黒銀の聖女
無双バトル物です。よろしくお願いします。けっこうサツバツとしてます。
その鋼は暴力だった。
振り回し、かち割り、へし折り、弾き飛ばし、打ち捨てる。
全てが決まりごとのように。
巨体のオークたちの顎を打ち砕き、頭蓋を叩き割り、脛をへし折り、胸骨を粉砕し、肋を突き破り。
強靭極まりない膂力をもって、近づくものは跳ね返し、ただ怯え動かぬ者をも打ちのめす。
それは暴力だった。
「ふんぬっ!」
「げぼおっ!」
下からかち上げられたハンマーは正確にして思うが儘にオークの顎の骨を打ち砕き、その後退された巨体は更に、後ろに控えていたオークたちをも跳ね退ける。数百と群がるオークもその一人の前では寡兵に過ぎない。
黒いヘッドに人の身長ほどに長い黒い柄、白銀の円盤二枚をエッジに取り付けたそのハンマーは通常の戦鎚のように相手を砕くのではなく、弾き飛ばすことに特化された大ハンマー。その鋼の名前は黒銀、それを振るうものは小柄なドワーフの娘。
身長135に満たない娘はその背丈よりはるかに長い二メートル近いポールハンマー黒銀を振り、2メートル150キロを超えるオークをものともせずに蹴散らしていく。
黒い短髪につり気味ながら大きな黒い瞳、透けるような白い肌に首には黒いチョーカー、白いラインがあわせ目に入った黒いコートの下には黒いシャツ、白い革の胸当てと同じくグローブ。下半身には黒いショートパンツとやはり白い革製のスカート、膝上丈の黒い靴下に白いロングブーツ。その死神のような装いの上に、戦場で声を張り上げ過ぎた喉は潰れて低身長のわりに声は低いし、胸は背丈のわりには大きいが、全体的な見た目は幼い娘に過ぎない。
彼女は暁の星傭兵団の切り込み隊長、セラフィー。たとえ成人しても小さなままのドワーフの娘である。
なんの因果か手元に握ることとなったそれはオリハルコンにアダマントを被せたレアメタルの塊にして、暴虐に、ひたすら振るわれる二メートル50キロの大ハンマー、黒銀。
ドワーフの少女の突撃、それはさながら戦場を舞い踊る武者の振る舞い。砕けたオークの頭から噴き出す血液も髄液も、黒い鋼にこびりつかない。いと速く、それは血飛沫すらも気化させるがごとき高速で振るわれる。
その幼い顔は歯を剥き出し、頬を吊り上げ、修羅のような笑顔で喜びを露にしている。オークの頭蓋を叩き割ることを趣味にしているような娘である。
彼女の軽い体で通常の何倍も重いハンマーに振り回されないのは、この世界を司るシステムと呼ばれる神の機構により与えられたゲームにあるようなレベル、その高さのゆえもあるが、主には経験により自由自在となった土精の加護のコントロールによる。強く振り回しても肉体は土の精霊により地面に縫いつけられ、さらには強靭な足腰で体軸がブレることさえ無い。しかも飛び上がる際には逆に体重を軽くもできる。
戦いの間、彼女の周りには常に黄土色の土精が光を放ち渦を巻いて見せている。
それはひたすらに、美しかった。
彼女を止めるべくその眼前に立ったのは、この数百のオークの部隊を率いるオークリーダー。その身長は2メートル50に及ぶ。身長132センチ35キロのセラフィーからすれば、正しく山の巨体である。その手に握る曲刀は二メートル近く、小さなドワーフの娘を斬り払うには、いささか大袈裟すぎる。
「砕きがいのありそうなデカ物だな」
「ぎょぼおおおおおおッッ!!」
仲間をことごとく殺された怒りに燃え、雄叫びを放つオークリーダー。それにセラフィーは驚いたり怯える素振りも見せず、すかさずその脛を折りに黒銀を下に回し振るう。オークはそれを読んで後ろに飛び跳ねた、が。
しかしセラフィーにしてみればその小さな動きが致命的な隙であった。
「おっせええええーーーツ!!」
「!?」
