居候
二話目です。
この戦いは暁の星傭兵団がひとつの依頼を受けたことから始まる。冒険者ギルドの酒場でなにもせずぐだっていたセラフィーのところにカルヴァイン団長がやってくる。
「セラ、次はこの依頼を受けようと思うんだが」
「なんで私に聞くんだよ。副団のガムマイさんに聞けばいいだろ」
暁の星傭兵団団長、人族のカルヴァイン=ラクトスセレナ=ルーインは隣国アウスローナのルーイン伯爵家の三男であり、とある目的のために傭兵団を設立し、この国クレイアーツ王国でまず一旗あげるために貴族家や冒険者ギルドの仕事を請け負っている。
金髪碧眼で傭兵に似つかわしくない白い肌、顔の作りは優しく、少年のように見えるがセラフィーより八歳年上である。セラフィー曰く、嫌みなくらいのイケメンだ。
貴族ゆえか指導力は高いのだが、なぜかセラフィーにご機嫌をうかがってくる。もともとセラフィーは客将としてこの傭兵団に入っているという経緯があるため、らしい。
セラフィーにしてみれば下心を四トントラックにいっぱいくらい満載しているので気を使う必要はないと言ってあるのだが。四トントラックで通じたのかは分からない。
「ガムにはもちろん言ってある。だが暇そうな任務だからセラには聞いておけと」
「あーん?」
セラフィーはテーブルに横顔を張り付けた態勢のままカルヴァインの持つ依頼書を奪い取る。好きなことは積極的にやるが、基本的には怠け者なのだ。
「……伝令、後方支援……? え、団長やる気あるの?」
もしも聞かれていたらやる気がないのはむしろお前だろ、と他の団員が総ツッコミするだろう。まあ今回の任務は他の団員も何割かしらけているのだが。傭兵なんて荒事が好きでないとやっていられない。
「セラ様、いっつも先陣切るんですからたまにはゆっくりされた方がいいんですよ!」
「うっせールシア、お前は私の嫁か」
「えへへ、セラ様さえよければ……」
「よかねーわ。私は女だバカタレ」
ルシア、チビのセラフィーと違い人族ながら身長170を超える、紺の髪に碧眼、真っ白な肌の美少女である。肩までの髪に可愛らしいアーモンドアイ、おとなしめな性格に見えて積極的な娘だ。とある事件から彼女はセラフィーにベタぼれで一時期は聖女様と呼んでいたくらいである。セラフィーが力ずくでやめさせたのは想像に難くない。ちなみに胸は控えめの控えめの控えめだ。要するに絶壁、大平原である。スモールスケールなのに表現は雄大だ。
「この任務は少しキナ臭い。どうも罠の臭いがする」
「ガムマイさん、なんでそんなん持ってくるかね」
さらに声をかけてきたのは副団長、魔人族のガムマイハート=ノクス=ディレングスレイト。
黒い髪に金色の瞳、白い二本の角は額から後ろに伸びている。なめらかな褐色の肌で、切れるような瞳と引き締まった口もとが凛々しい知的な美丈夫だ。魔人族は普通は魔王国ヤーシャンケルで働いているため、この人族の国まで旅してきて傭兵団に所属している辺り、変わり者と見て間違いないとセラフィーは思っている。ちなみにカルヴァインをカルさんと呼んでいるため、ややこしくならないようガムさんではなくガムマイさんと呼んでいる。
「んー、散発的だけどオークが出てくると?」
「どう思う?」
ガムマイハートは意外とセラフィーの勘を信用していた。ドワーフは危険な洞窟で暮らしているために五感も、そして勘も優れている場合が多いのだ。毒ガス、崩落、毒水、魔物、様々な危険と隣り合わせで生活しているためだと思われる。街暮しのシティードワーフの場合はその辺りの能力が落ちているが、セラフィーはもともと洞窟住みの本格的なドワーフだ。だった。
「オークばっかりってあからさまに怪しいだろ」
「やっぱりそう思うか」
