イェフタン師匠
私が大好きな、生活がダメな凄腕師匠です。
長閑なドワーフ村での暮らし。
まず朝起きて顔を洗う。水の出る魔道具に魔力線を当てると水が出て、魔力を切ると水が止まる。魔力線とは手など身体の一部から伸ばした魔力の光のようなものだ。不可視なので出している当人にしか分からないが、これに現象の元となる構造式、術式を乗せると魔法となって魔力線の上を飛んでいく。魔法に指向性を持たせるための初歩の魔術だ。魔術と魔法の違いは後に回そう。
とにかく水洗い。実は汚れや不純物を落とす浄化の魔法もあるがせっかく水があるのでそちらを使う。
そして母親を手伝い朝食の準備をする。母親のクルミはあの筋肉モコモコヒゲ親父の妻にしては可愛らしい容姿のドワーフ娘だ。ドワーフの女は洞窟住みゆえに肌が美しく、見た目がいつまでも変わらない。祖母のマワタ推定二百三十才でやっとシワが出て年が分かるほどだ。この世界のドワーフの平均寿命は二百才と少しくらいだが、若くして死ぬものが多いので寿命だけで見るなら三百まで生きる者も多い。
朝食の前には父か、父が鍛冶場にこもっていれば母が祈りを捧げる。
朝食は茹でたり炒めた芋が主食だ。そこにベーコンなどが乗る。野菜もアクを抜いて炒めた山菜などが添えられる。トマトや茄子も人気が高い。
唐突だが、この星にはシステムにより作られたダンジョンがある。ダンジョンマスターとして選ばれた生き物が構造を作っている物で、そこで魔物を倒すとドロップカードと呼ばれるカードを落とす。
多くは魔物の死体が込められたカードを落とすのだが、ときおりアイテムなどが入ったものを落とす。その中には小麦粉や米などの食料品もあるらしい。つまり町に出れば米やパンも食べられる。ドロップカードの中には料理のレシピ本などもあるため調理もバッチリである。……料理人の腕が良ければ。
だがまあ、安いのでドワーフの主食は芋である。
食事が終わると片付けをして、洗い物、洗濯物などは浄化の魔法で済ませて、まずセラフィーは教会へ向かう。
セラフィーの職業が僧侶なのもあるが、この国では基礎的な勉強は教会で行うことになっているからだ。
そもそも文字の読み書きは基本的にはスキルでできてしまう星だ。習うのは少し高等な言語か慣れないと速くならない算数など、魔物の生態や基礎的な魔術などである。
ここで説明するなら、魔法とは神のシステムが術式の演算を肩代わりしてくれる、基本的には職業がないと使えないが簡単なものであり、魔術は誰でも使えるが自分で術式を組み立てないといけない難しいものだ。根源は同じものであるができることはまるで違う。魔法なら死者も蘇らせられるし、魔術なら属性に縛られることなく組み立てができる。魔法は神のシステムが人間の代わりに記憶や計算をしてくれて、魔術は型にはまらない超常現象を起こせる。……残念なことに人間の脳ではシステムに及ばないが。
さて、セラフィーの生活に戻ろう。セラフィーは教会で一通り学んだあと、近所の狩人に戦い方を教わっている。橋を渡ってすぐに黒の森と呼ばれる強力な魔物が住まう森があり、そこの浅いところで鹿の魔物などを狩っている。
この世界はシステムによりレベルが人に与えられていて、レベルさえ上げれば五才の娘でも自分の体重より重いものを持ち上げられるようになったりする。そのため狩人の師匠バンリはレベル上げを徹底させてくれていた。基礎的なレベルが上がれば森の浅いところで死ぬことはまずない。お陰でセラフィーの力は普通に暮らしてる大人とほとんど差がない。
セラフィーのメイン武器はこのころはメイスだった。剣は刃筋のコントロールや折れない立ち回りなど難しいものであるので、それより単純にレベルと力で押しきれる打撃武器を望んだ。なので五才児時点でパワー押し戦闘スタイルを確立してしまっていた。暴れられるなら何でも良かった。僧侶なので魔法の方が得意なのだが。
狩りで仕留めた猪を村人で分け合ったり、戦うことを心から楽しめていた。他にも祖母のところで錬金術を学んだり、酒屋のいい匂いに浸ったりして暮らした。
ある日、ドワーフの村では珍しいエルフの旅人が訪れた。
このエルフの女性がセラフィーの力を引き上げてくれる魔術の師匠、イェフタンである。
酒好きなだらしのないエルフで、もぐら村にはいいワインを求めて旅をしてきたらしい。祖母とも旧知らしく仲が良いようなので見た目は少女だが結構いい年だと思われた。言ったら殴られたので年のことは言わないとセラフィーは決めた。見た目は金髪に翡翠の瞳で白い肌に長い耳、まつげも長くて眠そうな瞳。うん、見た目は間違いなく可愛い人である。普段はフードをかぶっているがエルフというだけで注目を浴びるので仕方がない。ドワーフの村に喜んで来たがるエルフなどこの師匠くらいである。
最初は祖母のマワタのところで乾燥薬草を粉にしていたところにイェフタン師匠が現れて、なんとなくエルフなら魔法が得意だろうといろいろ聞いているうちに師事することになった。
彼女は魔導師であり、魔術の研究をしているらしく、レベルとは関係なく強さを得られる魔術に造詣が深かったため、セラフィーはここでさらに一段階強くなることができた。
「そもそも魔法やら魔術やらはどの程度理解している?」
「魔法はレベルアップしたらシステムからメッセージが来て使えるようになるよね。回復とか。魔術は自然の摂理で使えるようになるからレベルはあんまり関係ない」
「魔力はレベルで上がるからまるで関係なくもないけどね。魔術の良いところは何でもできるってとこだけどもうひとつ、魔法を連結して改変できるのが大きい」
「魔法を改変?」
「例えば星属性の魔法、自動とか拡大って使い道なくない?」
僧侶のセラフィーは神聖三属性の魔法が使える。レベルも二十くらいになっているので普通の成人と変わらないくらい強かったりする。レベルアップにより自動的に習得した魔法も多いが、星属性の魔法だけは使い道が思い付かないものが多かった。そもそも単体では発動しても意味がなかったのだ。
「そこで、星属性の自動と太陽属性の回復を魔術で連結してやる。これが魔法改変。結果、傷を負うと回復魔法が発動する魔法ができあがる」
「すごい便利!」
「まあ魔力が足りないとすぐに魔力切れになるからレベルアップも忘れないように」
イェフタンの魔術の腕は間違いなくこの大陸でも上位だった。教えてもらったお礼はお酒を求められる。セラフィーはいい師匠を得たがお財布は軽くなった。
ともあれここからセラフィーの戦闘スタイルが確立していくことになる。
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