一年後
セラフィー空を飛ぶ。
今日の三話目です。
もぐらの里の壊滅から一年が経とうとしていた。セラフィーは森の中間地点付近まで侵入、オーガやトロールと戦い経験値を稼いでいた。目覚めの魔法や疲労回復、持久力回復、夜には灯りなどの魔法を駆使し、不眠不休で戦った結果、レベルはすでに百を超えている。もはや世界でも上位の実力者である。現在は新たに手に入った魔法でトレーニングを繰り返していた。
光の翼。天使の羽のように広がる翼ではなく、収束した光線が背中から発射され、ロケットのように空を飛ぶ。これを黒銀からも発射して超高速でハンマーを叩きつける技術とあわせて鍛練を行っていた。
魔法を発動する出力やタイミングの問題で、その場で頭から転んだり逆さになってすっ飛んだりハンマーだけ飛んでいったりと、非常に高いセンスと経験が要求される難解な魔法だった。戦いに使う魔法じゃないのかも知れない。
最近ようやく慣れてきたところである。ちなみになぜか山狩りのようなことが行われて捕まりそうだったので奥地に逃げてきていたセラフィーだった。うっきー! 珍しい猿ではないはずだが。
奥地まで着いてきたオオクロモリオオカミのスヴァルトことオーク肉消費係はセラフィーと一緒に戦っているうちにレベルが上がったらしく、魔法を使えるようになっていた。いずれ森に帰すつもりなのだが強くなりすぎてヌシみたいにならないか心配である。セラフィーの真似をしたためか魔法体系は僧侶のものになっていた。回復魔法を使いたまにレーザーを吐く狼の誕生である。
あれからもセラフィーは放心することが多い。戦っている間だけは正気を保てるものの、一日の半分はなにも考えられなくなる。過去のことを思い出すわけでもないので、これは心の防御反応に違いない。
「オーガか……」
「くぉん」
「殺るか」
敵を見つければ途端に意識に火が灯る。戦いの始まりである。
最近セラフィーは防御を捨てた戦い方をすることが多くなった。痛みを感じていれば意識を保てるし、一人生き残った罪を償えるような気がしていた。
オーガの一撃をまともに喰らい、血反吐を吐く。通常即死級の一撃だが、自動回復が発動し跡形もなく傷は癒える。痛いは痛いが、慣れてきていた。腕の一本や二本落とされても動じない。これは逆に敵にとっての驚異となった。
普通は敵に致命傷を与えれば人間であれ魔物であれ油断するものだ。しかし、重症も無かったことにしてその場で反撃してくるのである。ある意味アンデッドよりタチが悪かった。
「死ね」
黒銀に光の翼を乗せ、高速で振るう。油断したところでハンマーが生き物のように飛んでくる。セラフィー自身が重心を崩していようが転んでいようが片腕だろうが、正確にハンマーが飛んでくる。ハンマー自体に殺気などあろうはずもなく、時に死角から飛んでくるそれに、魔物たちは蹂躙されるしかなかった。
「オーガの頭蓋骨もなかなか砕きごたえあるな」
「くぉー?」
「腰を据えてぶん殴らないと変なクセがついてる気がする」
「くぉん」
戦い方の幅は広がったものの、戦略を絞って鍛えているわけではなくて、どこかすべての技が中途半端な気がしてしまう。レベルをただ上げるだけでは本質的に強くはなれない気がしていた。ともあれ、今は鍛えこむ以外になかった。まともに戦うにはいささか相手が弱い。力押ししかしてこない魔物ばかりなのだ。魔物に戦略を求めるのが無理かもしれないが。
魔法を全開で合成して搦め手で、そういう戦いはほとんどしていない。全力で戦ったのはいつの日だったか。
ふと、スヴァルトが顔を上げる。なにかを見つけたらしい。
魔力感知を広げてみると小さくて、しかし高い魔力を持った存在が、大きくて弱い魔力の生物に追われているのを感じとった。なんだろう? 放心していたセラフィーも思わずそちらに意識を向けた。
「たぁすけてぇ~っ!」
「人語?」
こんな奥地で? そうは思ったが戦闘の気配がする。セラフィーはぼんやりする頭に活を入れた。
そこに飛んできたのはトンボの羽をつけた妖精だ。妖精からの救援要請……。なんでもない。
追いかけている犬の魔物にナイフを投げつけた。きゃおん、と一鳴きしてひっくり返った犬をインベントリに入れる。またつまらない肉が増えてしまった。
「あ、ありがとう……助かった……」
「礼なんか要らない」
「う……分かった。ボクはウーシャンだよ。よろしくね」
「セラフィーだ。こっちはオーク肉消費係のスヴァルト」
「オーク肉消費係?!」
オーク肉が余りまくっているので重要な役職であるのだが、なぜか皆に不評だ。オーク肉専用ゴミ箱よりはるかにいいネーミングだと思うのだが。服やぬいぐるみの造形センスは良いのだがネーミングセンスはそれに反するように最低のセラフィーだった。
ともあれ、ここでセラフィーとウーシャンは出会うことになった。
「ボクもついていっていい?」
「守らなくていいなら」
「それは大丈夫」
「犬に追われていたのに?」
「いざとなったら空に逃げれるし!」
まあそれはそうだろう。パニックを起こしていなかったら逃げる手段はあったはずだ。木の葉に隠れてもいい。
外神の時にも思ったが、人外で意志疎通できる相手は落ち着く。配慮しなくていいから。
そうセラフィーは評価した。
先日の火事場泥棒の件もあり、どうにも人間を信用できない。それに……。
今でもセラフィーの心には鍵が掛かっている。大切な人のことを、思い出すのが恐ろしい。
妖精を登場させるのは私の性癖みたいなものです。
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