第1回! ディリジェンスのディージョン講座
マドウスキー博士 その2時点での番外編です。
本編の内容で分かり辛そうな部分をディリジェンスが解説する、ディリジェンスのディージョン講座です。文章は長いですが、出来る限り分かりやすくしましたので、本編をより楽しむ為にどうぞご覧下さい
「それでは魔力についての講義を始める。ノートの準備はいいか」
不服そうなゲンとやる気満々のクリス&フランを前に、ディリジェンスは授業の準備をしていた。
「んで……なんで俺も椅子に座ってんだ?」
「新人二人の講義のついでだ」
「なんで」
「隊長の指示だ」
「えぇー……じゃあ従うしかねえじゃんかよ」
「規律違反の常習犯が、隊長の指示には忠実なんだ」
「隊長のゲンコツは痛えんだ……頭に隕石落ちたんじゃねえかってくらいな」
「私は食らった事ないから分かんないや」
フランに甘いローディアンは、決して娘に拳を振るう事は無い。しかし、息子が出来れば時に拳骨を使う事は考えていた。
ゲンは彼にとって息子のような存在。だから彼は、時々岩のような拳骨をぶつけていたのだ。
「隊長の拳骨は痛い。食らいたくなければ黙って講義を受ける準備をしろ」
「ディリジェンス、隊長のゲンコツ食らった事あんの?」
「……ある」
「「えぇー!」」
「マジか!? ぶっ、意外だなぁ!」
「クスッ」
「あのディリジェンスさんが……へぇ〜」
「……貴様ら、痛みを感じる間もなく死にたいか」
銃を構える彼の目に光は無い。撃つと言ったら本当に撃つのが彼なのだ。
「待て待て待て待て!!」
「は、早く謝りなよ!」
「俺だけ!? クリスも笑っただろ!」
「いいから早く!」
「わ、悪かった……」
「試験の合格点を8割にする。受かれるまで椅子から立てると思うなよ」
「悪かったって……」
「それでは授業を始める。まずは魔力についてだが……説明出来る者は居るか」
意気揚々と高く挙がった手の持ち主はクリスだった。
「クリスティーナ、説明してみろ」
「魔力は意志に呼応するエネルギーで、生物の脳から発生します。夢を叶える魔法の力として、古くから注目されている物ですね」
「それは外部向けに簡略化された情報だな」
「えっ……そ、そうなんですか」
「ゲン、説明してみろ」
「おうよ。魔力ってのは意志に呼応する、それは間違いねえな。
でも、発生するのは脳からじゃねえ。生物の意志から発生するんだ」
「意志からって事は……脳からって事じゃないの?」
頭にハテナを浮かべるフラン。
「これは難しい問題なのだ。場所的には脳からだが、発生源は脳ではない。明確な答えを出せるのは故マドウスキー博士のみだろうな」
「面倒くさいだろ? だから一般市民には簡略化した情報を提供してるって訳さ」
「それって……嘘、になりますよね。もしも嘘だと知られたら報道されてしまうのでは?」
「確かにそうとも言えるな。だが新聞屋や雑誌編集者は真実など求めていないし、一般人も表面上の情報しか読み取らない。少ない文字で購入者の目を惹けるのならば、それに越した事はないだろう」
「難しい事言えば質問の嵐、質疑応答も面倒だしな」
「し、社会の闇だね……」
「ウィンウィンの関係って奴だよ、フランちゃん」
「真相よりも欲しい利益がある、という事だ。しかし我々には真実を識る権利と義務がある、講義を続けるぞ。
次に魔力の強弱についてだが、魔力は鍛錬によって強化出来る。使い込むか負荷を掛けるか、それによって出し得る最大限の魔力を発揮出来るのだ。
しかしそれはあくまでも潜在能力の解放であり、限界以上に魔力を発揮する事はない。そしてその限界には個人差があるが、基本的に大した差ではない」
稀に強い魔力を持つ者も居るが、その要因は分かっていない。
「アレだ、バトル漫画の修行みたいな。魔力が強ければ、スーパー何たらみたいにスゲー技が撃てんのさ」
「私出来るよ! ほら!」
光弾でジャグリングをするフラン。しかしディリジェンスは、3つの光弾を一瞬の早撃ちで破壊した。
「「ひいっ!」」
「ま、マジで撃つのかよ!!」
「ブライスメントはサーカス団員を迎え入れたのか? だったらジャグリングをしながら街の外を練り歩いて貰おうか」
「ご、ごめんなさいぃ……」
「最後にマターXや物質との関係性についてだが……これは最近分かった事で、後々情報が変わる可能性もある。
まず、魔力はマターXや物質を生み出す事も出来る。単純に物に作用するだけでなく物を生み出す、これはかなり大きな発見だ」
懐かしい音を立てて黒板に図を書くディリジェンス。その姿は教師そのもののようだった。
「何故ならエネルギー保存則や質量保存の法則だけでなく"あらゆる法則を無視"するエネルギーが無限に湧き出てくるのだから、物質の生成が実用化されれば物に価値は無くなる。価値が無くなれば経済が消える。経済が消えれば貧富の差が消える。その果てには人類の未来永劫の平和と衰退が訪れるのだ」
「衰退、ですか」
「競争が無くなれば人類は衰退する。頭も体も使わなくなるだろ? そりゃ何もかも鈍っていくじゃねえか」
「平和も良い事ばかりではないんですね」
「社会の闇だね……」
「それ言ってれば何とかなると思ってねえか?」
区切りがついた様子のディリジェンスは、3人の前に一枚ずつプリントを配り始めた。名前の記入欄と問題が並んだ、テスト用紙だ。
「資料を仕舞え、テストを始める」
「ま、待って下さい! 最後に見直しを……」
「授業を聞いていたんだろう?」
「……はい」
最後まで残っていたのは、フランだった。