目覚め
ここで終わるわけにはいかない。
なにか、音がする。
機人兵の群れはまだ残っているはずだ。立ち上がり、奴らを蹴散らさなきゃ。
「……セラ……きを……に……」
誰だろう。なにか、冷たい手に抱かれている。
「……なかった……ね……セラ……」
なにか、謝られている気がする。でもたぶん筋違いだと思う。謝るような人は戦争しない。謝罪になんてなんにも価値がない。またどうせ殺すんだ。
戦争をしない人は謝らない。だからたぶん、筋違いだ。戦ってない人に謝られても困る。もし謝ってきたのが本当にあいつらなら、聞かないよ、そんなの。本当に恨みに思ってるから。
「……バリアフィールド展開。生命力走査、エナジーポーション投入。精神接続。セラ、聞こえる? このバリアは一週間は持つから、ゆっくり休んでね。ごめんね、間に合わなかった」
「……だれ……」
……ゼロ?
そうか、情報を読み取って助けに来てくれたんだね。オーリや親父は大丈夫かなぁ。
「ごめんね、セラ。助けられたのは、あなただけ」
「……そ……」
そこでセラフィーの意識は再び闇に染まる。
それを見つめるのは機人兵ゼロ式。冷たい計算の積み重ねで再現された心は、きっと人のそれとは違う。
だけどゼロ式は複雑に絡まった数式から一つの言葉を算出する。この設問の回答を正しく示すならば、怒り、だ。
「くけけけけけけけ……」
奇妙な鳴き声のような笑い声でセラフィーは目を覚ます。……ここはどこだ?
「起きた? 不幸、不幸、とっても不幸。悲しい? ねぇねぇ悲しい?」
なんだこのムカつくやつは。顔を上げるといやに整った顔の少年が黒いシルクハットをずらして顔を見せた。スーツもネクタイも真っ黒だ。だから真っ白な顔と髪の毛が目立つ。整った顔だが口は裂けてギザギザの歯を剥き出しにして笑っている。目も白いが……こちらを見ているのにこちらを写していないような空虚な光をたたえている。率直に言って気持ち悪い。
「悲劇、悲劇、悲劇を見るのは楽しいねえ? 楽しい? ねぇねぇ楽しい?」
「……ざっけんな……なんだてめぇ……」
「僕? 僕?」
名を訊ねるとひどく嬉しそうに跳びはねその気味の悪い少年はニヤニヤと笑う。十メートルは離れてるのに歯の隙間からよだれを飛ばしているのが見える。気持ち悪い。
「僕はぁ、げしーん。げしん。外なる神。国持たぬ神。戦争しない神。他人の欲を、苦痛を、貪る神。みんな大好き外神さまでーす!」
「阿呆は嫌いだ」
「がーーーん!!」
大してショックも受けていない口調で、言う。なんと言うか、話しているだけで頭が痛くなる。だけどお陰で嫌なことは頭から抜けていく。怪我の功名か。
みんな、死んでしまった、のか?
セラフィーは後ろを振り返る。谷があり、その向こう、……もぐらの里が、燃えている。……。
涙と、声にならない声が、喉から漏れる。本当に悲しい時は泣けないという。……なら私は薄情なのだろうか。涙は止まらない。考えなんてなにもない。頭は真っ白だ。ただそういう機械のように、涙が出る。
「……なにを……」
「おっ? おっ?」
「今までなにをしていたんだ!! 私は!!」
「寝てた」
そういうことじゃない。邪魔だなこいつ。ひたすら不愉快だし。
……なにをしていたんだ、私は。強くなったんじゃなかったのか。なんだこのザマは。……大切なものを奪われるために戦乱の世を望んだのか? 違うだろ。
……なんにも理解していなかったんだ。戦争を。これが現実なんだ。……自分だけは大丈夫、なんて、間抜けなことを。一人でどうやって生きていく。
親父、お母ちゃん、兄ちゃん、ばあちゃん、みんな……、オーリ……。
「あ、ははは……」
「ん? ん? なんか面白かった?」
「お前の顔が面白いわ」
「ええっ!!」
くそったれなヤツっぽいが一人じゃないのがすごい助かる。くそったれなヤツっぽいが。一人だともうそこの崖から跳んでる。
駄目だ。せっかくゼロが助けてくれたのに。……寒いな。
くそっ、なんでこんなに寒い。血が足りてないのか? 回復、回復……。駄目だ。寒い。なんで。震えが止まらない。
「震えてるねえ。焚き火にしよう。そうしよう。木よ集まれ燃え上がれ。げふおっ!?」
……なにか超常的な力で離れた位置の生木をむしり取って持ちより火の魔術、着火で燃やす外神。生木を燃やしたらそりゃ煙るわ。焚き火したことないのか。乾燥させた薪じゃないと水分多すぎて煙るんだよ。……なんで落ち着くんだか。どう見てもクソ野郎なのに。みんなの死を笑いやがって。
セラフィーは冷静に混乱していた。たぶんなにが起こったかを整理してしまうと正気ではいられなくなる。ここを離れるべきだ。煙たいし。
そのまま、村を振り返らずにこの場を去ることにした。右手にしっかりと黒銀を握ったままなのに気づいて、一旦インベントリにそれをしまう。
色々と準備はしてあった。森に潜ろう。
強くなるために。今日がたまたま旅立ちの日だったんだ。もっと強くなれたらまた村に戻るから、それまで、みんなさよなら。
また会おうね。
セラフィーの戦いはこれからだ!
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