15番のサッカー選手高校編
高校生編
高校生になった私。
うつむき、只々落ち込んでいる。
受験に失敗した。
そして、両足の脱臼癖により、サッカー部を断念しなければ、ならなくなった、高校生活。
夢を諦めきれず、ディズニーランドで働きたいと意気込むが、地方都市で、距離的に遠いために断念。
思いついたのが、サッカー場でのバイトだが、自分がプレー出来ない悔しさが、その思いつきを拒む。
次に思いついたのが、プロ野球でバイトする。という夢だった。
スポーツを応援したい気持ちと、それが仕事になるという事が自分の気持ちを高めてくれた。
ダメ元で受けたが、高校生ながら、もぎりと呼ばれる、チケット切りのバイトに合格した。
自分が認められたような気分になり、私はここで頑張るんだと決意した。
バイトは楽しかった。もぎりなので、グラウンドから見えない位置でチケットを切っている為、中々試合は見れなかった。
だけど、お客さん達の熱狂や休憩時間にちょっとみる、グラウンドの光景が日々の糧になった。
だんだんと慣れてきて、顔見知りのお客さんに帰りに車で送ってもらったりもした。
選手やオーナーと、少し話をする機会もあった。
選手達も1人1人様々なドラマを持っている人が多く。
中でも、高校生の時にレギュラーじゃなかったが、諦めずに小さな努力を積み重ね、選手の座を勝ちとった話が聞けて、自分も頑張らねばと鼓舞する思いになれた。
高校3年生の時、受験があったので、バイトも長期で休んだりして、塾に通う事が増えた。
元々プレッシャーに弱い自分は、受験というものに、身構え過ぎて、少々気が重くなっていた。
ある日、事件が起こった。
友達がサッカー部となにやら、人揉めしたらしい。
サッカー部は、部活動の最大派閥である。
呼び出しがかかった友人の付き添いで、自分も付いて行く事になった。
居並ぶ高校サッカー部を前に、自分達はこれからどんな仕打ちを受けるのだろうと恐怖で一杯だった。
そんな時、目に1番に入ったのが、ボールだった。
思わず声が出そうになった。
そうだ、自分もサッカーをやっていたんだ。
この時、何故かは分からないけど、サッカー部の1人とサッカーで勝負する事になった。
見るからに小学校からサッカーをやってる雰囲気に、挫折組の自分はダメだと半ば諦めたが、勝ってしまった。
この事件は、サッカー部だけではなく、教頭先生の耳にまで入った。
呼び出されたのは、揉めた本人ではなく、私に変わっていた。
サッカー部と揉めるのは困る。
何とか綺麗に収まるようにしなさい。
それが、教頭先生から呼び出された理由だった。
どうしよう。もうサッカーは諦めたんだ。
どうしようもない。
そんな時、電話がかかってきた。
久々にバイトに来なさいという、オーナーからの電話だった。
その日は雨だった。
グラウンドにシートが貼ってあり、もし、雨があがった時、シートを剥す為に呼ばれたのだった。
カッパを着て、長靴を履いて待っているとオーナーが来た。
オーナーはバイト生の自分達にも声をかけてくれる気さくな人だった。
どう言われるか分からなかったけど、少し相談してみてみようと思った。
結果は、話を親身に聞いてくれた上に、学校側の言う事を聞かなくていいと言ってくれた。
気が少しずつ晴れていった。
グラウンドも晴れ、シートを剥がし、久々にプロ野球の試合を見た。お客さん達と話をした。
自分の中で気持ちが変わっていった。
この人達を裏切りたくない。
逃げたくない。
もう一度やるんだ。
ATMに駆け込んだ。
自分のバイト代を全て降ろした。
脱臼用の特殊なサポーターを病院で作ってもらった。
もう一度、15番のユニフォームを着る時だ。
先生に言った。
サッカー部とサッカーで勝負をさして下さい。
ただでとは言いません。参加賞に図書カードを付けます。優秀賞にはipodを付けます。
大変な出費だったが、それが火を付けた。
学校から、色んな怪我や様々な理由で途中リタイヤした、経験者を集めた。
もちろん彼等にも参加賞以上を約束した。
試合当日。
不安は無かった。
確かに皆ブランクはあった。
だけど、辞めなければ、いけなかった理由も様々である。
皆悔しい思いがあったのだ。
怪我や、馴染めなかった者。
他にもやりたい事があって、断念した者。
様々という事は個性的という事だ。
型にハマらないが、連携が取れている、我ら挫折組に対し、サッカー部は冷静さを欠いた。
そして、彼等のプライドである。現役サッカー部という概念が、先制点によって、揺らいだ。
心理戦である。
勢いがある、挫折組に3点も入れられた。
そのプライドの牙城はついに崩れさった。
優秀賞等の私が買った商品は挫折組のメンバーに渡った。
サッカー部はメンバー全員参加賞だったが、お礼をいいに来てくれた。
皆、本当はどういう風にこの件に接するか、まとめたらいいのか、分からなかっただけみたいだった。
中学校までしかしなかったが、諦めずにやったサッカーが、生きた瞬間だった。
バイトをしてなかったら、こんな大胆な事できなかったなとふと思った。
目に浮かぶのは、一生懸命になって、仕事やスポーツや、相談に乗ってくれた人々の顔ばかりだった。
虹がかかる。空を見た。