言い換えることができる。
A=B B=C A=C
ここで仮にプレイヤーがAの扉を選び司会者はCの扉を開けて外れだとした場合は次のように変化する。
A=B B≠C A≠C
Cが外れ(当たる確率は0)と判明しただけなのでAとBの当たる確率が等しいままなのは当然だ。このCは外れでA=Bの状態が当たる確率1/2ずつで扉を変更しても当たる確率は変わらないとなる。
今の説明に『全体の確率は1』という考え方を当てはめると、
A+B+C=1
そしてそれぞれの扉の当たる確率は等しいので、
1÷3=1/3、A=B=C=1/3
となる。次にCがハズレと判明したら、
A=B=1/3、C=0
そして全体の確率は、
A+B+C=2/3
と、変化する。あとはプレイヤーの選んだ扉の当たる確率を変化した全体の確率で割ると、
1/3÷2/3=1/2
となる。要は扉の当たる確率は変化した全体の確率の半分になる。よってプレイヤーの選んだAの扉(とBの扉)の当たる確率は1/3のままで1/2になったと言えるわけだ。
ここで『全体の確率が変化する』ことと『開けられなかった扉の当たる確率を変化した全体の確率で割ることで、司会者が扉を開けた後の残った扉の当たる確率を求めるやり方』は正しいのか疑問に思うかもしれない。だがそれは扉を開けていない場合と扉が一つだけ残った場合を同じ様に計算して出た結果が状況と一致している事で論理的に正しいとわかる。
まず扉を開けていない場合は論理的に考えて扉を変更しても何も変化が無いということだ。計算では一つの扉の当たる確率1/3を全体の確率1で割ると1/3という結果が出る。この結果は変化が無いという論理と一致している。
そして扉が二つ開けられて残りは一つになった場合は論理的に考えて当たりは一つ残った扉に有ると断言できる。計算では残った扉の当たる確率1/3を変化後の全体の確率1/3で割ると1という結果が出てこれも論理と一致している。よってこの計算方法は正しいと言える。
1/2の理屈を統計で考えると次のようになる。
ゲームの回数を3000回とするなら前提にある『それぞれの扉の当たる確率は等しい』事から各扉から出る当たりの数はおよそ1000ずつだ。Cの扉が外れだった場合Cの扉の外れる確率は2/3なので、
3000×2/3=2000
になる。そして残りの二つの扉の当たる確率は等しいままなので、
2000÷2=1000
となり二つの扉はどちらも当たる確率がおよそ1000/2000で1/2になる。
ここで注目すべきは開けられなかった二つの扉の当たりの数が外れの扉を開ける前と後で変わらずにおよそ1000のままだという所だ。なので当たる確率が上がるといっても当たりの数が増えるわけではなく全体が変化して相対的に上がっているだけだ。よって外れの扉を開けた後も総数(3000)の観点からは1/3のままだ。だから1/3のままで1/2になったと言えるわけだ。
以上が1/2の理屈になる。
◆ ◇ ◇ ◇ ◇
1/2の理屈からこのゲームの大事な基本を考える。それは『何を以てプレイヤーの当たる確率としているのか』だ。
ゲームが始まりプレイヤーが扉を選ぶ時まずは当たりがどの扉に有るのかを考える。しかしどこに有るのか、もしくは無いのかを確定させることはできず三つの扉全てに当たりが有る可能性がある。なのでそれを数学で予測することになる。
『どこの扉にあるのか』というのは『ゲームが始まる前にどの扉に置いたか』で決まる。なので三つの扉のどこに置いたかを考えるがこの時どこに置いたかの確率は等しいと考えるので1÷3で三つの扉全ての当たりが有る確率は1/3となりプレイヤーはどの扉を選んでも当たる確率は1/3になる。
つまりプレイヤーの『当たる確率』はどの扉に当たりが有るのかを考えて、プレイヤーが選んだ扉に当たりが有る確率がプレイヤーの当たる確率になるということになる。
これは三つの扉それぞれの当たりが有る確率が異なっていると解りやすい。例えば当たりが有る確率が1/2・1/3・1/6と違うなら選ぶ扉によってプレイヤーの当たる確率も変化する事からよく解るだろう。
