第2回! ディリジェンスのディージョン講座
マドウスキー博士その2時点での番外編です
「それでは第2回、コラプスについての講義を始める。ノートの準備はいいか」
不服そうなゲン、やる気満々なクリスと机に突っ伏したフランの前でディリジェンスは講義の準備をしていた。
「憂鬱だぁ……」
「結構残されてたもんね……フランちゃん」
「ジャグリングなんぞして遊び呆けているようでは、部屋から出られないかも知れんな」
「ぐぬぬぬ……」
「さっさと始めて終わろうぜー。アニメ見てえし」
「前回は好成績だったが、貴様だって油断していれば痛い目を見るぞ。
では、まずは崩壊についてだ。誰か説明出来る者は」
「はいっ!」
「クリスティーナ、説明してみろ」
「高濃度の魔力を浴びる事で細胞が変異し、生物でなくなってしまう現象です」
「それは外部向けに簡略化された情報だ」
「へ……? そ、そうだったんですか」
「ゲン、説明してみろ」
「おう」
紙に簡単な図を書き始めるゲン。
「崩壊ってのは、簡単に言えば生物の自我が破壊される現象だ。細胞が変異するってのも間違っちゃいねえが、ちと違う」
「自我が? 体じゃなくて?」
「魔力が生物の魔力シールドを突き破って脳まで届くと自我が壊れ、その自我が発生させた魔力で生物の体が変異する。記憶が無くなり自分の姿も忘れてコラプスへ変異する訳だ」
「へぇー」
「体の変異の度合は崩壊の度合に比例し、強い魔力を浴びれば体は大きく変異する。フラン・Eが遭遇した異形のコラプス達、それらは強い魔力を浴びたコラプスだ」
思い返せば、異形のコラプスはどれも魔力照射装置のある場所に居た。つまり、強い魔力を照射出来る装置だ。
「コラプスは総じて凶暴だ。手負いの獣のように誰彼構わず襲い掛かり、殺害を目的として行動をする」
「そういえば、動物のコラプスって聞かないよね」
「動物には"生き延びる"という明確な強い意志を持つ者が多い。人間と違って下らない拘りや悩みを持たず、効率的な生き方をしている為だ。
しかし人間は悩む。悩めば意志が揺らぎ、魔力シールドが弱まり、簡単に崩壊が起こる状態になってしまう。そこに少し強い魔力が加われば容易く崩壊が発生する。
特に多い事例として、錯乱し殺害をした人間が崩壊を起こすという物がある。意志の弱った所に、殺害した対象が死ぬ直前に放った魔力が照射される訳だ」
生き物は死ぬ間際に強い魔力を放つ。命を失う直前に、生きたいという強い意志を抱くのだ。
そして魔力シールドの弱まった人間がその魔力を浴びれば、自我が崩壊しコラプスになる。それが典型的なコラプス発生……崩壊のメカニズムだ。
「ああ……」
「どうしたの?」
「何でもねえ、気にすんな」
「精神状態の悪い時に戦場に行くなというのは、勿論正常な判断が出来ないからでもある。
しかし、最大の理由は"魔力シールドが弱まる"事だ。我々は対魔力スーツを着用している為魔力は完全に遮断出来ているが、その対魔力スーツが損傷するような事があればそこから魔力が侵入する。似たような状況は、フラン・Eは経験済みだな」
「はい。傷口だけ細胞が変異して、体が拒絶反応を起こしてしまったみたいです」
「しかし小さな変異ならば時間経過で治る。菌が入り込んだ程度の感覚で問題無い」
そういうとディリジェンスは、手持ちの資料を持ち替えた。
「続いてコラプスについてだが、説明出来る者は」
「はいっ」
「クリスティーナ、説明してみろ」
「コラプスは、生物の体が崩壊を起こした姿です。生物にも魔物にも当てはまらない存在であり、性格は非常に凶暴で、発見した場合即刻対処する必要があります」
「それは外部向けに簡略化された情報だ」
「ま、またですかぁ……」
がっくりと肩を落とすクリス。
「先程ゲンも言ったが、コラプスは生物の自我が崩壊し、崩壊した自我が発生させる魔力が体を再形成した存在だ。そこで奴らに関する問題……コラプスを殺すのは殺人になるのかと言う、特にフラン・Eが騒いでいた問題について話そう。
まず、はっきりと言ってどれ程元の姿に近かろうと再形成された存在である以上"全くの別物"だ。つまり、元が猿だろうと人だろうと何も変わらないという事だな」
「治す方法とかって……無いんですか?」
「無理だ。自我というのは記憶が積み重なって出来た、いわばジェンガのような物だ。再度全く同じように積み直すのは難しい上、持っている記憶は本人にすら把握し切れない。それに、もしも崩壊が軽度だったとしても、どこかが抜ければ簡単に崩れてしまう。
その人間が辿ってきた道筋を全て知り、尚かつ強力な魔力を持つ者でもない限りは不可能だ。つまり元の人間とは全く別物、人間や愛玩動物でない為害獣に近い扱いをなされ、殺人等の罪に問われる事はない」
「そう言われても、難しいもんは難しいけどな」
「ブライスメントでやっていく以上、割り切れとしか言いようがない」
区切りがついた様子のディリジェンスは、3人の前に一枚ずつプリントを配り始めた。名前の記入欄と問題が並んだ、テスト用紙だ。
「資料を仕舞え、テストを始める」
「最後に見直しは……ダメですよね」
「当然だ」
「……はい」
最後まで残っていたのは、フランだった。
「なんでぇ〜……」