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聖女と飲み会と

 エリのステージです。




 あらかた片付いて犯罪に関する資料は全て押さえ、王に渡した。さすがにそこは国が主導してやるのでもう自由にしてもいいらしい。国にもメンツがあるということだ。


 久しぶりにセラフィーは治療院へ向かい、のんびり仕事をこなすと聖女マウを誘い酒場に向かった。ヤミンやレハナでもお世話になった酒場のチェーン店らしく、暖かな雰囲気の木造の建物だった。ただ、周りの建物が高いためか五階建てで、なんとエレベーターまでついていた。この世界はわりとハイテクだ。日本人が万単位で転生したのが五百年も前なので当然なのかも知れないが。トイレも水洗だし上下水道も完備だ。セラフィーも田舎から出てきたので最初ヤミンにいった時は驚いたものだ。


「はぁ~。おしゃれなお店ですねぇ~」


「マウちゃんは飲めるの?」


「そうですねぇ~、ドワーフさんには負けますが好きですよ~」


「まあいざとなれば上級浄化ピュリフィケーションもあるか」


 酔いまで覚めるのでセラフィーは朝に使うが、飲みながら使っても問題はない。


「お国のえらい人たちは大変だろうにわたしらが飲んでていいんですかねぇ~」


「逆に私たちが全部やったら国のメンツが潰れるからな。国王陛下もそこはもう国に任せてくれ、ってさ」


「それもそうですねぇ」


 二人連れだってカウンターに座ると挟むように二人の男が横に座る。アレク王子とカルヴァインだった。


「二人とも仕事はぁ?」


「嫌そうに言わないでよセラ。俺は部外者だから抜けてきた」


「俺も国を抜けるから要所は見させてもらえなかった」


「えっ? 王子辞めるの? 辞めれるの?」


「表向きは継承権を放棄して外交のために諸国を周遊する感じ?」


「わたしたちもセラさんたちと行けたらと思いますだ」


「いいな。カルさんたちとは途中で別れる予定だから……」


 セラフィーは先のことを思って少し鼻が痛くなる。泣くほどのことではない。三年もすれば会えるのだ。……生き残れればだが。


「まあ飲むか。軽いカクテルからにしよう」


「珍しいな。そういえば甘いのもイケるのか」


「ドワーフさんはなんでも飲むんですねぇ」


「俺もカクテルにしよ。モスコミュールがいいかな」


 四人それぞれにカクテルを注文して乾杯をする。グラスは合わせないタイプの乾杯だ。軽くグラスを持ち上げるだけだが。


 オレンジ、青、白、小麦色、いろいろなカクテルが美しい。すぐに全部は飲まないでカウンターに飾るように並べた。


「綺麗だなぁ」


「こういうのもいいね」


「セラなら軽いお酒?」


「たまにはいいさ」


 ゆっくりとおしゃれな雰囲気を楽しむのも乙だ。アウスローナもそろそろ終わりである。次はいよいよ魔王国を目指す。


「やり残したことはないか?」


「うーん、みんなはなにしてたんだ?」


「おおむねダンジョンアタック」


「まあまあレベル上げてきたなぁ」


 カルヴァインとセラフィーは暁の星のレベリングの話で盛り上がっている。マウとアレクは旅の話をしていた。


「そういえばエルニアお嬢様たちを送らないとな、テレポートだから時間はかからないけど」


「王女と一緒に学園に行くんじゃないのか?」


「その時はまた迎えにいく。アウスローナはしばらくゴタゴタするだろうしな」


「それだよぉ~、カルさぁ、どっかの伯爵領治めない? 貴族足りなくなりそうなんだよぉ~。王家の直轄地増えすぎだよぉ~」


「知らん。旅に間に合うのか?」


「ヤバい。最悪マウにテレポートで送り迎えしてもらわないとヤバい」


「それでよく王族辞めるとか言いだせたな」


「最初から決まってたことをやっと進めただけだからな」


「王家の方ではシナリオはできていたのか」


「まあいろいろ足元を固めておかないとずっこけるからな、内密に進めてはいたんだよ。王家以外誰も知らないけど」


「できレースですだねぇ」


「マウが辛辣」


 マウは二人で旅をするのを楽しみにしていたのである。王家が忙しいのも分かっているので無理は言わないが。


「やっぱり力ずくより策略の方が簡単だったな。権力者に作業は押し付けたらいいし」


「勘弁してよ聖女さまぁ…………」


 力ずくだと領地がいくつかなくなるのでこっちの方が良いはずである。良い仕事をした。


「わたしぃは先にぃ、旅さ出ますで~」


「マウが冷たいよぉ~」