よってこのゲームは何を以て挑戦者の当たる確率としているのかといえばプレイヤーが選ぶ扉に当たりが有る確率ということになる。
◇ ◆ ◇ ◇ ◇
1/2の理屈と何を以て当たる確率とするのかが解ったので次はモンティ・ホール問題の二倍になる理屈との違いについて考える。
○プレイヤーが扉を選んだときその扉の当たる確率は1/3でそれ以外の二つの扉の当たる確率は2/3になる。司会者がプレイヤーの選ばなかった二つの扉の内の一つを開けた後もプレイヤーの選んだ扉の当たる確率は1/3のままなので、もう一つの扉に司会者が開けた扉の当たる確率が集中して2/3になる。
この説明を正しいとする人はプレイヤーが扉を選択した時にプレイヤーが『選んだ扉』と『選ばなかった扉』に分けてそれぞれの当たる確率を考えて、この時の当たる確率の見方を根拠として司会者が開けた扉の当たる確率がもう一つの選ばなかった扉に集中するとしているが理屈としてはおかしなものだ。
選ばなかった扉の当たる確率が2/3なのはあくまでも当たる確率1/3の扉が二つあるからそれらの合計が2/3になるのであって、司会者が一つ扉を開けて外れと判ってその後も『選ばなかった扉』の当たる確率(の合計)が2/3だとするのは無理がある。
他には余事象での考え方で司会者が外れの扉を開けた後も全体の確率は1なので、その1からプレイヤーの選んだ扉の当たる確率1/3を引いて残った2/3がプレイヤーが選ばず司会者が開けなかった扉の当たる確率としている人がいる。
だが1/2の理屈からも解るように司会者が扉を開けた後は全体の確率は変化するのが普通なので、司会者が扉を開けた後も全体の確率が変わらずに1とするならまず先にその証明が必要なので説明としては大事な部分が足りてないとなる。
この余事象での考え方はおそらく次の二つの前提から成り立っている。
①司会者が扉を開けた後でも全体の確率は開ける前と同じ1である。
②司会者がプレイヤーが選んだ扉以外の扉を開けた後でもプレイヤーの選んだ扉の当たる確率は開ける前と同じ1/3で変わらない。
この二つの前提からプレイヤーが選んでいないもう一つの扉の当たる確率を出しているのだろうが、この二つの前提はある状況では矛盾してしまう。その状況とはプレイヤーが選ばなかった扉が全て開けられて外れと判ったときだ。
1/2の理屈では②は同じものの①の全体の確率は変化すると考えている。なのでプレイヤーが選んだ扉だけが残ったら全体の確率も同じになり残った扉の当たる確率が1になる。しかし余事象の考え方では全体の確率は1なのに残ったプレイヤーの扉は1/3のままなので残りの当たる確率2/3がどこに有るのかの説明ができないことになる。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
二つの意見のおかしな点や足りてない所を指摘したが、実はこの考えは統計の観点から絶対に無いと否定できたりする。
特別な条件は以下のものがある。
①司会者は当たりの扉がどれかを教えられている
②司会者は挑戦者が選ばなかった二つの扉のうち一つ開ける
③司会者は当たりの扉は開けない
これらの条件の下で司会者は扉を開けるのだが、当たりの扉を知っていてそれは開けないというのとは『当たりの扉に干渉しない』ということになる。
つまり『1ゲームの結果として開けられる当たりの扉は、ゲームの前に当たりが設置された扉と同じ』ということになる。これでは残った扉に当たりがある確率は1/3のままだし統計では『ゲームが始まる前に当たりをどの扉に置くかの確率は等しい』がそのままデータに表れるだけでどの扉も当たりが有る確率は1/3から変化はない。
よって司会者が開けた扉の当たる確率が残った扉に集中することは無いという結論になる。
※扉を増やすと直感的に分かりやすいという説明があるがそれは本当にただ扉を増やしただけなので指摘する事は同じになる。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
モンティ・ホール問題の二倍になる説明は他にもある。
