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人間は脆すぎる

 二話目です。よろしくお願いします!



 ユグイツ伯爵が攻めてくるってよ。


 ダンジョンから帰還したセラフィーたちを待っていたのはまた人間との戦争の話だった。


 ぶっちゃけて言えば暁の星がレハナに肩入れする意味はない。どこにでも旅立てるし明日敵になることもあるのが傭兵と言うものだ。


 さらに言えばセラフィーはその傭兵団にすら所属していない。レハナに味方する意味はないし、いつでも逃げれば良いのだ。ただこの街で少し過ごしすぎた。領主の娘やら宿場の歌い手やらに心を寄せてしまったのはセラフィーの性質のようなものだ。愛深きゆえに。人間を砕いても楽しくはないが、攻めてくるなら抗う。当然だ。


「人間との戦争が一番面白くねえ」


「分かるけどな」


「一応レハナ伯爵と契約を交わしてしまっているので暁は戦うことになっている」


「私は戦わなくていいんだよな」


「セラフィーが戦わない?」


「私ガムさんの頭蓋骨を砕いてもいいと思うの」


 セラフィーのつぶやきにガムマイハートが応える。仲間のために、失わないために、セラフィーは戦うのだ。そこにつけ込むガムマイハートは悪辣である。セラフィーは唯々諾々と乗ってしまうのだけれど。意外とそういうところが好きだったりする。流されるのは悪くない。


 それに今日はなぜかこの人がいる。


戦争おまつりは嫌いではないですよ。一般市民が傷つかない範囲では」


「エリさんわりと武闘派?」


「私ほどの戦闘狂はいませんよ。たまには戦いたくて今日は来ましたし」


 エリさんが戦ったところなど見たことはないが戦闘狂らしい。武器は仕込み杖だ。格好いい。


 今日はエリさんのコンサートである。セラフィーはすでに限界に達している。


 静かに戦争が始まっている。人間なんて脆すぎるのだが、挑んでくるなら跳ね返すしかあるまい。


「私はエリさんのライブを見ながらブランデー舐めてたら幸せなんだけどなぁ」


「有り難う。まあ楽しんでね」


 楽しむ? いや、楽しい。そこに労力はない。セラフィーはエリさんオタクになってしまった。


「新曲ありますか」


「あるわよ。楽しみにしててね」


「うへ、楽しみすぎてヤバい」


 娯楽のない世界で、アイドルはご馳走であった。


 憂鬱な戦争などさっさと終わらせてしまおう。セラフィーにそう決意された以上、終わりは遠くない。


「トリシューラ」


 セラフィーは一撃で決めに行く。全力の二割程度のトリシューラである。中央を貫いたトリシューラはそのまま地平線に達し、空の彼方まで消えていく。敵の本陣はこれで壊滅した。大量虐殺だが心はなぜか痛まない。身内が死ぬ方が、死ねる。


「貴様らの神に祈れ」


「やりすぎじゃないかな。氷の剣よ、全て斬り崩せ。絶 対 切 断(コキュートス)


 トリシューラで光の壁が敵を押し潰し、生き残った者もコキュートス、氷の刃で斬り刻まれる、まさしく地獄である。


「ハイエルフも万能説?!」


「虫籠に入れておこうね!」


 いらないことを言うウーシャンはエリの手により虫かごへ送られた。フェアリーもまあまあ万能であるのだが。ウーシャンは虫籠が似合う。


「四元素砲! 食らえ!」


 フェアリーも強かった。虫籠から手を出して強力な魔法を放つ。そもそも彼女はセラフィーと一緒にレベル上げしてきた勢である。


「私の仲間のメイ(フェアリー)もそうだったけどフェアリーの魔力強すぎるよね!」


「エリさんと同年齢のフェアリーとかヤバそう!」


「私は永遠の十六歳だもん!」


 エリさんは強すぎたのである。本気を出しているセラフィーが勝てそうにないレベルで。なんでエリさんが戦ってるのかという話なんだけど。


「痛いのは嫌でしょう? 私が痛いのはいいんだけどね。誰かが苦しむなら私が代わりに苦しみたい。ずっとそうやって生きてきたの」


「十六年ですか?」


「十六年ね」


 美少女ハイエルフは十六才から年をとらないのである。数百年の時を超えて修練を積んでいたりしないのである。エリさんは天才なだけである。セラフィーも大概な天才だが。


「う、う、うーん、あの三人だけで戦争終わったんじゃないかな」


「暁の星で仕事を請け負ってるから戦わねばならんぞ」


 ガムマイハートは真面目である。意外とカルヴァインの方が不真面目だった。戦うと強いのだか。


「なめるなよ傭兵どもがあっ!」


「なめるけど」


 敵の武将らしき人物が出てきたが雷をまとった片手剣を逆袈裟に電光石火で振り切り、鎧袖一触、カルヴァインでも倒せた。いや、カルヴァインは傭兵の棟梁なので弱いわけがないのだが。ちょっとセラフィーとエリが規格外なだけである。


「人間って脆すぎて遊びにもならないね」


「セラフィーも一応人間だからね」


 セラフィーはカルヴァインも呆れる強さである。レベル制の世界なのでひとえに経験値が違うのだが。


「ドワーフ万能!」


「妖精の標本とか作ろうかな?」


 セラフィーならやりかねないのでウーシャンは黙った。ウーシャンもセラフィーと一緒にレベル上げしていたので暁の星メンバーでも歯が立たない程度に強かったりするが。


 本格的にレベル上げしたいとカルヴァインは思った。


「とりあえずレハナ伯爵は殴っていいと思うの」


「セラが殴ったら砕け散るからダメだぞ」


「カルさんも殴っていい?」


「ダメだが?」


「ちょっと先っぽだけ斬っていい?」


「エリさんに斬られたらほんの少しでもHP全損しそうだけど?」


「レベル制の世界ってそういうとこあるわよね」


 エリもセラフィーも迂闊に他人を殴れないのである。レベル二百超えは伊達ではない。手加減もできるが。


 二人とも蘇生魔法を使えるが生き返るから殺していいわけではないのである。拷問は得意だが、人間はとにかく脆すぎた。


 つまり、戦争と言うか、翻弄はすぐに終わった。セラフィーの一撃目で終わっていた気もするが、指揮が無くなると暴徒が湧くもの。セラフィーとエリはその暴徒を暁の星に任せて前線を離れた。


 レハナ伯爵ローレットの思惑通りなら、もう二、三軍は敵が現れる。


 その中に、奴らがいるかもしれない。






奇襲に来てた敵将「本隊壊滅一秒以下ってなんやねん」


 ブックマークと評価をよろしくお願いいたします! 続きはちょっと手間取ってますがストックはまだまだ有りまぁす!



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