道の途中で
今日も二話更新します。よろしくお願いします!
セラフィーは土の上に毛皮を敷いて「神様が柔らかな寝床で穏やかに休めますように」と祈りを捧げると、そのまま横になる。しかしどうにも心が疼いて仕方がない。そのままでは眠れそうになかった。
団員たちはまだしばらく話し合っていたが、明日には男爵領に着く。早めに休むことにしたらしい。
カートが最後まで睨んでいたのがムカついたが、セラフィーは極力スルーすることにした。絡まれても困る。無関心が一番有り難い。カートにしてみれば、強いけど生意気な後輩に見えていた。
それにしてもこの団はエルフや獣人が多い。むしろ人族なんて数人しかいない。団が構成される過程で何事か有ったのかも知れない。セラフィーには踏み込むつもりはなかったが、いずれ知れるだろう。そんな予感がした。
寝返りを打つが、そこでどうしても村を出る、当分は帰れない、その気持ちが強くなった。皆が寝静まった頃、少し離れた森の中へ向かう。
その頃イライラして寝付けないカートは、その小さな足音を聞いた。狼獣人族のカートは、耳や鼻がとても良い。
セラフィーがキャンプを離れるのを見て、カルヴァインに声をかけた。
「……森に?」
「ああ。ちょっと声かける」
「……分かった、俺も行く」
二人が離れると、その後にも一人、いや、二人、それを察知した人物がいた。それには気づかずにカートとカルヴァインはセラフィーを追う。カートはセラフィーを見つけるとその肩を掴んだ。カルヴァインは少し離れて様子を伺うことにする。
振り返ったセラフィーの瞳は、少し濡れているように見えて、カートは一瞬ドキリとした。だがすぐにセラフィーはうつむいて、ぶっきらぼうに返す。
「……なに?」
「いやお前さあ、なんでそんな感じ悪いわけ?」
「ほっといて」
「いや、なんかあんなら言えよ! 話さなきゃ分かんないっつの!」
これはカートが沈んでいた時に団長に言われたことだった。自分の気持ちなんか誰にも分かんない、とすねた時に、話さないと分かるはずがない、と言われたのだ。その時はカートも確かに、と思って、いろいろ話したらスッキリしたのを覚えていた。しかしそれはこの場合、今のセラフィーの場合、特大の地雷だったのだ。
「……あんたさぁ、家族とか親しい人、亡くしたことある?」
「な、なんでそんなプライベートなこと聞くんだよ」
「……他人に踏み入ろうとするのに自分は踏み入らせないってわけ? ふざけるな」
「うっ!」
正論だった。しかしカートにもそれは踏み込んでほしくない一線だったのだ。だが、ここで話さないと、話し合わないと、自分も駄目になる気がした。
「……両親と、兄ちゃんと、妹が一人、……病気で死んだ」
「流行性の風精霊毒症ね。あるいは僧侶職がいなかったか」
「精霊毒だ……」
「他には? それだけ?」
「……それだけって、……村の人五十人くらい……」
「くらい? 大切な人なのに?」
「いや、それは俺が数字に弱いだけで、えーと、両親と、兄ちゃんと、妹含めて五十三人だ」
「辛かったの?」
「当たり前だろ!!」
「そう。私は両親と、にいと、婆ちゃんと、師匠と、酒屋でバカやってたドワーフ仲間や狩り仲間や友だちと、誕生日を祝ってお祭りを開いてくれた家族のような村の人たちと、……大切な人と、八百十三人」
「!?」
「数じゃない、それは分かる。でもいい? 私はもう、大切な人を作りたくないの! 失くしたくないの! だから近寄らないでほしいの! ……だから、人間なんて、嫌いなのよ……。私に係わらないで!!」
セラフィーは肩を震わせて、涙をこぼす。そのまま後ろを向き、走り去った。
カートは、自分がバカだったと悟った。あの村が、あんな風に、セラフィーの故郷は、炎に巻かれて半ば炭になった挙げ句に風雨に晒され、完全な廃墟になっていたのに。そんな故郷を自分が見たら、耐えられる気がしなかった。なのに。
バカだった。想像できたはずだった。
膝を突きそうになったところで、カルヴァインに肩を押さえられ、立ち上がらされる。
「今は見守るしかない。……俺も考えが足りなかった」
それをそっと見守るのはカートの姉、アイリスと妖精のウーシャン。
二人はセラフィーの心の傷を理解した。少しでも癒せたらいい。なにか少しでも、力を貸して支えたいと思っていた。セラフィーは力を貸すには強すぎるけれど。今だってこの森の奥で一人で感情を処理しようとしていたのだ。
やがて遠くから、狼が泣くように、セラフィーの泣き声が響いた。それを聞いたのは、ほとんどすべての団員だった。
翌朝、セラフィーはけろりとして朝食を作っていた。固いパンに切り込みをいれ、玉菜やトマト、胡椒たっぷりでロースト風に焼いた普通のドラゴン肉を薄切りにしたものを挟んで、そのままかじる。今朝はウーシャンとスヴァルトにも焼いたドラゴン肉が与えられた。歓喜。
セラフィーがあんまりにもけろりとしているので、カートはなにか声をかけようかと思ったが、カルヴァインには止められアイリスには頭をはたかれた。痛い。
その日は全員黙々と歩き、昼前にはヤミン男爵領、ヤミンの町にたどり着いた。
セラフィーの地は弱い心の少女です。
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