○変更する場合、最初に当たりの扉を選んでいると外れに、外れを選んでいると当たりになり、当たりは一つ外れは二つであることから当たる確率は扉を変更しなければ1/3で変更したら2/3になる。
当たり → 外れ
外れ → 当たり
外れ → 当たり
この説明の間違いを理解するには当たりだけじゃなく外れにも形を与えて考えると欠点がよくわかる。なので『当たり=車』『外れ1=ヤギ♂』『外れ2=ヤギ♀』とする。
まずゲームが始まる前に車と♂と♀が三つの扉のどこかに一つずつ入れられる。そしてゲームが始まり挑戦者は三つの扉のうちのどれか一つを選ぶ。この時三種類の景品のどれが入ってるかの確率は三つの扉でどれも1/3ずつで同じだ。
挑戦者が扉を選んだ後すぐにやっぱり別の扉に変更しようか考えたとする。すると次の図1のようになる
図1
車 → ♂、♀
♂ → 車、♀
♀ → 車、♂
この矢印の左側が変更しなかった場合の可能性を表し、右側が変更した場合の可能性を表したものだ。変更しなかった場合は1/3で車に、変更した場合は2/6(つまり1/3)で車になる。つまり司会者が開ける前に扉を変更しても確率が変わらないということだ。
挑戦者が扉を選んだ後は司会者がその扉以外のどちらかを開けてその扉にヤギ♀が有ったとする。すると図1は次の図2に変化する。
図2
車 → ♂
♂ → 車
挑戦者が選んだ扉からヤギ♀が消えたのは『司会者が開けた扉から出てそこにあるのが確定した』からだ。同じ理由で変更先の扉からもヤギ♀がなくなったわけだ。
図2の矢印の左側は選んだ扉の可能性を表し右側はもう一つの扉に変更した場合の可能性を表している。つまり挑戦者が最初に選んだ扉に車が有った場合もう一つの扉にはヤギ♂が有ることになり、これらの確率は等しいものだ。同様に挑戦者が最初に選んだ扉にヤギ♂が有った場合もう一つの扉に車があることになりこれらの確率も等しいものだ。そして挑戦者が最初に選んだ扉に車が有る確率とヤギ♂が有る確率は等しいので両方の扉の車が有る確率は等しいものとなる。
さてここからが本題とも言えるのだが最初にモンティ・ホール問題は【1/3から1/2になる理屈に特別な条件を付けることで変化する事を証明する問題】だと考えられるとした。そして図2は1/2の理屈での話になる。そしてこの二倍になる理屈の説明のポイントは『当たりに変更するパターンが二つ有る』事で自分の説明に置き換えるなら『ヤギ♂→当たり』と『ヤギ♀→当たり』の二つだ。
この二倍になる説明が正しいとするのならモンティ・ホール問題の特別な条件を用いて『司会者が扉を開けてヤギ♀がその扉に有ることが確定した後もプレイヤーが最初に選んだ扉にヤギ♀が有る可能性を証明しなければならない』ことになる。だが当然そんな証明は不可能だ。
司会者が扉を開けた後は挑戦者の選んだ扉にある外れの可能性は二つから一つに減り『変更して当たりになる可能性』も二つから一つに減る。なので『当たりに変更するパターンの方が多いから有利』とするこの二倍になる説明も間違いだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
他にも実際に実験したら二倍になったと主張する人もいるが、竹内が間違いを説明したからお復習になるか。
ゲームの基本からこの問題はそれぞれの扉の当たる確率を考えればいい。
A=B=Cなので3000回やればそれぞれの扉のアタリは大体1000ずつになる。仮にプレイヤーがAを選んだとするなら『A=B』と『A=C』で扉を変更しても当たる確率は変わらない。しかしただ『変えたらアタリだった』と二種類ある変更する扉を一緒くたにしてしまうと変更しなかったAの扉のアタリよりも二倍多く当たったと錯覚するだろう。
しかし『何を以て挑戦者の当たる確率とするか』の説明からもわかるように挑戦者の当たる確率は選んだ扉に当たりがある確率で決まる。なので変更するパターンが二つあったとしても挑戦者が選べる扉は常に一つだけなので当たる確率もその扉に当たりが有る確率で決まる。よってAからBの扉に変えての当たりとAからCの扉に変えての当たりは別物と考えることになる。
