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21話




 次に向かったのはハルカの要望した下着屋だった。

 花屋の次の順番についてはハルカとククルで意見の相違があったのだが、ハルカの


「軽いものから買って回る方が効率的だろう?」


 の一言でククルがあっさり折れた。

 持ったまま歩き回るには本は重くてかさばると、まあそういうことらしい。

 そして到着してからはククルも特に不満を垂れることもなく商品を見て回っている。


 四人が入ったこの店は他の店と違ってガラス窓がついていなかったのだが、入ってみて理由がわかった。並んでいるのは色とりどりの綺羅びやかな女性用下着ばかりで、客も女性客しかいない。中には試着室で下着をつけて友人同士で批評しあっている。

 つまり正しくは女性用下着屋なのだ。

 だから窓がなかったわけだ。人間はあまり下着姿を表に出さないものらしいから。


「個人的にはデザインなんて実用性に影響ないからどうでもいいと思っているのだけれど」

「もったいないね。ククルは美人なのに」

「さっきのニクスの話じゃないけど、美なんて主観の問題でしょう?」


 せっかく褒められたのに、ククルはハルカの言葉を取り合わない。


「まあでも、学園は女の園だから。ある程度はそういう部分も詰めなきゃいけないのよね」

「……意外ですわね。貴方はそういうの気にしないと思ってましたわ」


 縦長の箱のような試着室の中からクレイが言う。

 カーテンが引かれ中の様子はわからないが、衣擦れの音だけは漏れてくる。


「私だけならそうだけれど、学園には国の代表として来ているんだもの。多少は気を使うわよ。――ああ、これはなかなかね。試着するわ」


 そう言ってククルは下着を手にクレイの隣の試着室に入り、カーテンを引く。

 少ししてカーテンが開く。

 姿を現したのは紫色の下着をつけたククルだ。

 レースの縁取りだけ色が濃く、花の花弁が布地に散るような刺繍になっている。


「どうかしら、ニクス?」

「よくお似合いだと思います」


 お世辞ではない。紫色の布地がククルの水色の髪の透明感をより際立たせている。細身の彼女の体にぴったりとフィットしてズレる気配もない下着の縫製技術も素晴らしい。


「ありがとう。これにするわ」

「わ、わたくしのも見てもらえますかしら?」


 隣の試着室から顔だけを出してクレイが告げる。

 ニクスがもちろんとうなずくと、彼女はおずおずとカーテンを開けた。

 体格のいいクレイの体を赤い下着が包んでいる。


「どうでしょうか……?」

「とてもキレイだと思います」


 これもお世辞ではない。

 うっすらと割れた腹筋や太くも引き締まった腿が、赤色の下着の放つ強い生命力の印象と調和している。主たる布地は絹製らしく、気品ある光沢が優しく光を反射する。

 花の美しさは理解できないニクスだが、彼女の姿は美しいと判断できる。記憶がまっさらになったこの身だが、本能の奥深い部分に残った何かがささやくのだ。


「――店員。これと同じものを、あるだけいただきますわ」

「ざ、在庫を確認してまいります。少々お待ちを」


 慌てて奥の部屋に向かう店員。

 声を出さずに笑うククル。

 そしてマイペースに下着を選んでいたハルカが、一着の下着を持ってやってくる。


「ニクスくん。これなんかどうだろう?」


 彼女の手に握られているのは黒い下着。

 縁取りをレースにしたククルのものと違って、レースだけで作ったような独特のデザインだ。その都合上、ちょっと透けて向こう側が見える。


「いいんじゃないでしょうか。ただちょっと、ハルカさんには小さいような――」


 首をかしげるニクスに、ハルカは笑って首を振る。


「ボクじゃない。キミが穿くんだよ」

「えっ」

「キミが穿くんだ。ボクはそれが見たくてここを選んだんだからね」

「え、え、え――」


 助けを求めるように左右を見る。

 悪い顔でニヤニヤと笑うククル。

 顔を赤らめながら目があった瞬間視線を逸らすクレイ。

 この場に味方はいないようだった。


「いや、あの、でも――」


 黒い下着を受け取る。

 できることなら着用したくはない。まして見せるなんて恥ずかしすぎる。

 個体としてはそう判断しているのに、それでも否とは言えない。


 ――人の願望を叶えたくなるという自分の習性を、このときばかりは恨むしかなかった。



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