森の一日
敗北者は神に祈る。
二話目です。
冷静になって、落ち着いて考えられる場所、欲しいな。どこかに小屋があったはずだ。まずはそこに行こう。
セラフィーは記憶を頼りに黒の森のきこり小屋を目指す。何日寝たのか分からないけど、体は疲れていない。自動回復が効いている。心は今すぐ命を投げ出したいほどに疲れているはずなのに、……そうか、これだけ突然だったんだ。現実感が追い付いてこない。頭がぼんやりしている。
インベントリから干し肉を取り出す。塩気の少ない食べやすいジャーキーをインベントリにしまっておいたんだ。親父がよくかじってたヤツ。……お父ちゃん。
「……祖神様の旅が心安いものでありますように。別れの苦しみに会いませんように。豊かな糧を得られますように……。いただきます」
お祈りの言葉。今の自分の不幸が神様に起こらないようにと祈る。優しい宗教だ。……お母ちゃん。
不思議と他人の幸福を祈るのは落ち着く。庇護される者ではなく庇護する者なら強くあらねばならない、そういう心の働きがあるような気がする。
「祖神様に導きがありますように。強くあれますように。優しくあれますように。心穏やかに過ごせますように」
宗教にハマる人はきっとこんな心持ちなんだろうな。最悪に堕ちて、なにかに縋らずにいられなくなるんだ。変な宗教じゃなくて良かったかもな。現世利益ないけど、この宗教。いかなる宗教も現世利益は有るらしいから、たぶんこの心の落ち着きが利益なんだろう。黒の森は深く、暗く、寒い。小屋までもう少しか。
セラフィーはすぐに小屋にたどり着いた。中にはなにもなく、誰もいない。一人くらい逃げてても良かったのに。
……ばあちゃんは人間に殺されたんだよな……。絶対に復讐する。忘れた頃に思い出させてやる。
親父、母ちゃん、兄ちゃん、近所のオッサンたち、商店のオバチャンたち、バンリ師匠……、……オーリ。
みんな死んでしまったのか? 夢を見ていただけじゃないのか? また森の中をさ迷ってたら、里のみんなを心配させてしまう。帰らないと。
「……ははっ、どこに?」
みんなの待つ里がどこに有るって言うんだ。あの世か?
祖神教は自殺を強く禁じている。輪廻に身を投げた祖神様が心安く旅できるように、というのが基本の教義だから、自殺したら神様を悲しませてしまうからな。
……一人、か。なんで生き残ったんだろう。ゼロには悪いけど、死んだ方がマシだった。
インベントリからブランデーの入ったスキットルを取り出し、あおる。
……この酒は一気に飲むものじゃないな。じっくり香りを楽しむ酒だ。ジャーキーをかじりながらブランデーをあおる。……ドワーフの酒に対する強さがこんな時には恨めしい。酔いたい時はあるものだ。
明日から、修行だ。今日は寝てしまおう。
『セラ、逃げろ! 逃げるんだ!』
『助けて、セラ、セラフィー!』
『くそっ、なんでこんな目に!!』
『痛い、痛いよおっ!!』
『……恨めしい』
「うわっ!? ……はっ、ハッ、はっ、ぐうっ!!」
……夢、か。まあまともな夢を見れる方がおかしいか。ああ、寝る前のお祈り忘れてた。朝のお祈りしておくか。全身にびっしょりとかいた汗を浄化の魔法で拭う。
「皆の魂が心安らかに過ごせますように。祖神様の助けとなりますように」
祈ることは、心を逃がすことなのかも知れない。今日からだ。もっと、もっと強くなる。強くなるんだ。もう、失いたくない。
セラフィーはとりあえずオークの巣にアタリをつけた。囲まれてもオークなら逃げられる。猪の方が強いからな。ホグジラとか建物が襲いかかってくる感じ。オークはお相撲さんくらいだから怖いっちゃ怖い。
そう考えてオークを各個撃破することにした。オークの頭は砕きがいがある。全力だと紙風船だけど。
前からバンリ師匠も言ってた場所にやはりオークの巣があった。セラフィーは慎重に場所を選び、偵察で回っているオークをまず探す。一匹ずつ削っていくのが理想だ。
師匠、オーリ、二人がいてくれたらな。考えて首を振る。二人はもういない。
……そういえば外神放っておいたけど大丈夫かな。仮にも神なのにひどい扱いである。まあ性格はクソなのだが。
本当は悲しみに暮れるところだろうに、目覚めて翌日に狩りに出ている自分は薄情ではないか、と、セラフィーは少し悩んだ。立ち直りは早い方だと思うが、たぶん状況を飲み込んでないんだ。立ち直ったのではなく、折れてない。現実を直視できていないから。
今は戦って忘れよう。セラフィーは頭の中で戦法を組み上げる。幾通りも組み立てる。……在庫を思い返す。調味料や野菜はたくさんあるが、有限だ。町まで買いに出かけることも考えないと。ならば素材や魔石も蓄えておかないと。
音を立てないよう森を進む。魔力感知を広げる。魔力が高い人は遠くの魔力まで操れるので、感知範囲もそれに伴って広がる。セラフィーの感知範囲はすでに一キロを超える。斥候のオークが数体いるようだ。オークのクセにツーマンセルで探索してやがる。セラフィーは静かに苛立った。どうしてくれようか、考えた結果、月の神に力を借りることにした。
セラフィーの戦いに染まる日々が始まります。
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