一緒くたにするのは間違いだとする理由は次のように考えるとわかり易い。
プレイヤーはモンティ・ホール問題と同じくゲームに参加することになった。そして本番前に何度でも練習しても良いと言われたのでプレイヤーはそうすることにした。
練習ではAの扉を選び必ず変更することにした。当たりは各扉でほぼ同じ数が出たのが確認できて、変更することによってBの扉が当たり時とCの扉が当たりが時には当たりを引くことができた。
そしていざ本番になりプレイヤーは練習と同じくAの扉を選択し司会者はCの扉を開けBの扉に変えても良いと言った。ここで扉を変更すると当たる確率は上がるのか。
練習では変更することで当たりは最初に選んだ扉のおよそ二倍になった。しかしその内訳はBの当たりとCの当たりを合計したものだ。そしてBの扉で出た当たりの数は最初に選んだAの扉で出た当たりの数とほぼ同じだと練習の時のデータが証明している。
ではBの扉に変更することでCの扉で出た当たりの分までBの扉に期待することができるかといえば当然無理だ。
よって一緒くたにするのは間違いだといえる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
実際に実験したときに二倍になるたいう主張を『挑戦者の当たる確率は扉に当たりがある確率』という考え方から否定した。しかし確率の見方なんて色々あると思う人もいるだろうが、他の考え方というのはあまりお薦めできない。
例えばよく目にする(扉を)『変えた場合』と『変えなかった場合』という言い方があるが、結局は『変えた扉の当たりが有る確率』と『変えなかった扉の当たりが有る確率』という事でしかなく扉に当たりが有る確率を言い換えてるに過ぎず根本的には何も変わらない。そして変えた場合の『結果』だけを重視して比較すると大きなミスをしてしまうことにもなる。そのミスとは『比較』という方法の使い方を間違えてしまうことだ。
比較するときには守らなければならないルールがある。それは基準が必ず同じでなければならないということだ。
例としては次のようなものだ。
αさんとβさんには同じ時間でどれだけ歩けるか競ってもらった結果αさんは93メートル進みβさんは100ヤード進んだという。
この場合ただ単純に数字だけを比較すればβさんのほうが進んだように思えるがこの比較には欠点がある。それはもちろん単位が統一されていないことだ。そしてヤードをメートルに換算した場合1ヤードは0.9144メートルになる。なのでβさんは92メートルも進んでない事になりαさんの方が進んでいるとなる。
実際の実験による二倍の理由も同じことが言える。要は何を以て当たる確率とするかが同じでなければならないということだ。
変更しなかったときの当たる確率1/3というのはその扉に当たりが有る確率でありそれが結果として現れている。一方で変更したら当たる確率が2/3だったというのは結果そのものが理由になっているので『扉に当たりがある確率』と『どれだけ当たりを引けたか』を比べていることになり比較という方法を正しく使えていない(※変更しなかったときに当たりを総数の1/3引けるという言い方はできるが根本にあるのはその扉に当たりが有る確率になる)。
どれだけ当たりを引けたかの当たる確率2/3を変更しなかったときと同じように扉に当たりが有る確率で考えると、Bの扉に当たりが有る確率は1/3でCの扉に当たりが有る確率も1/3になる。そして問題ではプレイヤーが変更できる扉は一つだけなので二つの扉の当たりを一緒くたにするのは間違っていることになる。よって変更したときの当たる確率は『Bの扉に変更したときの当たる確率』と『Cの扉に変更したときの当たる確率』で分けて考えるのが正しく扉を変更しても当たる確率は変わらないとなる。
☆ ☆ ☆
最後の二倍になる説明は竹内が期限まで気づかなかった考え方で、1/3から2/3になるものではなく変更先の扉の当たる確率を1/3としながらも扉を変更すれば当たる確率が二倍になるとするものだ。
これは司会者が開ける扉の確率も絡めて考える確率で今までの説明とは発想が異なるものになる。
モンティ・ホール問題の(特別な)条件は以下。
