のんびり
二話目です。楽しいドワーフ生活!
セラフィーにとって村人は皆、家族のようなものだ。実際の家族で村にいるのは両親と兄、祖母が一人だけであるが、いつも酒屋でバカをやっているドワーフたちも引きこもって趣味に没頭してたまにしか顔を見せない職人たちも、時々旅に出るイェフタン師も、狩りの師のバンリも狩り仲間も、悪ガキたちも、オーリも。
みんなが家族だった。
今日はセラフィーが七才になる日で、村ではお祭りが開かれることになった。
初めてオークを狩ってから、二年経った。
セラフィーのレベルは三十に達した。敵は変わらずゴブリンやウサギなどで弱いし、レベルアップの必要経験値は増えたために、レベルは頭打ちになっている。初めの村でスライムでレベルを上げつづけている感じだろうか?
ちなみにこの世界のスライムは半球体の塊で、弱い。本来のスライムは強酸性の粘液でダンジョンで天井から降ってきて肉を溶かしたりする危険生物だが、この世界ではぷるぷるの水羊羹スタイルだ。
閑話休題。
セラフィーの誕生日に合わせて同じ月の生まれの子供たちの誕生日をみんなで祝う。一年は十二ヶ月で今月は十月だ。一ヶ月は四十日ほど。地球と同じかは分からないが一日は二十四時間で一時間は六十分。一分が地球より長い気はしている。セラフィーはこの世界で二百年三百年と生きるのかぁ、と、先を思ってため息をこぼす。まあ今は子供時代を楽しもう。
前世の関係もあるのだろうがセラフィーはとても優秀だった。僧侶としてもしっかり勉強をして、仲間が傷つけば全力で癒し、村人が病なら看病をした。
この世界の職業は行動の傾向で変わる。適職が僧侶でも鍛冶師や錬金術師や魔導師になることもありえる。
セラフィーの目標は聖騎士だった。戦闘を積極的に行っているのもそれを目指してのことだった。
しかし治癒師が不足していた。鍛冶での怪我人や狩猟での怪我人、病人をほとんど一人で治していたために傾向が偏ったらしく、現在のセラフィーの職業は治癒師になってしまっていた。なんか悔しい。だが村人の役に立てるのはとても嬉しかった。みんな家族だから。
お祭りに出る料理は材料の森猪をセラフィーが狩ってきた物だ。インベントリのスキルで解体。調理も母が村一番で得意なこともあり手伝う。村の中央で焚かれる祭事の火もセラフィーが木材をインベントリで運んで組み合わせた。
「自分のお祭りなのにセラ一人で準備してない?」
「楽しみだもん。オーリも手伝ってよ」
セラフィーはお祭りも大好きだ。村の大好きな家族たちとみんなでお酒を飲んで騒ぐのだ。朝からセラフィーはずっとワクワクしていた。秋の時分に行われるこの祭りは、収穫祭も兼ねている。セラフィーが準備に頑張って走り回っても問題ないと思っている。
イェフタン先生は旅に出てしまっているが、外から冒険者が十数組も来ていた。お客様には楽しんでほしいものである。
村の外れ、黒の森の方をふと見ると、鹿の大きいのが見えた。お祭りを見に来たのかな? 楽しんでくれてるのかな?
「狩ってくる!」
「待って待ってセラフィー!」
なんでそういう発想になるのか、とオーリは一瞬思ったが、セラフィーだった。仕方ない。
七才にもなると幼児の時のようにベタベタはしなくなったし、少し冷静な目で見るとセラフィーはだいぶ危ない娘だが、それでもオーリはセラフィーが大好きだった。性格はよく知っている。
結局セラフィーは体高が三メートルもある大鹿を狩ってストレージで解体して料理の皿を増やした。
「輸入物の玉菜を買いためてるの放出して炒め物とか作るね」
「セラ、野菜とか調味料貯め込んでるの?」
「黒の森の奥で修行するつもりでいろいろ貯めてるよ」
「いったいどこを目指してるの?」
「戦場最強?」
「のんびり暮らそうよ……」
平和にのんびり暮らすために戦場に行く。なんだか矛盾している。
経済の話で似たようなのがある。村人がのんびり釣りをしていたら投資家が漁を事業にしないかと持ちかけて、その成功を収めたらなにをするか聞いたら最終的にのんびり釣りをすると答えた、という話だ。今と変わらないからいいや、と村人は断る。実際にはいろいろ違ってくるのだろうが、セラフィーの場合無理に戦場に行く意味はなさそうである。のんびり暮らせば良いのだ。
セラフィーはそれも魅力的かな、と思いはじめていた。戦いなら黒の森の魔物相手でもそこそこ満足である。
このころになるとセラフィーは投げナイフの練習をしたり僧侶の魔法を使った戦闘スキルを独自に磨き上げはじめていた。鍛練中心なのでレベルはあまり上がらないが、強くなる実感はとても甘美なものだった。それゆえにまだセラフィーの中から戦場への憧れは失くなっていなかったのだが。
戦いがどういうことをもたらすのかを知るのは、奇しくもセラフィーが初めて戦場に立つ日。その日まで……あと三年。
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