一旦地面を抉り運動エネルギーを殺したハンマー、それを躱して後ろに飛び傾いたオーク、その巨体を追うようにさらに踏み込むドワーフ、その小柄ながらも強靭な肉体から繰り出される膂力と瞬発力により、彼女の体重よりも重い塊が流れるようにオークの顎に撃ち込まれる。閃光を伴い振るわれるハンマーは正しく魔法の所業である。大刀は振るわれるまでもなくその一合にて戦いは終わった。
一撃必殺。
粉砕された顎も致命であるが、その太く頑丈なはずの頸椎をもへし折られている。オークリーダーは走馬灯を見る間もなかったであろう。絶命した。
「貴様の神に祈れ!」
それを受け、怯むオークの群れ。すでに戦の趨勢は決定していた。ただ一人の小娘に切り込まれ。
彼女の背後にはレンガを積み上げた赤い砦があり、彼女が参加する暁の星傭兵団の残り十八名の団員はそこで散発的な行動を繰り返しつつもただただ彼女を見守っている。
団長たる青年、カルヴァインも静かにそれを見つめていた。本来の任務は伝令と補助であるため彼は何の命令も下していないが、セラフィーは一人で戦いを終わらせてしまっている。
同じくただそれを見ていた新入りの狼獣人の少年カートは、思わず団長に話しかけた。
「団長あいつの職業知ってる?」
「ああ」
「……あれで合ってるの?」
「違いない」
status セラフィー レベル 245
種族 ドワーフ 性別 女 年齢 15
適職 僧侶 現職 聖女
スキル
神聖魔法三種 基礎魔術 土精加護
魔力探知 魔力操作 魔力変換 魔力回復(大) 詠唱破棄 魔法改変 直感
鑑定(初級) インベントリ(修復 サイズ調整 解体) アルテシア大陸共通語(人種一般) 種族特性(ドワーフ)
なんの冗談か現在のセラフィーの職種は聖女である。ただレベルが高くて使える魔法が多く、そのため聖女階級であるというだけの話で、人間性は考慮されていないと彼ら傭兵団の皆が思っている。所詮はステータスシステムというこの世界を司る機構が決めていることでしかないのだ。
ただ、戦場においては彼女が聖女と呼ばれる理由もある。
彼女の突撃に一旦オークたちが撤退の動きを見せると、元よりこの赤い砦を守っていた騎士や兵士たち、今は倒れ伏した彼らの背中にセラフィーは次々に触れていく。
その手は光り輝き、神聖魔法、太陽属性、回復魔法が発動されているのが分かる。
「回復、回復っと。触れなくてもいいんだけど触れた方が効くからな」
およそ助かるまいといった彼らの状態だが、セラフィーの爆発的な魔力をもってすれば基礎的な回復魔法でも瀕死に近い状態から現世に引きずり戻すことが困難なことではなかった。ただ性格が聖女でないだけであり力はそのもの。いわゆる高レベルな殴りヒーラーなだけである。
それにより一命を取り留めた者たちは当然歓喜するが……。
「あ、ありが……」
「私に礼は言うな。まだ残党が残っている」
「し、しかし」
「お前の仕事をしろ。行け」
「は、はい!」
五年ほど前から謝罪を受けたり礼を言われると虫酸が走るようになったセラフィー。言葉より思考より、まずは行動。小娘だが性格は実に漢らしい。
しかしセラフィーにはいつも分からないのだが、冷たく当たっているのにも関わらず何故か回復した兵たちは喜んで突撃していくのである。今しがたの兵も最初の突撃より元気にオークどもに突っ込んでいき、実力は無さそうなのに一匹血祭りにあげた。彼女の持つ魔法に身体強化の魔術や加護の魔法はあるにはあるが、回復魔法にはそんな効果は無いはずである。
「……正しく聖女様ですな」
「意味が分からん。私に人間性を期待するな」
年老いた騎士、おそらく上級騎士もセラフィーをほめるが、彼女は眉をひそめ実に嫌そうな顔で、言う。
「私は人間が嫌いだ」
今日は五話目まで投稿します。