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セラフィーが聖女になるまで

 二話目です。よろしくお願いします!



 少し時間を戻し、セラフィーがもぐらの里で火事場泥棒を働いた商人のマルジグラを追い込むために聖女と呼ばれるようになるまでの話をしよう。


 まずセラフィーはヤミン男爵から紹介された情報屋の女と接触を図った。といっても八百屋だったりする。おしゃべりな女将なのだがいつの間にか情報通になっていてレハナ伯爵領近郊のことで知らないことはほぼないのでは、とヤミン男爵には説明された。名前はモニカというらしい。


「はいらっしゃいらっしゃい!」


 元気な声を息もつかず上げる球体のような体型のオバサン。セラフィーの好きなドワーフ体型だ。人族だが。


「こんにちは」


「はいよぉなんにする?」


「んー、のどが乾いてるから瓜を」


「こっちが瓜のコーナーだよ! ドワーフとは珍しいねえ!」


「もぐらの里からきた」


「ありゃ、たいへんだったねえ!」


 さすがにもぐらの里壊滅は知ってるか。とすると血塗れ聖女の話も伝わっているかもしれないな。


「この高いやつもらう」


「はいよ千グリン!(三万円程度)」


「火事場泥棒の商人とか出たし、橋も落とされて全滅、私もよく生きてたなと思う」


「そりゃ大変だ。ろくなことしないね! 危ないからみんなにも注意うながしとこうねぇ!」


「しばらく神殿で治療のアルバイトをするつもり」


「お嬢ちゃん名前は?」


「セラフィー」


「そっかいセラフィーちゃん皆にも宣伝しておくよ!!」


「有り難う」


 どうやらこれで仕込みはできたらしい。千グリンくらいなら安いものだ。星属性の『切断』で瓜を割ってかじる。甘いな、メロンだこれ。一切れだけ食べて残りはインベントリへ。


 さあ、神殿に行って治療院と契約してこなくちゃね。


 セラフィーは汁で汚れた手を魔法で浄化してから八百屋を離れ、表通りを目指した。




「……それでね、もぐらの里は機人兵に襲われて全滅したんだけど、その時居合わせた商人が火事場泥棒した挙げ句に橋まで落としたんだって!」


「あら酷いわねえ。どこの商人?」


「その時もぐらの里と商売してた悪いやつなんてマルジグラくらいなもんさ! 悪どいことやってるとは聞くけどねえ!」


「もうあそことは取引やめた方が良いわね。旦那に言っとくわ!」


 セラフィーの蒔いた種は親切な八百屋のオバサンに広められていく。まあ情報屋なので情報拡散能力はかなり高かった。これが始まりであった。




「ここか」


 セラフィーは祖神教の神殿を訪れる。神殿は教会と袂は同じだがほぼ別の組織だ。女神の像を掲げ僧侶たちが祈りや修行を行っている。一般には裁判や治療院で関わっている。参拝客もいるが神社のような扱いだろう。教会はもっと積極的に一般人と触れあう。教育を施したり孤児院を運営したり布教も行っている。地上の神を崇める宗教もあるが、概ね神殿や教会と言えば祖神教のものだ。


「ではセラフィーさん、半年の間ですがよろしくお願いします」


「お願いします」


「ステータス閲覧で職業鑑定はさせていただきましたからね。期待しております」


「名に恥じぬよう、頑張ります」


 職業聖女セラフィーの活動が始まった。勇者ルシアにさんざん弄られそうである。やっぱり聖女様! とか言われたら絞めないと。


「はい、これで大丈夫ですよ。次の方」


「風邪を引いてしまいまして」


「症状は……」


 初日は数十人、軽い怪我や火傷、風邪が多かった。それでも忙しい感じはしなかった。


「子どもが転んで怪我をしまして……」


「包丁で切っちゃって……」


「ダンジョンで打ち身しちゃって……」


 二日目、なぜか客足が伸びた。八百屋さんの宣伝か? それでも百人程度、いずれも軽傷だ。


「傭兵団でダンジョンに潜っていたんだけどドジしちゃって……」


「転んで骨を折りまして……」


「聖女様、罠でこいつ死にかけてるんだ! 助けてやって……」


 三日目、身体に軽い欠損がある傭兵や冒険者が来た。中には重症もいたが、欠けた指だけでなく全身の傷痕を回復(ヒール)一発で治療した。大いに喜ばれると共に仲間にも教える、といって帰っていった。