①司会者は当たりの扉を知っている。
②司会者はプレイヤーが選ばなかった二つの扉の内一つを開ける。
③司会者は当たりの扉は開かない。
ポイントとなるのは司会者が当たりがどこにあるのか知っているため、プレイヤーの選んだ扉に『当たりが有るとき』と『当たりが無いとき』でプレイヤーが選んだ扉以外の二つの扉のどちらかを司会者が開けるときの確率が変わってくるところにある。
仮にプレイヤーが『Aの扉を選んだ』として、
《1》Cの扉に当たりが有れば司会者は必ずBの扉を開ける。
《2》Bの扉に当たりが有れば司会者は必ずCの扉を開ける。
《3》Aの扉に当たりが有れば司会者はBかCの扉を開ける。
《3》の司会者の行動が確定的なものじゃないのはプレイヤーが当たりの扉を選んだため特別な条件の②を行うときにどちらを開けても③の条件に反しないからだ。故に確定的なものじゃなく確率で考えている。なので仮にプレイヤーがAの扉を選び司会者がCの扉を開けたとして、この時にBの扉に当たりが有れば司会者は確定でCの扉を開けていてAの扉に当たりが有ればBとCの扉のどちらかから選んだ事になりここで差が生まれると考えているわけだ。
統計で今の理屈を説明すると次のように考える。
プレイヤーは仮にAの扉を選んでいくとする。そして当たりがCの扉に有るとき司会者は必ずBの扉を開ける。割合でいうと三回に一回がこれだ。
次に当たりがBの扉に有るときは司会者は必ずCの扉を開けることになる。この割合も三回に一回だ。
では当たりがプレイヤーの選んだAの扉に有るときはどうなるか。
その場合は司会者は外れのBの扉またはCの扉を開けることになるがどちらを選ぶかはそれぞれ1/2の確率と考えられる。そうなるとプレイヤーの選んだAの扉に当たりが有るとき司会者がBまたはCの扉を開けるのは割合では6回に1回ということになる。
結果、例えばCの扉がハズレのときAの扉の当たる確率は6分の1でBの扉の当たる確率は3分の1になる。なので扉を変えれば当たる確率が二倍になるというわけだ。
大雑把な言い方をすると、3000回の実験をするときプレイヤーがAの扉を選び続けると司会者はBかCの扉をおよそ1500回ずつ開けていくことになる。そしてCの扉が外れ(1500回)のときのAとBの当たりの内訳はおよそAが500でBが1000になるということだ。
★ ☆ ☆
この1/6の理屈は指摘する点が幾つか有る。その中でも自分が最大のミスだと思うのはこれら説明にあった確率は当たる確率ではなくそれらの状況になる確率だということだ。
例えばゲームでプレイヤーがAの扉を選び司会者がCの扉を開けたとする。このときプレイヤーは二つの可能性から司会者がCの扉を開けたと推測できる。まず一つ目はBの扉に当たりが有った可能性ともう一つはAの扉に有った可能性だ。
Bの扉に当たりが有る確率は当然1/3になる。これがそのままその状況になる確率になっている。ではAの扉に当たりが有る確率はどうなるのかと言えばこれもまた同じく1/3になる。
これはどういうことかと言うとAの扉に当たりが有ってBの扉を開けるのもAの扉に当たりが有ってCの扉を開けるのもこれらはどちらもAの扉に当たりが有る確率が1/3であることが前提にある。そしてAに当たりが有る時にどちらの扉を開けても当たりはAの扉に有ることは変わらないので統計ではAの当たりとして数えられる。
それに『Aの扉に当たりが有るとき』に司会者がBの扉を開けてもCの扉が外れという事実は変わらないし、司会者がCの扉を開けてもBの扉が外れという事実は変わらない。それが本質なのだから司会者がどちらを開けたかというのは表面的なものでしかないわけだ。なのでそれぞれの扉に当たりが有る確率で考えるとAとBの扉はどちらも1/3になる。
この1/6の理屈も何を以て当たる確率とするかの考え方からも間違いがわかる。
モンティ・ホール問題で出てくる当たる確率1/3は扉に当たりが有る確率が元になっている。なので何を以て当たる確率とするかと考えた場合、Bの扉の当たる確率1/3の本質はBの扉に当たりが有る確率のことになる。一方でAの当たる確率1/6はその状況でどれだけ当たりが引けるかそのものになるので、それらでは正しく比較できたとは言えないのだ。
