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機人兵

 三話目です。



 砦の中では予想どおりカルヴァイン団長と砦の責任者らしき男がやりあっていた。


「今回の任務は連絡役、後方支援と伺っておりますが」


「だからちょっと臨機応変にだねぇ、融通を利かせてだねぇ……」


 どうもオークの溢れる数が増えているため、暁の星は砦にて待機、と命じられているらしい。予想どおりな展開なのでセラフィーにはどうでもよかったが、交渉しておかないと団としては不都合な任務を押し付けられた形を黙って承諾したことにされてしまう。契約違反を突き上げないとなめられるし儲からないからね、団の運営は大変だね、と、セラフィーはのんきに眺めていたが、他のメンバーが砦の階段を上がり始めたので付いていく。


 結局話し合いは、あとで責任者に追及するし今回は騎士団が先発する、というところで落ち着いたらしい。こちらには不都合だらけだがセラフィーの目的は別のところにあるので構わない。


 砦の上からは土の剥き出した舗装のされていない街道と、少し標高の高い茶色のはげ山、その手前の森が広がる景色が見れた。田舎である。こんなとこでスタンピードを起こしてどうするのか。機人兵の考えることなど分からないのが常である。


 やがて騎士や兵士たちは砦の前に並び、カルヴァイン団長たちはこちらに上がってきた。どうやら斥候部隊が大規模なオークの群れに遭遇したらしい。さっそく来なすったか、と、セラフィーは舌なめずりをする。が。


「おいおいおいおい、多いんじゃねえの?!」


 まず声をあげたのは狼人の少年、カーティン=エリエス、アイリスの弟の剣士だ。狼に人の顔なのはアイリスと同じである。体もほぼ無毛だが尻尾はふさふさしている。身長はアイリスがセラフィーより頭一つ高く、カーティンことカートがさらに一つ高い。狼なのに臆病で、アイリスとカート仔犬人仮説は暁の星の中ではまことしやかにささやかれている。


「まあいけるっしょ。危なくなったら突っ込むよー?」


「任せた」


 意気込むセラフィーに返事をしたのは団長ではなくエルフの斥候の男、ナイセントスことナイスだ。エルフとドワーフだが、やはりセラフィーとは仲がいい。配色や顔立ちはセリナとあまり変わらないが歴戦の狩人で、魔法は風以外はあまり使えない。弓は百発百中で突出するセラフィーをよく援護している。


 騎士団は見る間に半壊したのでセラフィーが出陣。敵の中央まで一気に押し込む、と、そのセラフィーめがけてセリナから直径が10メートルはありそうな大火球が放たれた。直撃し、激しく土煙が上がる。


「味方を撃ったー!?」


 砦に残っている兵士たちもビックリである。やがて土煙が収まる。


 そこには元気にオークの頭をカチ割り、楽しそうに笑うセラフィー。無傷である。


 セラフィー自身もだがその服や鎧まで強力な魔物の生体由来のため、回復魔法がかけられれば回復してしまう。そして、セラフィーは常に自分に回復魔法がかかっている状態、オートヒールで何日も戦える化け物である。この程度では同士討ちにはならない。


 何度かセラフィーが位置を変え集団に突っ込み、その都度セリナから火球が放たれる。端から見ると仲が悪そうだ。しかし信頼関係があるからこそできる戦術だろう、そうカルヴァインは見ている。


「死ね死ね死ねぇ! くそドワーフ!!」


 信頼関係があるからこそできる戦術だろう、たぶん。


「セラフィーとセリナで紛らわしいんだよお! 改名しないなら死ねぇ!!」


 信頼関係があるからこそできる戦術だろう。……自信は無くなってきたカルヴァインだった。しかしとうとうオークは下がり始めた。セラフィーはそのあと前線に戻りオークをさらにドン引きさせる大立ち回り、現在に至る。


 セラフィーに回復され暴言を吐かれた騎士や兵士たちが元気に残りのオークを蹴散らしていく。他の暁メンバーたちも散発的に弓や魔法で攻撃してポチポチと潰すようにオークの数を減らしていく。そして、オークが残り少なくなってきたところでセラフィーが森に向け走り出した。光の噴射を背中から後方に放ち、一気に加速する。それはまるで翼のように。


「いたか?」


「そのようだな」


 森の中に光る金色の輝きを見て走り出したセラフィー。団長とガムマイハート副団長はその動きを見て、契約どおり攻撃を中止する。


 セラフィーと暁の星傭兵団はとある契約で繋がっている。


「……メインサーバへ情報を転送、こちら機人兵五式、1395号。攻撃対象、クレイアーツ王国レハナ伯爵領北西部、四番赤砦、オークスタンピードによる攻略失敗を確認。メインサーバ、通信不可、現状把握、オートモードへ移行……」


 森の中にいたのは、金色の歯車や配線や石膏の表皮を無理矢理に繋ぎあわせたような存在。まるで人間のような五体に、手足や腹部、頭部や首回りに金色の装備を着けたような、目の開いた石膏のデスマスクを着けたような顔のその存在。まさに異形。しかしこの世界ではとある神のもとより送られてくると、有名な尖兵。


 その存在を機人兵と呼ぶ。


「くぅうだあけえええちいいいいれえええええええええええええッッ!!!!」


「! 敵対行動をかくに……」


 セラフィーは問答無用でその石膏のような真っ白の顔面をハンマー黒銀で叩き潰す。その顔はオーク戦で見せた恐ろしげな笑顔よりさらにひきつった怒りの顔。目も口も裂けんばかりひきつらせ、歯を折れんばかりに食いしばり、全身を土精霊のオーラで包み込んでいた。


 機人兵の存在が疑われる任務を優先し、機人兵との戦闘を優先的に行い、その際はセラフィーのパーティーだけで戦う。


 それがセラフィーと暁の星傭兵団との契約である。






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