「聖女様こっちだー!」


「こいつも見てやってくれ!」


「オーガの巣を潰す仕事でちょいと無理してな……」


「怪我人だー!」


「もう一つ傭兵団が来たか……」


「冒険者も団体で来ています……」


 四日目、傭兵団が二つくらい来たらしい。普通の傭兵団は五十人を超える。めちゃくちゃ忙しくなる。八時間で四回魔力が全快になるセラフィーなので難なくこなしたが。この辺りでセラフィーの名前がよその領地にまで広まり始める。


「聖女様、私は治るのでしょうか……」


 五日目、重い精霊毒症の貴族の患者が訪れる。魔力を抜き、精霊の落ち着きを待つために二日ほど入院させる。ここでマルジグラの雇ったチンピラに襲撃を受けたが撃退し、さらに名声が高まる。


「聖女様、私はレハナ伯爵に仕えておりまして……」


「行商中に盗賊の奴らに襲われて……」


 六日目、貴族や商人が患者に混ざり始める。先の貴族の治療がどうなっているか聞いてくる者もいた。結構交遊関係の広い貴族だったようだ。


「もうすっかり元気です!」


 七日目、先の貴族の治療が終了、いたく感謝される。この日から街中でも少しずつセラフィーを聖女と呼ぶ人が増え始めルシアが喜びすぎてウザいのでアイアンクローを食らわせる。頭蓋骨がみしりと音を立てたので慌てて回復した。


「どど、どうしたんだ、なんで貴族のお客様まで契約を切るって……」


「マルジグラは元々評判の悪い商人ですのですでにかなり追い詰められておりましてな……」


 八日目、マルジグラが幾つかの商店、貴族から取引を取り止められていると患者の貴族に聞く。この貴族さんはどうも訓練中に誤って腕を折ったらしい。一発で回復したら喜んで跳び跳ねて机に脛を打って折った。すぐに治す。ドジなの?


「ここに噂の聖女様がいると聞きまして……」


「あそこがマルジグラの店か、ようし……」


 九日目、周辺の領地からの患者が増えて目が回るほど忙しくなる。周辺にもマルジグラの悪事が広まったらしくいくつも支店が焼き討ちにあったりして潰れたらしい。本店にも石が度々投げ込まれているとか。


「もはやここまでか……ガクッ」


 十日目、とうとうマルジグラ本人が倒れた。運ばれてきたので一応回復する。謝られたら殴り殺しそうなのですぐに他の人に預けた。「八百人のドワーフの命は謝罪では戻ってこない」とセラフィーが呟いた。そのセリフはその日のうちにレハナ伯爵領全体にまで広がった。


 こうしてわずか十日でセラフィーはもぐらの里の悲劇の聖女と認識され、マルジグラ商会は倒産した。最後には従業員が商品を持ち逃げし金庫を荒らして終わる。自業自得の結果となった。背後にはレハナ伯爵やヤミン男爵ら近隣の貴族、情報屋の連合が大きく関わっていたらしい。


 マルジグラは逃げ出した先で盗賊に殺されたそうだ。刺客とかも送られていたので本当に気にもならなかったが最後くらい自分で殴り潰してやりたかった、と、セラフィーはブランデー入りの水筒(スキットル)をあおった。


 なにか、あっさり片付いたからかモヤモヤして、セラフィーは星属性魔法の占いを使ってみたがマルジグラは確かに死んでいるようだ。


 だがなにか、なにか引っかかる。


 そのなにかは遥か後、暁の星がレハナを立つ瞬間まで分からなかった。






 レハナ伯爵はトンネル事業にお金を出してました。


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