冬の魔女と本の旅人
よろしくお願いします。
あるところに、白い雪に包まれた国がありました。
どこまでも続く一面の白い景色はとても美しく輝いています。
春になれば雪に埋もれた草木がひょっこりと顔を見せ、美しい花を咲かせることでしょう。
ですが、いつまで経っても降り続ける雪が止むことはありません。
なぜならその国には『冬の魔女』と呼ばれるひとりの魔女がいたのです。
『冬の魔女』がいる限り、雪が止むことはありませんでした。
その国にはひとつの言い伝えがありました。
「あのお城に近づいてはいけない。恐ろしい魔女が住んでいるから」
人々はお城に近づくことを恐れていたのです。
やがて、人々はその国のことを『冬の国』と呼ぶようになりました。
―――コンコン、コンコン。
扉を叩く音が静かな夜に響きます。
街の灯りがキラキラと輝くのが見える丘の上で、一人の少年が立っていました。
少年は尋ねます。
「どなたか、いませんか」
中から返事はありません。
―――コンコン、コンコン。
再び、少年は尋ねます。
「どなたか、いませんか」
やっぱり返事はありません。
少年は諦めて歩き出そうとしました―――そのときです。
ぎいっと重い音を立ててゆっくりと扉が開いていきました。
隙間から漏れた光が少しずつ少年の身体を照らしていきます。
「―――はい」
中から返事が聞こえます。
少年が顔を上げると、そこに立っていたのはとても美しい白い髪の女性でした。
少年はおねがいします。
「今晩だけぼくを泊めてください」
女性は何も答えません。
こくんと頷いた女性は少年を家の中へ入れてあげました。
後ろをついていく少年は扉の中へと入っていきます。
上を見上げれば遥かに高くそびえ立つ立派なお城。
少年が叩いた扉はそのお城の扉だったのです。
少年を椅子へ座らせた女性はじっとそれを見つめます。
少年の前には暖かい料理がずらりと並べられ、暖炉の火が身体を温めてくれました。
少年はその豪勢な料理を目の前にして驚きます。
女性の方を見ると優しく微笑んでくれました。
―――ぱくぱく、もぐもぐ。
少年はお腹いっぱいになるまで料理を食べました。
しばらくして、いつまでも黙っている女性に少年は言いました。
「ぼくは本を作る者です」
少年はいろんな国を旅をして、お話を書くのが好きでした。
少年は泊めてくれたお礼にこれまで書いてきたいろんな国のお話を読んであげようと思ったのです。
少年のお話はどれも面白く、女性は目を輝かせながらそのお話を聞いています。
それは夜遅くまで続きました。
ですが、もっと、もっとと女性がお願いしているうちに旅で疲れた少年は眠くなって寝てしまいます。
その側で女性はとても寂しそうに少年の顔を見つめていました。
夜が明けると少年は目を覚まします。
ですが、そこに女性の姿はありませんでした。
少年は姿の見えない女性にお礼を言おうと身体を起こします。
ですが、どういうことでしょう。身体が動きません。
不思議に思った少年は自分の手足を見ました。
なんと、その手足は―――氷漬けになっていたのです。
雪をそのまま触っているような冷たい感触が少年の手足を包んでいました。
昨日まではあんなに暖かかった部屋も、冬のように寒くなっています。
「お姉さん、いませんか」
少年は女性を呼びます。
すると、呼ばれた女性はすぐに柱の影から姿を現しました。
女性は昨日の微笑みが嘘のような、暗い顔をして泣いていました。
「どうして、きみは泣いているの」
「私は、ひとり―――いつも、ひとり」
流れる涙も凍って落ちます。
「―――私はあなたを帰さない」
広いお城にひとりきり。
話す人も、料理を食べてくれる人も誰もいませんでした。
寂しかった女性はただお友達がほしいだけ。
彼女は恐ろしい魔女などではなく、ただの寂しがり屋だったのです。
「大丈夫だよ」
少年は優しく微笑みます。
「ぼくがお友達になってあげるから」
少年の口からは暖かな言葉とお話が溢れてきます。
凍った涙は溶けていき、やがて女性は泣き止みました。
すると、外の雪はぴたりと降り止んだのです。
少年は本を書いてあげました。
本の名前は―――『春の国』
雪に埋もれた草木がひょっこりと顔を見せ、美しい花を咲かせた。
―――そんな国。
なろう風に言うと【寂しがり屋な冬の魔女が僕を帰してくれなくて困っています】
印象って大事ですね。