ガムマイハートの説明によると、この依頼先の四番赤砦は北西の森を警戒して建てられた砦だ。本来の北西の森はゴブリンやオーガなどの森住みの人型の魔物が多く住む土地で、もちろんオークもでるのだが、こうもオークばかりが森を出てくるのはいささか不自然であるということだ。
「機人兵絡みの人為的スタンピードの前兆だな。行っとくか」
「だがな、依頼料はそんなに出ないぞ」
「後方支援名目だからねー。確実に狙って契約違反かましてるねー」
「ギルドも調査中の依頼だ」
「だから?」
この任務はどう考えても後方支援と言いながらスタンピードを抑える戦力を補充するための依頼だ。だがスタンピード対策ですよ、とバカ正直に依頼を出すと高額になるために後方支援をかたっているのである。明らかに詐欺だ。しかし、
「契約だから頼むね」
「そういうと思ったからセラには聞いておきたかったんだ」
「セラフィーには世話になっているのでな」
「決まりだね」
「またセラ様が危ない橋を渡るのですね……」
「いまさらだって。よっし」
先ほどまでのぼんやりから目覚めたように立ち上がる。もともとセラフィーはこの傭兵団の客将である。しかし彼女は暁の星傭兵団において切り込み隊長という危険なポジションを請け負っている。
それはこの契約があるためであった。
◇
そして四番赤砦と呼ばれるこの森の魔物対策の小さな砦に暁の星はやってきた。
本来この砦はスタンピードのような危険な現象を事前に察知し、本隊へ報告するために存在している。それ以外では森から街道に溢れる魔物をチマチマ狩るだけの、閑職に追いやられた騎士たち兵士たちが受け持っているほとんどおまけのような部署だった。総兵数四十人から五十人が常駐。暁の星団の二倍と少ししかいない、連絡用としても小さな砦だった。
「見回りもできないんじゃないの?」
「まったくなぁ」
セラフィーに話しかけてきたのはエルフの魔術師、フィクスセリナこと、セリナだ。典型的な金髪に翡翠の瞳と白い肌、細身で長身、耳の尖った美しいエルフの少女だ。もともとエルフとドワーフが仲が悪いという小説や絵本が多くあったために時おり険悪になったりするエルフとドワーフだが、この二人ももともとは険悪な仲だった。セラフィーが無謀な戦略を打ち続けて行くうちになぜか打ち解けてしまった間柄である。
その理由とは、
「んでセラ、スタンピードなら例の作戦やるんでしょ?」
「なんで楽しそうかねぇ。セリナはサド過ぎるわ。他の兵士や騎士を巻き込まないでな。団員はいいけど」
「勘弁してくださぁい!」
二人に割って入ったのはアインリス=エリエスことアイリス。アイリスは狼人の僧侶という珍しい取り合わせの少女だ。髪も目も灰色だが顔は白い肌の普通の人の顔で、頭頂部には可愛らしい狼耳がピコピコしている。尻尾もふかふかだ。性格は犬人より犬らしいと暁の星では可愛がられている。だいたいこの二人の無茶で出る怪我人担当の至極まっとうな僧侶である。セラフィーが変なのである。
「まあどうせ私が突出するしアイリスの出番無いと思うけど」
「今回は騎士たちが先に出そうだけどねー」
「騎士さん巻き込んじゃダメですよぅ!」
「倒れた騎士たちはなるべく私が回収します!」
「ルシアは前衛でしょうが」
「セラ様のサポートです!」
「ルシアもヤっていいよね」
「よくありません!」
年頃の少女が四人もよると姦しい限りである。この四人の場合、前衛がセラフィーと長剣と魔法のルシア、回復役がアイリス、そしてセリナが攻撃魔法を使う後衛だ。二十人近い傭兵団でこの四人はいつも固まって斬り込んでいく役割を担っている。他の女性メンバーは団のサポートメンバーが多い。
四人はワイワイ騒ぎながらも先に入っていった団長たちのあとを追い、赤い砦へと入っていった。
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