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男爵領へ

 二話目です。



 ヤミン男爵領へ向かう。


 本来もぐらの里の目的である南アルテシア山脈トンネル開通は国策であるが、最もメリットを得るヤミン男爵領、レハナ伯爵領がこの政策を推しており、税金もその二領から多く投入されていた。里の壊滅は経済的に見てその二領に大きなダメージを与えているはずだ。感情論として暁の星が派兵されたわけではなかろう。ないはずだ。


「ヤミンでは三日ほど滞在してその後、レハナに向かう予定だ。レハナでは半年ほど滞在する」


「……傭兵団の名声を広げるためか」


「まあね。セラフィーはそう言うの詳しい感じ?」


「一応村長の娘だからな」


 ほとんど政治より鍛冶の親父殿だったが、政治の話も食卓などではしていた。政治は戦争に係わるものだし、セラフィーはそこに興味を感じていた。あくまでも戦場脳である。


「戦いには協力するが他は自由にやらせてもらう。あくまで協力関係だ。それでいいか?」


「ああ、もちろん。良いように利用したりはしない」


「戦ならいくらでもする。後、セラで良い」


「ああ、よろしく、セラ!」


「私はセラフィーと呼ばせてもらう」


「いいよ、好きに呼べば。こっちはカルさんとガムマイさんと呼ばせてもらう」


「ガムマイ……構わんが、呼びにくくないか?」


「ぷっ、ははっ!」


 なにが面白かったのかカルヴァインが吹き出す。少しセラフィーの顔は赤くなった。


「そちらも紹介してくれるかな?」


「おっけーい! ボクはウーシャン! 名探偵さ!」


「ただの駄妖精だ」


「セラひどい!」


「わふおーん(オオクロモリオオカミのスヴァルトと申す!)」


「武士っぽいね~」


「いやわからん」


「わかんないね」


「狼語はさすがにな」


 セラフィーもカルヴァインもガムマイハートも狼語はわからなかった。仕方がないのでウーシャンが翻訳する。スヴァルトはしょんぼりお座りした。


 一通り挨拶を済ませたところで中継地点にたどり着く。今日はここで一泊だ。


「準備が済んだらアンとパーバル以外集まってくれ。二人は飯を頼む」


「はいよ!」


「分かりました」


「紹介しよう」


「ああ」


 暁の星傭兵団、団長は隣国の伯爵家の三男坊、カルヴァイン。副団長は魔人族のガムマイハート、参謀役は猫獣人のアンと、もう一人エルフのウィーギネストスという男がいるが男爵領で調整中。


 古参メンバーは無口なエルフのナイセントス(ナイス)、一メートルくらいの身長の、無口な小人女性のハルレシオル(ハル)、クールな兎獣人のマイト、横幅が広くてがっしりしている人族のラング。パーバルも古参に入る。


 ここ一年で入ったメンバーは身長が高くほっそりした犬獣人女性のパール、ショタ顔だけどむっつり難しい顔をした小人族のヨーズ、エルフ女性のセリナ、狼獣人のアイリスとカートの姉弟、最後に槍を杖のように立てた頑強そうで寡黙な蜥蜴獣人のナガルだ。現在は総勢十五名の傭兵団である。


「まあ一度に覚えるのは無理だろう。少しずつ覚えてくれたら有り難い」


「連携もあるからな」


「やっほードワーフ! よろしくね!」


「……」


「なになに、感じわるっ!」


「……うるさい」


「なんですってぇ!!」


 カルヴァインと話しているところにセリナが割り込んでくる。早速険悪なムード。ガムマイハートは顔を押さえた。もともとエルフとドワーフはあまり仲がよろしくないのにセリナの軽さとセラフィーの事情もあって更に空気が悪くなる。そこでカルヴァインがセリナを下げる。


「……ああ、悪いが、セラはこの村の生き残りでな、少し離れて見守ってやって欲しい」


「私は人間が嫌いだ」


「……セラ。わかるから少し抑えてほしい」


「……別に暴れたりはしない」


 セラフィーにしてみても自分が他人に対してびっくりするくらい臆病になっていて少し動揺している。まあセリナが踏み込みすぎたのはあるが。


「なんだよ、暗いやつ」


「カート!」


 声の大きいカートをアイリスがたしなめる。


「雑魚が吠えるな」


「はあん?!」


「くくっ、やっすい挑発に乗るなよ。戦場じゃ命取りだぞ」


「ぬぎいぃ……!」


「セラ、その辺で」


「……すまん、調子に乗った」


 案外セラフィーは素直である。ハガネに真っ直ぐに育てられた心は折れてもまだ真っ直ぐだった。折れた心は溶かして、固めて、じっくりと一から打ち直すしかない。今はまだ、溶かしていくところだ。


「ゆっくり付き合ってほしい。セラには客将として入ってもらう」


「……よろしく頼む」


「おーい、飯ができたよ!」


「じゃあ解散!」


 全員それぞれに散り、食事を始める。セラフィーは少し離れたところで土の精霊に台座を作ってもらい、鉄板と炭を取り出して、そしてエルダードラゴンの肉を焼き始めた。


 エルダードラゴンの素材がストレージ五十本も埋めているので片付けたかったのだ。牙や爪、肉、皮、鱗、内臓、骨、血の一滴に至るまで捨てるところがない。ストレージは現在二百を超えているがオーク肉や酒なんかもあってほとんど埋まってしまっている。ちなみにスヴァルトとウーシャンには焼きオーク肉だ。泣いた。


 しかし、エルダードラゴンの肉の香りは思ったより強かった。全員の目がこちらを向いている。セラフィーは冷や汗をかきつつ肉をサイコロにカットした。食前の祈りを捧げ、ブランデーのスキットルを取りだし、一口だけ口に含み舌で転がす。良い香りだ。肉を一口……。我ながら塩胡椒が絶妙で肉の旨味と香りが踊る。熟成してない肉でもドラゴン肉は美味い。ほふう、と息を()く。


「セラ、その肉って分けてもらうことはできないかい? 金は払うからさ」


「いいよ、なんか袋とかある?」


「私はインベントリ持ってるよ。受け渡しを選べば直接渡せるよ」


「へえ」


 料理人のパーバルがエルダードラゴン肉を求めてきたので渡すことにした。インベントリ同士だとウインドウのアイテム欄をクリックした画面で受け渡しボタンが出るようだ。ほぼゲームだ。思いきってストレージ一本分、九十九個、約一トンを渡す。


「多いよ! 払えないから!」


「はは、入団記念だ。まだ二十トンくらいあるから遠慮せずもらってくれ」


「はあ、桁が違うんだよ……。常識を覚えてほしいね……」


「私は私だ」


「……まあ、有り難くもらっておくよ。なんかで絶対返すからね」


「……そうか」


 セラフィーは自分で踏み込みすぎて、怯んだ。特にパーバルはダメだ。母親を思い出して心が痛い。


 楽しみにざわめく団員たちを横目に、セラフィーはスキットルからもう一口、ブランデーを口に含んだ。






 セラフィーはとても弱いです。


 そして突然の飯テロ!


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