第13話 教会にて
前回のあらすじ
報酬を受け取った
ジーナが領主を務める町を出発してから、一週間が過ぎた。
わたしは帝国の北部にある港町にたどり着いた。
物流の要所故か、町中はどこも活気付いていた。
その活気の中を進んで行き、港の方に向かう。
そこで北大陸に渡る船があるか、近くにいた船員さんに尋ねる。
確認したところ、北大陸へは定期船があって、その船が出港するのは一週間後のようだった。
わたしはその船に乗ることを決め、船員さんにお礼を言ってから港を後にして町中の方に戻っていく。
定期船が出港するまでの間に泊まる宿を探すために、多くの人が行き交う通りを歩いて行く。
人々の隙間を縫うように歩いていると、不意に腰辺りに小さな衝撃を受けた。
足を止めて後ろを振り返ると、小さな子供がぶつかっていた。
見た目からして、エルフ族の男の子のようだった。
大丈夫? と言う暇もなく、男の子は無言で走り去って行った。
……なんだったんだろう?
そう思いながら再び歩こうとして、ある異変に気付いた。
……魔法袋がない!
わたしは慌てて周囲を見渡して、さっきぶつかってきた男の子がわたしの魔法袋を持っているのが目に入った。
あの袋の中には、船代が入っている。
それがないと北大陸に渡れなくなってしまう。
わたしはすぐにその男の子の跡を追うけど、人の往来が多く、なかなか思うように進めなかった。
逆に男の子はその小さな身体を活かして、人の間をすいすいと通り抜けて行く。
その内に男の子の姿が見えなくなりそうだったので、わたしは追跡魔法を発動する。
追跡対象は、わたしの魔法袋にした。
術者が直接触れたものしか追跡魔法の対象に出来ないので、男の子は対象に出来なかったからだ。
そしてとうとう視界から男の子の姿は消えたけど、追跡魔法でしっかりと行方を把握しているので、わたしは慌てずに彼の跡を追った―――。
◇◇◇◇◇
男の子の跡を追って行くと、町外れにある小さな教会にたどり着いた。
追跡魔法の反応もこの教会の中からある。
わたしは教会の扉を開けて、中に入る。
すると長椅子の一つに、男の子が座っていた。
わたしは男の子に歩み寄り、彼の肩に手を置く。
すると彼はびくっと身体を揺らし、恐る恐るわたしの方に振り向いてきた。
さっきは気付かなかったけど、女の子のような顔立ちをしていた。いわゆる女顔と言うやつだろう。
「な、なんで……」
「冒険者を舐めないでよね。そんなことより……。わたしから盗んだ袋、返してくれないかな?」
わたしは努めて優しい声音で言ったけど、男の子は大声で反発した。
「うるさい! コレはもうオレのモンだ!」
「でも、人の物を盗むのは良くないよ?」
「盗られる方が悪いんだろ!」
「何事です?」
わたし達の騒ぎ声が聞こえたのか、奥にある扉から一人の年老いた人間族の女性がやって来た。
彼女の服装から、この教会のシスターだと判断する。
シスターの姿を見て、男の子はバツが悪そうに視線を逸らす。
わたしはシスターに挨拶と、ここにいる経緯を話す。
「はじめまして。わたしはアリシアって言います。この子にわたしの魔法袋を盗まれたので、返してもらおうとしていたところなんですよ」
するとシスターは溜め息を吐き、男の子に言う。
「はぁ……、またですか……。レン、その人に盗んだモノを返しなさい」
「……」
レン、と呼ばれた男の子は、無言でわたしに盗んだ袋を差し出す。
わたしがそれを受け取ると、レンは席を立ち、シスターの脇を通り抜けて奥に行ってしまった。
レンがいなくなった後、シスターがわたしの下に来て深く頭を下げた。
「申し訳ございません。ウチの子がご迷惑をおかけしたようで」
「いえ、もう気にしてませんよ。こうして戻ってきてくれましたので」
わたしがそう言うと、シスターは顔を上げた。
「そう言ってくれると助かります。お詫びと言ってはなんですが、奥の部屋でお茶をご馳走しますよ」
わたしはシスターの言葉に甘えることにした。
そしてシスターに連れられ、奥の部屋に向かった―――。
◇◇◇◇◇
シスターはアンジェラと名乗った。
アンジェラさんが淹れてくれたお茶を飲みながら、わたしは背後を振り返る。
するとドアの隙間からこちらを覗き込んでいた子供達が、驚いた様子で頭を引っ込める。
わたしが正面に向き直ると、再びドアの隙間からこちらを見るような視線を感じた。
「すみませんね、ウチの子達が。お客様が来るのが珍しいので、興味があるのでしょう」
アンジェラさんは苦笑いしながら、子供達がいる方に目を向ける。
するとバタバタといった足音を残し、子供達はドアの前から去って行った。
わたしはさっきから気になっていたことを、アンジェラさんに尋ねる。
わたしの予想が正しければ、あの子達は……。
「あの、アンジェラさん。レンもですけど、さっきの子供達って……」
「はい。あの子達は、ウチの教会で預かっている孤児達です」
やっぱり。
教会という特性上、そうではないかと予想したけど、当たりのようだった。
「元気な子達ですね」
「ええ、元気過ぎるくらいに。子供達の遊びに付き合っても、私もトシですから、すぐに疲れてしまって……」
アンジェラさんは苦笑いをするけど、どこか幸せそうな笑いだった。
この人は我が子のように子供達を愛しているんだなぁと感じ取ったわたしは、彼女の助けになりたいと思って、あることを申し出る。
「あの、もしよかったら、わたしが子供達の遊び相手になりましょうか? わたしがこの町を発つ一週間後までで良ければ、ですけど……」
「よろしいんですか? しかし、タダというわけには……」
「それなら、この教会に泊めていただけませんか?」
わたしがそう言うと、アンジェラさんは笑顔で頷く。
「そんなことでいいのでしたら、喜んで。……子供達の相手をお願いしてもいいですか、アリシアさん?」
「はい、お任せください」
わたしは笑顔で頷く。
こうしてわたしは、教会でお世話になることになった―――。
アリシアの教会での生活が始まります。
評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。