「マウちゃんは私がもらっておこう」


「取らないでぇ~」


 王族を辞めると決めたからかふにゃふにゃである。政務は大量に残っている。がんばれ。


「お、今日はエリさんが出張してここで歌ってくれるらしいぞ」


「マジで!?」


 カルヴァインの情報にタラタラ飲んでいたセラフィーが急にキョロキョロそわそわし始める。ステージの位置を見定めて椅子を回し、両手でグラスを持ったまま見つめる。やがて拍手とともにエリさんが現れた。いつもどおりアイスブルーの衣装が似合う。少し少女らしいふわりとした膝上のスカートが可愛い。


「皆さん初めましての方もいらっしゃいますね。歌姫のエリともうします。武道大会もね、終わりまして……」


「話し声も可愛い……」


 セラフィーはうっとりとみとれている。カルヴァインもそちらよりステージに釘付けだ。


「では、新曲から参ります、雛鳥」




 雛鳥は 自分の巣を 見上げた




 鬱々と下を向いて トボトボと


 迷い歩くのは 弱さゆえ


 悲しみの過去から 這い上がり


 あの空へときっと 舞い上がる



 バタバタもがいても 空回り


 明日へ地道に走っていく


 グルグル おんなじ とこを回る


 ぼくらでも 明日は 来るのかな




 お前は落伍者と カッコウが嗤う そんな 資格 ない くせに!


 負けたくない!



 三角のコーンに 腰を掛けて


 ブツブツ呟くのは 誰かの夢?


 苦しみの現実から 逃れようと


 またひたすらにバタバタ 羽ばたくのか



 くるくる回り 回るのも助走だと


 信じて走り抜く それしかできなくっても


 お前は地を這う鼠と 空高く 舞う鷲は 嗤う



 で も



 所詮は本能に翻弄される獣に過ぎないのに だけど 私こそが 敗北者


 敗北はとうに味わった 力を蓄えた 未熟を呪い ただできることをと 歌って



 私はただ ……羽ばたくだけ そういう獣だから



 敗北の色 苦悩の未来 明ける約束なんて ない未来 だけど


 負けない


 羽ばたけ、羽ばたけ 未熟な羽根と 嗤われても


 想いは一つただ平穏 望む場所へ 至るため 翼を 広げて


 翼は羽ばたくためにある さあ明日へと 今 舞い上がれ


 舞い上がれ さあ! 向こうへ!



 あらゆる戦争は無意味 でも食べるものも十分じゃない 世間はおためごかしに 飛べなくても貴方は幸福だと歌う 抵抗するのを諦めたら 奴隷と変わらない 平和を望むなら 不自由をなくしていかないとダメ


 羽ばたく 羽ばたく 世界を乗り越える


 許されないと言うなら それさえも越えて


 羽ばたけ 羽ばたけ この空を私のものに


 よわっちくて、カビがはえて、お前なんかいらないって言われたって


 ただ羽ばたけ 羽ばたけ ぐるぐる回る世界を


 本当の世界を 風を今、その翼に絡めとって


 羽ばたけ 羽ばたけ ゴールはそこに見えている


 いま、そこに



 空は果てしなく 遠いけれど


 そこに至る理由は 特になくて


 私の翼は弱くて だから


 望むことなんて そう多くはなくて で も


 羽ばたけ 羽ばたけ 未熟な翼で風を捕まえて


 さあ、帰ろう


 羽ばたき、落ちても、また足掻いてみせるよ 羽ばたき 羽ばたく


 僕らのゴールはすぐそこにある


 さあ



 戦い飽きて 疲れきって


 誰もが望んだその場所へ


 羽ばたき 僕らは ついに、たどり着けるよ


 簡単に歌われていたとしても 僕らの望みはそう 難しく 単純だ 最後の一羽ばたきで



 雛鳥は 自分の 巣へ帰る



 おやすみ




「うおぉ…………良い」


「うーん、なんだか泣けるな」


「良いねぇ、しっとりした歌声だ」


「はわわぁ……声も立ち姿も可愛いだぁ……」


 セラフィーもカルヴァインもアレクもマウも、ただ感動し、感想を呟くしかない。


 エリの歌声を背景に、アウスローナの夜はゆっくりと深まっていった。






 歌が受けてるのか滑ってるのか知りたいですね。




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― 新着の感想 ―
[一言] 私はここまでのセラフィの生き様だと思えたので 結構気に入りました 異論は認めません(^O^)/
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