ドワーフの村
二話更新の二話目です。よろしくお願いします。
ドワーフの穏やかで暖かい暮らしぶりが伝われば幸いです。
さて、セラフィーが生まれたのはとあるドワーフの村である。正式名称は無く、通称はトンネル村、もしくはもぐらの里と呼ばれていた。
実際にドワーフが集まりもぐらのようにトンネルを掘り続けている村だ。南アルテシア山脈にトンネルを掘ることでこの国クレイアーツと明星の女神が住まう星王国レイアシスタとの交易などを拡大するのが目的である。国から正式に村長が依頼を受けての仕事で、もう何十年も掘っているらしい。
村長はセラフィーの父、ハガネ。この大陸、アルテシア大陸に四本しかない神剣のうちの一本を作った、神匠と呼ばれる名鍛冶師であった。今でも尊敬している偉大な父である。彼の元には人が集まるので、この事業に合っていると考えられたようだ。
セラフィーが五才の頃。ようやく脳容量が魂が定着できるだけ増えて自我が確立した頃の話。
鍛冶場にこもると二週間は出てこない父の仕事を危ないので少し離れてしゃがんで眺めていた。
「お父ちゃんご飯食べないの?」
「干し肉かじってらぁ」
「お水は?」
「命の水がある」
蒸留酒のことを命の水と呼ぶのはドワーフくらいであろう。セラフィーもさすがにまだ蒸留酒は飲まない。火酒とも呼ばれるようなとても強い酒だった。
「ふだんお父ちゃんが飲んでるのが甘い香りがして好き」
「ブランデーか。ありゃ高いからな」
「もぐらの宝石ね、綺麗だし良い匂い」
「お前は酒飲みになるなぁ」
酒を飲みたくてドワーフになったので確定である。
「お父ちゃん」
「……もう五才だしお父ちゃんはやめろ」
ハガネは筋肉質でヒゲも剃ってないので長い、典型的なむくつけきドワーフだ。お父ちゃん呼ばわりはちょっと恥ずかしかった。
「親父でいい」
「おやじ?」
「おう」
「親父!」
親父と呼ばれてもやっぱり顔を赤くするハガネ。娘が可愛過ぎるのがよくない。いや、とっても良いことなのだが、ドワーフ親父は照れ屋だった。
「セラは将来なんかやりたいことあんのか」
「せんじょーであばれまわりたい!」
「ぶふおっ!?」
思い切り飲んでいた蒸留酒を噴いた。火がついて燃えるあたり、まさしく火酒である。ヒゲに燃え移ってしまいしばらくバタバタするドワーフ親父。まあ五才の可愛らしい実の娘が戦場行きたいとか言い出したら誰でもそうなる。しかしハガネにはひとつの教育方針があった。人も鋼も正しく打たなければ伸びない。
「まあそれが夢だって言うんなら狩人のバンリあたりに頼んどいてやろう」
「え、いいの?」
「人間も叩かなきゃ伸びないからな」
「お父ちゃんに叩かれたことないよ?」
「親父な、親父。試練を与えるってことだよ。望むことをやらせてやるが厳しくな。鉄の望みを読み取って正しく叩く。間違って叩いたり強く叩きすぎると、鋼は曲がったり折れたりしてしまう。人間も性根が曲がったり心が折れたりな」
「すごいや! おんなじだね!」
「だろぉ? 親父天才だからな!」
「親父てんさいー!」
自分で言いながら照れるドワーフ親父。ちょっと可愛らしいけどむくつけき筋肉男である。
ドワーフに生まれ変わり、ドワーフの文化に触れて、セラフィーは少しずつドワーフ族という種族の生活が面白くなってきた。外見的には小柄で筋肉質で耳が少しだけ尖っている。十才前後で成長が止まり、その後は性差が広がる成長を見せる。男は筋肉質に、女は豊満に。性差が少ないエルフと仲が悪くなる一因かも知れない。
内面的には、ドワーフはまず信心深い。この界隈のドワーフが信仰しているのは祖神教原典派という宗教だ。その教えはこうである。
祖神様は世界を作り役割を一旦終えられ、輪廻へと旅立った。祖神様の旅の無事を祈ろう。祖神様が振り返らずに心安く旅するために、願い事をしてはいけない。恨んだりするなら人の世を恨め。とにかく神の旅路が穏やかならば自分の人生も穏やかになる道が開く。
祈りは毎日食事前に行われる。祖神様の旅路が穏やかでありますように、飢えずに歩めますように、と。眠る前には、祖神様が健やかに休めますように。
自分が望むことは神にこそありますように、と祈る。神を思いやる宗教である。セラフィーはそれが好きだった。
もぐらの里の食事は西隣にある広大な黒の森で採れる山菜や木の実、果物などや、森の中にある湖で獲れる鱒料理、猪や鹿や牛や兔や鳥やトカゲや各種魔物の肉など、意外とバラエティーに富んでいる。味付けは塩コショウや薬味もたくさん種類があるが、バターなどは少ない。油は植物の種から取れるものが中心で、揚げ物をするほどは取れない。ヘルシーと言えばヘルシーだ。
畑はほとんどブドウやリンゴの畑で穀物は外から買っている。ちなみにこの果物はほとんどが最後に酒になる。おいドワーフ。なんでも酒にする。ハチミツも採れるがハチミツ酒になるので子供と大人でハチミツの奪いあいが時々起こる。おいドワーフ。酒屋を見ると窓ガラスに四、五人は常にドワーフが張りついている。ちなみにセラフィーも張りつく。おい五才児。
セラフィーたちは普段は洞窟、自分たちの掘っているトンネルの中で暮らしているが、商店などはトンネルの外にある。
二方向を崖に、二方向を山に囲まれた土地で、魔物などもほとんど入ってこれない地形になっている。人は崖にかかる二本の橋で出入りしている。
人口は八百人ほどいるはずだがドワーフのほとんどが職人で、しかも集中して作業を始めると引きこもって出てこないので表通りを歩いている人は数十人しかいなかったりする。……こんなだが結束は強い。
例えばセラフィーは錬金術を習ったり狩り、武術などを幅広く習ったりしているが、どこでも普通に受け入れられている。錬金術師は父方の祖母マワタだが、歩き回れるだけ治安が良いのである。そして仲間の夢や趣味を妨げることをまずしない。
のんびり長閑な村で、時々セラフィーはここが戦争だらけの世界だと忘れてしまうくらいだ。女神様ももっとハードなところに落としてくれたらよかったのに、なんて、この頃は思っていた。そもそも戦争と言うものに実感が無かったのである。
ドワーフ五才児可愛い、ドワーフ親父可愛い、と思ったらブックマークと評価をよろしくお願いします。
ドワーフは生まれた時から飲みますが人間は十五才からです。特に法律は決まっていません。日本人はお酒は二十歳になってから!