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はじめての恋

 一話だとテンポが遅いようなので、しばらくは二話更新します。よろしくお願いします。



 セラフィーはドワーフである。父親のハガネからは鉱物やその加工物の弱点などを聞かされる。鋼の剣がヒットポイントさえ見極めれば一撃で折れる。これもまたセラフィーの実力をアシストしてくれる経験だった。


 対峙した相手の武器を一撃でへし折るスキルなど、武器頼りの戦士には驚異に他ならない。


「金属っていうのは意外と繊維みたいな流れがあるんだ。そして木とかと比べて粘性がすくねえ。無理に押し破ってやると、まあこれがポキッと折れちまうわけだなぁ」


「親父、すごい!」


「親父はすごいだろセラ」


「にい!」


 鍛冶場でハガネの講義を受けている時、兄のミゲルが入ってきた。セラフィーには兄と弟がいる。弟は養子に出されているために実質セラフィーはこの兄ミゲルと二人だけの兄弟だった。とは言え、ドワーフなので年齢差が十もあり、可愛がり可愛がられるだけの関係で摩擦は無かった。


「にい。ひげ?」


「おー、工房にこもってたらさすがに伸びてたわ」


 ドワーフはひげが伸びやすい体質なのもあるが、そもそも引きこもり始めたら二週間はそのままなので、ひげは伸び放題だ。女は体質的に子供に近いのか体毛は生えないが、髪は伸び放題である。なので常に細かく刈っているため、セラフィーは短髪だ。


「親父も作業終わらんみたいだし飯いくか、セラ」


「いくー!」


 モグラの村の主食は芋であるが、今日は鹿肉のステーキがあった。フルーツソースが美味しい。ドワーフの飯は美味しかった。いつものお祈りを済ませるとセラフィーは肉にフォークを突き刺してかぶりついた。


 兄ミゲルは優しかった。とても優しかった。大好きだった。だった。


 永遠なんて無いと知っていたはずなのに。


 世界が暗転しはじめたのはセラフィーが恋を覚えたあの日からだろうか。




 セラフィーが狩りを教わった日からの話をしよう。


 師匠は近所、洞窟の外に住むドワーフの狩人、バンリだ。黒の森で狩りをしている彼は猛者で間違いない。強い人だった。


 セラフィーを任された時にはもちろん困惑したが。小さな女の子を狩りに出すとかあのオヤジはなにを考えているのかと。


 まあセラフィー自身がノリノリだったので仕方なく連れていく。この子を守るくらいはできるつもりだった。バンリは本当に強い狩人だったので。


 だけどバンリはひとつだけ過ちを犯していた。


「ゴブリンはっけん! くだけちれー!」


 森に入ってすぐにゴブリンに遭遇するも守るはずの娘が飛び出してメイスで叩き殺した。初めての戦闘で、だ。


(うぇー、ゴブリンの血、気持ち悪い。でもこれから戦いが始まるんだな。手応えも悪くない。ワクワクしてきた! 次いってみよう!)


 守るはずのセラフィーは実は蛮族だったのである。五歳の娘がゴブリンに殴りかかったら誰でも驚くだろうけど。セラフィーはもうこの時点で守られる存在ではなかった。


 まるで自らが仲間を率いているような、そんな存在感を発揮していた。五歳児が。


 前世の記憶を持っていたから、残念ながら。


「おりゃー!」


「セ、セラ、あんまり前に行かないようにな!」


「ほりゃー! いのししたおしたー!」


 順調に魔物を狩るセラフィーはガンガンとレベルが上がっていった。この世界のシステムにより子供ながら強くなっていく。


「セラ、すごい獲物だね!」


「やったよー、おーり!」


 バンリの息子、友人のオーリとはこの頃から仲良くなっていった。好きだった。オーリは狩りで獲物を殺すことをためらったりするので軟弱者とまわりの男子からは苛められていたが、セラフィーはその優しさが好きだった。何度も一緒に狩りに出かけるうちに、どんどん好きになっていった。五才の子供らしい恋だったが。


「なまいきなんだよー、オーリ! セ、セラとなかよくしやがって……」


「ん? なんか言った?」


「な、なまいきなんだよー!」


「い、いたっ! いたいよぉ……」


「こらーっ!」


「げえっ、セラ!」


 オーリがいじめられていた時、すでに大人よりレベルが高くなっていたセラフィーはいじめっ子達を叩きのめす。手加減はしている。


 そして泣き虫なオーリを慰めるために、セラフィーはオーリの頬にキスをした。彼女はこの時に恋を自覚した。……終わる恋を。




 ドワーフたちが受け入れられない存在があった。機人兵と呼ばれる存在だ。


 魂を鋼に打ち込むドワーフたちにとって魂の宿らない鋼、機人兵はどうしようもなく許しがたい存在だった。


 ハンマーで魂を打ちつけてこそ鋼に魂は宿るのだ。


 何より奴らは鉱脈を漁り、鉱石を盗み、ドワーフを襲撃し、鉱山を強奪する。


 ハンマーでぶん殴れ。奴らはドワーフの敵だ。




 ある日、そんな村に奴が現れた。


「この子は機人兵ゼロ式っていうらしい」


 その機械を拾ってきたのは、優しいオーリだった。


「オーリ、それ、機人兵?」


「セラ、この子はいい子だよ。魂のない機人兵なんかじゃない」


 セラフィーはそのオーリの言い方が少し気にくわなかったが、大好きなのでスルーした。別にこの時点ではセラフィー自身が機人兵に思うことなどなかったのだ。その機人兵は壊れているようだったし。


 どうやらオーリが森でこの機人兵に出会った時は稼動していたらしく、機人兵ゼロ式と名乗り、オーリは停止寸前の彼(彼女?)を回復するまで守ると約束したらしい。なぜ故障しているのかまではわからなかった。


「オーリはやっぱりやさしいね!」


「う、うん。でも機人兵だから連れて帰ったら怒られるかも」


 さすがにドワーフの里を機人兵を連れて歩き回るのもはばかられたので、裏山近くの廃棄された小屋にその機人兵を連れ込んだ。そこで四年もの間、その機人兵をかくまうことになる。


 少しして機人兵ゼロ式は目を覚ました。






 小さい子の恋愛は可愛いですねぇ。


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