☆ ★ ☆
1/6の理屈には他にも欠点がある。それはプレイヤーの選んだ扉に当たりが有ったときに司会者がどちらの扉を選ぶかを確率で考えていることだ。
仮にプレイヤーがAの扉を選んだとしてそこに当たりがあるとき司会者がBとCのどちらの扉を開けても条件に反しないのは間違いない。しかしだからと言って選ぶ確率は等しいと考えるのは思い込みに過ぎない。竹内にも説明したが選択はそれをする者の思考によって変化する場合があるからだ。
例えばプレイヤーが三つの扉からどれかを選ぶとき扉にA·B·Cと記されていたら人によっては自分のイニシャルと同じものを選ぶ人がいてもおかしくない。一種の願掛けだ。他にも扉に1·2·3と記されていたら等級をイメージする人なら1を、段位をイメージする人なら3を良いものとして捉えて選ぶこともあるだろう。さらには扉の色が異なっていたら自分の好きな色を選ぶ人もいるだろう。
今の例は理由があるから解り易いが人によっては特にこれと言った理由もなくなんとなくで選択が偏る場合もある。なので一概に選択は平均で考えれば良いものではないと言えるわけだ。
そしてこれらの事は当然だが司会者にも当てはまる。
他にも司会者がきっちり数える人だった場合。そのデータではAのアタリが偶数のときはBとCの選択割合は必ず丁度半々になる。それはAのアタリが2個目のときは1:1で98個目のときは49:49、100個目のときは50:50とその司会者が忘れたりしない限りは偶数のときは絶対に丁度半々になる。もっと言えば実験してる時に一つ前のAの扉が当たりのときにどちらの扉を開けたかわかれば次のAが当たりのときに司会者がどちらを開けるのかを高い確率で当てることだってできる。確率について少しでも知っている人ならこれを『1/2の確率』とは思わない、ただ割合がそうなったというだけだ。
司会者がこの部分の理屈を知らない場合は何となくでBかCの扉を選択することになる。それでも1/2の確率になるとは言えず、その比率は司会者によって傾向が出るだろう。5:5になる人もいれば6:4になる人もいるだろうし3:7って人もいるだろう。問題文に思考が引っ張られる人なんかは10:0や0:10になるかもしれない。
なので開けれる扉が二つあるからといって開ける確率が1/2になるとは言えないわけだ。
選択と確率の根本的な違いを説明するなら試行回数を増やしたとき、誰がやっても同じ比率に収束するのが確率で必ずしもそうはならないのが選択と言える。人間の行動は非論理的なときがありその中の一つである選択もまた非論理的なときがある。プレイヤーの願掛けによる選択の話をしたが扉の隙間から当たりっぽい物が見えたら勘違いだとしても願掛けよりもそちらを選ぶこともあるだろう。
なので選択は統計でおおよその行動を測ったとしても情報一つで簡単に変化してしまうため確率として考えるには曖昧なものだ。なのでその他大勢に当てはめるように一概に『こうなのだ』とするのには無理があるわけだ。
☆ ☆ ★
では実際に統計実験をするときには司会者はどう行動すべきなのか。もし曖昧さを含めてただ統計を取るのなら後でデータの分析が必要になるだろう。それが苦手だったりしたくないのなら実験の前に細かい取り決めが必要になる。なので例えばプレイヤーがAの扉を選び司会者がCの扉を開けてそこが外れでBの扉に変更しても良いと言った、と問題文にあったのでこれを想定した実験をするとしよう。もちろん目的はAとBの扉の当たる確率を比較するものになる。
その実験ではプレイヤーはAの扉だけを選び続けることになる。ゲームではプレイヤーは自由に扉を選択して良いのだから実験でも自由に選ぶべきだと思うかもしれないがそうすると不都合が生じる可能性がある。例えば『自由に選択しました。その結果Aの扉を選ぶことはありませんでした』なんて事もあるかもしれないし、それで『でも試行回数は十分なので結論としては実験ではAの扉とBの扉を比較することはできません』なんて言われても納得する人はまずいないだろう。そんな事態にならないためにも実験のときにはゲームの条件と全く同じという訳にはいかないのだ。
