十才のとある日
二話目です。よろしくお願いします!
更に三年が経ち、セラフィーは十才になった。
体がそろそろ縦に伸びなくなってきたので、ついに黒銀を使う特訓を始めた。
ちなみにゼロ式は一年前に旅立った。寂しいが、いずれセラフィーも旅に出る。いつかまた会えるはずだ。
黒銀を使いこなせるようになれば黒の森の奥に入りレベル上げを始める予定だ。物資はかなり貯め込んだ。
イェフタン先生は一度来たがまた旅立った。彼女にもまた会う日は来るだろう。酒好きエルフのためにいくらかブランデーやウイスキーも貯め込んでいたりする。十五になったら自分で飲むつもりだが。むしろそのために貯めているのですごい量だったりする。
黒銀はとても重いが地の精霊のコントロールが上手くなり、体幹も強くなったのでブレずに振れる。細い木なら能力を強化しなくても簡単に折れる。
レベルを上げれば空を飛ぶ魔法も覚えるらしい。それがすごく楽しみだ。蘇生魔法とか覚えるにはレベルが百にはならないと駄目らしい。この大陸では星神教の教皇様くらいしか使えないという。覚えられたら戦闘で人が死ぬことはまずなくなるだろう。不本意ながら回復魔法の訓練も欠かしていない。……戦闘職がいいんだけどなー、とは今も思っている。
この世界の魔法を覚えるタイミングはレベルが一定以上高いことと運が必要になる。初級魔法を上級魔法を覚えたあとで覚えた、なんて人もいるらしい。運が悪い。
セラフィーは一応、ゼロ式に聞いたタイミングで覚えているので運は良いようだ。
(しかし黒銀は重いな。素早く振るには身体強化は必要かな)
狭い森の入り口で立ち回りの練習をする。長柄を森で使うのもずいぶん慣れてきた。やっぱり訓練は大切だ。レベルだけでは……。
レベルは三十八。ほとんど上がってない! 敵がゴブリンとかウサギしかいないから上がらない! オークを殴りたい!
「セラ、頑張ってるね!」
「オーク……オーク……。オークとオーリは似てるよね? 殴ってみてもいい?」
「駄目だよ!? にてないよ?!」
オーリはドワーフの中ではかなりイケメンに育った。小柄なドワーフなのでショタだが。とてもオークには似ていない。でも名前は似てるよね?
「戦闘したいの?」
「戦闘不足で体調が日に日に悪化していて」
「病気?!」
戦闘したくて森の奥に突っ込んだこともある。しかしもぐらの里をひっくり返す大騒動になってしまったのでもうやってない。たった三日森の中でオーク殴ってただけなのに……。みんなは工房に二週間はこもるので不公平である。命の水も持ったのにぃ~!
里の皆は過保護である。とか、セラフィーに反省の色は見えない。オーリにこめかみをグリグリされる。
オーリにしてみれば元々のお転婆を拗らせただけではあるのだが、村人たちの心配ももっともなので今ではセラフィーの監視役もオーリの日課になっていた。
僕はマワタ先生に錬金術を教わって村でのんびり暮らすんだ、それがオーリの口癖だった。しかしこの幼馴染みと来たら、目を離したら森の奥に走り込もうとする。下手にインベントリなんて物を持ってるから、それはもう衝動的に走り込むのだ。手に負えないが好きなので仕方ない。惚れた弱みというんだろうか、これは。
セラフィーにしてみればさっさとレベルを六十まで上げて空を飛ぶ魔法、光の翼を覚えて、日帰りで森の奥に突っ込みたいのだ。もぐらの里のドワーフたちの強心臓が試される時である。やめてもらいたい。
しかしセラフィーがもうもぐらの里で最強なのは間違いない。大抵職人のドワーフたち、レベル自体はそんなに上げてないのだ。セラフィーに勝てるのはバンリくらいだろうが、近接対人戦闘ではセラフィーには及ばない。森の中なら勝てるのだが。
「早く旅に出てゼロを連れて帰りたい」
「そのうち帰ってくるよ」
白い石膏の仮面のようなゼロ式の顔だが、去年旅立つ頃には改造が進んで、不気味さが感じられない程度に表情が作れるようになっていた。セラフィーは母譲りの技術でウィッグや人工皮膚を張り付けてやった。腐らない聖泉の大白蛇の皮を加工した皮膚は少し白が強いが、フードさえ被れば美少女に見えるくらいにはできた。ゼロ式もとても喜んだ。予備の顔を十個ほど用意してほしいと頼まれたほどだ。セラフィーも楽しかったので作ってやった。
「手をかけて作った人形が失くなった気分とか?」
「それかも!」
とにかく色々、セラフィーはストレスを溜めていた。最近ではぬいぐるみを縫ったり服を縫ったり料理を勉強したり錬金術を習ったり作法を習ったり、とにかくインドアなのである。戦乱の世界にせっかく生まれ変わったのになにをやってるんだろう。
そんな風にセラフィーが悩むのも、この日が最後となる。
「て、敵襲だあーっ!! 鐘を鳴らせっ、ぐわああああッ!!」
セラフィーの平穏な日々は、この日、終わる。
鬱展開に参ります。
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