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暁の星

 二話投稿します。



「君の話を聞かせてもらえないか」


 カルヴァインと名乗る金髪碧眼の貴族みたいな服装の男はそう切り出してきた。ショートヘアだがさっぱりしていて好感が持てる。童顔だが、率直に言ってイケメンだ。


「もぐらの里の生き残りだ。それ以上聞きたいことがあるか?」


 セラフィー一人で取り戻せたのは事実だろう。カルヴァインは冷静に考えた。獣人やエルフの仲間は騒ぎ立てるが魔人の副将、ガムマイハートも冷静である。彼らを止めた。


「主要な人と話をしておこう。あんたらの力は必要かも知れないし」


「ふむ、いいだろう。こちらも依頼を果たしたとは言えない状況だ。機人兵はほとんど君が倒したようだしな」


「まあ、雑魚だったな」


 昔はそこそこ苦戦したが、さすがに五年も修行したのだ。問題はなかった。だが介入された以上話し合いは必要だ。


 暁の星傭兵団からは四人が出てきた。総勢十五、六人程度の小さな傭兵団だが、粒は揃っていそうだ。セラフィーの目的について話せば力になってくれるかもしれない。



 原初の機神を倒すのだ。



「まずはメンバーの紹介をしよう」


「そうだな。私も自己紹介くらいはしよう」


 セラフィーの反応を妙だな、と感じたカルヴァインだが、ここではスルーした。なにか壁を感じる。


「今ここにいるのは、俺、団長のカルヴァイン、副将のガムマイハート、参謀をしてくれてるアン」


「よろしく」


「よろしくお願いいたします」


「セラフィー、ドワーフだ」


 アンと呼ばれた少女は猫の獣人だった。普通の人間のような顔は皮膚もツルツルとしているが頭から猫の耳が出ている。可愛い。ガムマイハートは魔人のオッサンだが褐色の肌に黒髪、額から後ろに流れる白い角の精悍なタイプのイケメンだ。これから彼の胃はセラフィーに痛め付けられるので重要人物である。


「最後は、まあうちのおっかさんだ」


「なんだいその説明。だいたいなんで私なんだ?」


 最後に紹介されたのはパーバルという赤い髪に白肌の四十前後(アラフォー)の女性にしては身長が高く、筋肉質な人族の女性だ。この傭兵団で料理を担当しているらしい。なんでここに来たんだ? カルヴァインなりに必要を感じたらしいが。ただその風貌がお母ちゃんみたい、とセラフィーはすでに惹かれていた。



「君のことを聞かせてほしいんだ」


「そのつもりだ。私はセラフィー。たぶんこの村の最後の生き残り」


「やはり君が血塗れ聖女か」


「なにその不名誉な二つ名」



 血塗れ聖女がドワーフ村の生き残りであるという噂は地元のヤミン男爵領ではもう当たり前のことのように広まっていた。五年も経ったのである。その噂には尾ビレ腹ビレ胸ビレ背ビレに翼もついて羽ばたいて火まで吹いていた。つまり炎上して近隣諸国にまで広まっている。セラフィーにしてみれば良い迷惑だが。


「あんたたちと行動を共にしたいとは思う。だが、私に語りかけるようなことは控えてほしい。力は貸そう」


「また難解なことを言ってきたな」


「私は人間が嫌いだ」


 ガムマイハートは、腕を組む。セラフィーの思惑が分からない。別に仲良くして良さそうなものである。彼女は話せば答えてくる。そんな人嫌いがいるものだろうか。


 この時点で気づいたのはカルヴァイン団長と料理人のパーバルだ。


 セラフィーは村を滅ぼされている。その悲しみは想像に難くなかった。誰かと心を通じ会わせて失ってしまう苦しみを、セラフィーは味わったのだ。それは想像を絶する痛みだったはずだ。……もう親しい人を作りたくない。それは壊れた発想かもしれないが、責められるものではない。セラフィーは別れの悲しみを恐れている。この二人の勘は少しだけずれていたが当たっていた。


「飯くらい作らせてくれるかね」


 しばらくの沈黙の後、パーバルが一番に口を開いた。セラフィーは少し鼻にシワを寄せる。その横で様子を見ている獣人のアンは、心配そうな目をパーバルにではなくセラフィーに向けた。この少女も普通ではないのだとセラフィーは感じとる。この四人はなかなか精神的に手強い相手のようだ。


「私はもう、失うのは嫌なんだ。だけど機人兵どもも許せない。力を貸してほしい」


 セラフィーの力は一戦共にしただけで十二分に分かったカルヴァイン。彼女の力を取り入れる何らかの方法があれば、暁の星はさらに高名になれるだろう。打算だと分かっていてこの話に臨んでいる。卑怯でも力を求めていた。


「君が客将としてうちに来るなら、機人兵の敵はできうる限り全て君に譲ろう。それでどうだ?」


「ん、魅力的な提案だな。一つだけ条件をつけるなら、私に深く関わろうとしないことだ。良いか?」


「問題ない」


 セラフィーにしてみれば、深く懐に踏み込まれないなら飲んで良い提案だった。が。


「飯くらいは一緒に食って良いんだよね?」


「……良いよ」


 その時セラフィーは初めてうっすら笑う。この飯を推しまくる女、パーバルにちょっと心を惹かれた。ウーシャンたちもいるし、なにも完全に拒絶することはないだろう。人族は嫌いだが、全てが悪であろうはずもない。きっちりカルヴァインの策にはまった気はしなくもないが。


 私は、守るために、強くなった、はずだ。


 もう、後悔はしない。


 セラフィーは、そう、心で繰り返した。






 プロローグで協力をしている暁の星との出会いです。


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