プレイヤーは最初にAの扉を選び続けることになるわけが同じように司会者が開ける扉もまた問題文と同じくCの扉になる。これが1/2の実験なら司会者が当たりの扉を知っているか否かに関わらずCの扉を開け続けることになるがモンティ・ホール問題の実験ではそれはできない。理由は勿論モンティ・ホール問題には特別な条件が有って予め当たりの扉を知っている司会者は当たりが有る扉を開けてはならないからだ。
なので司会者は基本的には問題文と同じくCの扉を開けることになるがCの扉に当たりが有るときだけBの扉を開けることになる。これが実験における司会者の選択になると言える。
実験時のプレイヤーと司会者の選択は以上だが当たりの扉については当然『それぞれの扉の当たる確率は等しい』という条件に従うことになる。なのでCの扉の当たる確率は1/3になるので実験でするゲームの回数を3000とするなら3000×1/3でおよそ1000回がCの扉から当たりが出る。そして司会者はそのおよそ1000回のときだけBの扉を開け残りは全てCの扉を開けることになる。よって司会者はBの扉を3000回中2000回開けることになり当たりはそれぞれおよそ1000ずつ出るので当たる確率はAの扉とBの扉で等しいという結果になる。
この実験の仕方ならAとBの扉はどちらも当たりが有る確率を比較しているし誰が司会者やっても開ける扉の選択に根本的な違いは出ない。もしかしたら『そのデータでは司会者がBの扉を開けたとき変更すれば必ず当たるしそのままなら必ず外れてしまう』と疑問を抱くかもしれないが何の問題もない。なぜならこの実験のデータはAとBの扉の当たる確率を比較するためのものでAとCの扉の当たる確率を比較するためのものではないからだ。
以上が1/6の理屈の間違っている点や正しい考え方になる。
★ ★ ★
十日条は思考の海から戻り上半身を起こす。
モンティ・ホール問題の間違いはどれもが基本的な所に誤解があるだけのように思えた。ただ基本だけで否定できるいくつもの説明が30年以上正しいと思われているのはそれはそれで新たな謎が生まれた気がしないでもない。
(現実は小説よりも奇なりだな)
ベッドから机に移動しパソコンを立ち上げると弟にメールをしてベッドに潜り込む。
そして10分後に起こされる少しの間眠りに就くのだった。
お読みいただきありがとうございます。
あらすじでも説明しましたがこのお話は以前投稿した話を書き直して再投稿したものになります。
ストーリー部分はほぼ変えていませんが投稿して時間が経つにつれ間違っている事の説明が不十分だったり不要な説明をしているなと感じたりしたので書き直しました。そして説明だけじゃなく話の構成を変えたりモンティ・ホール問題を知ってる人向けだったのを知らない人へモンティ・ホール問題の内容の説明を入れたりしました。
補足のようなものになりますが二倍にするための『正しい条件』について作者の考えを話します。これに関しては読んでいて気づいてるかもしれませんが扉を変更したとき当たる確率を増やすには当たりが移動すれば可能です。
条件としては『当たりの扉を知らない司会者が当たりの扉を選んだ場合は扉を開ける前にプレイヤーが選ばなかった扉に当たりを移動するものとする』といったところでしょうか。
モンティ・ホール問題はテレビ番組が発端だという話がありますがスタジオにセットを設置してたのでしょう。なのでイメージとしては一枚壁に3つの扉が付いていて裏で繋がってる感じですね。まぁそんな物だと外れた場合はイカサマを疑いそうですが…。あとはプログラムという力業ですかね。それと条件ですが司会者が当たりの扉を知っていても『必ずプレイヤーの選んだ右隣の扉を開ける。但しそこに当たりが有る場合は(以下略)』でも可能です。
最後に。
読者様に感謝を。もし前のも読みましたという方がいればその方には更に感謝をします。わかりやすかった、わかりやすくなってたと思っていただけたのなら嬉しいです。お読みいただきありがとうございました。