プロローグ IQ228の回答
4月初旬に生徒会からいくつかの部に通達があった。
その内容は今学期中に活動実績を示さなければ廃部にするというものだ。そしてその中には『謎真理研探部』の名前もあった。
昇降口にある掲示板に貼ってあったその紙を、謎真理研探部の部員である十日条神無は人の行き交う中読んでいた。そしてゴールデンウィーク明けた日、それまでの約三週間に紆余曲折があったものの入部を希望していた竹内は正式な部員になった。
「では改めてよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
正式な部員になった竹内に挨拶を返すのは他の部員の田中。特徴が無いのが彼の特徴だ。
「近いうちに廃部になるかもしれないけどな」
「え、何ですかそれ。聞いてないんですけど」
寝耳に水といった反応だが部活動紹介の時に配られた部活の一覧表に注意書がちゃんとあったので竹内が見落としてただけなのだが。
「廃部になるのはまだ決定事項ではないんですね。なら何か手はありますよね?」
「活動実績が無いのが理由だから部活動として何かしらの成果があれば何とかなるだろ。期限は二学期よ初日だ」
十日条に解決案を示されても竹内の顔は優れない。この部は実質ただのミステリー研究部なので実績や成果と言われてもピンと来ないのだろう。
「なに難しく考えることはない。モンティ・ホール問題という中学生にも理解できる問題の間違いを見つければ良いだけだ」
「それなら何とかなりそうな気がしますね」
なんだ簡単そうじゃん、と竹内はこの時にそう思った。たが先に結論を言えばそれは失敗する。人生はそんなに甘くないと知るのは数時間後の事だ。
「というわけでそれらはお前たちに任せる」
「え、何で丸投げしようとしてるんですか? 先輩も部員何ですからちゃんとやってくださいよ」
「元々俺は部活にはそんなに顔を出せないんだよ、バイトがあるからな。まぁ手が空いてるときはやるからそれ以外ではお前らに任せる」
竹内は納得していないもののこうして廃部を回避するために部員たちで奔走する事になったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【モンティ・ホール問題】
プレイヤーの前に3つの扉がある。
そのどれか一つの扉の向こうには豪華な景品があり他の二つは外れだ。
プレイヤーは景品の扉を当てればそれが貰える。
プレイヤーが扉を一つ選んだあとに司会者はそれ以外の扉を一つ開けて外れだと教えてくれて、今ならまだ扉を変更しても良いと言った。
この時プレイヤーは扉を変更するべきか。
これに以下の条件が付与される。
①司会者は当たりの扉がどれかを教えられている。
②司会者は挑戦者が選ばなかった二つの扉のうち一つ開ける。
③司会者は当たりの扉は開けない。
④司会者は扉を開けたあとにプレイヤーに扉を変更しても良いと言う。
以上がモンティ・ホール問題の内容だ。
この問題の正解は『扉を変更する』とされている。なぜなら変更すれば当たる確率が二倍になるからだ。
その説明をいくつか紹介しよう。
○プレイヤーが扉を選んだときその扉の当たる確率は1/3でそれ以外の二つの扉の当たる確率は2/3になる。司会者がプレイヤーの選ばなかった二つの扉の内の一つを開けた後もプレイヤーの選んだ扉の当たる確率は1/3のままなので、もう一つの扉に司会者が開けた扉の当たる確率が集中して2/3になる。
今ので解りにくれば扉を100万個に増やして考えてると感覚的に解りやすいだろう。
○プレイヤーが100万個ある扉の中から 一つ選び司会者は外れの扉を開けていき、プレイヤーが選ばなかった扉を一つだけ残す。この時プレイヤーが初めに選んだ扉と残ったもう一つの扉の当たる確率は同じに思えるだろうか。
さらに次のような考え方もある。
○変更する場合、最初に当たりの扉を選んでいると外れに、外れを選んでいると当たりになる。当たりは一つ外れは二つであることから当たる確率は扉を変更しなければ1/3で変更したら2/3になる。
当たり → 外れ
外れ → 当たり
外れ → 当たり
もしこれらの説明でも解らなければ実際にやってみると良いだろう。そうすれば当たる確率が二倍になると解るはずだ。
このモンティ・ホール問題は1990年にとある雑誌のコラムに寄せられた最初の質問に『扉は変更するべき。なぜなら当たる確率が二倍になるから』と回答した事で大きな議論に発展した。
多くの人がその直感に反する回答が受け入れられなかったのだ。
そしてその中には博士号を持った数学者も多くいたという(ただ初めの頃は条件付き確率と呼ばれるこの問題の条件部分が提示されていなかったために間違えたという話もよく聞く)。
頑なに信じようとしなかった数学者も居たそうだが、コンピュータを使ったシミュレーションで扉を変更したときの当たる確率が2倍になった結果を見せられて漸く正しいと認めたなんて話もある。
以上がモンティ・ホール問題の概要だ。