夕食
ベッドの上で、ゴロンゴロンとストレス発散も兼ねて思う存分に転がる。
ぶつぶつと愚痴も言う。
あぁ、世の中って、本当に面倒くさい。
殴る、のは良くないけど、もうちょい思いやりのある社会になって欲しい。
まぁ、私の鬱憤ばらしと復讐に、一発殴る位は、許して欲しい。
ゴロンゴロンして、大分気分も紛れたので、再びチェルシーを初め、思い出した知識を書き出す。
しかし、殆どの事が結果を知ってても過程を知らないから、どうすればいい方向に行くかが分からない。
何がきっかけで原因なのか。
物事を変える上で必要なそれを、私は残念な事にあまり知らない。
故に、知識とそれにある結果から、推測して行かなくてはいけない。
が、正直本当に勘弁願いたい。
こういう、思索とか推測とか、本当に向いてないのだ。
なるべく早く仲間達に会って、こっちに引きずり込まないと、私の頭が破滅しそうだ。
ついでに何か、致命的な失敗をしてしまいそうな予感がする。
とりあえず、私の中の知識を書き出し物を、一度確認するが、虫食いのように穴だらけだ。
唯一使える、私の武器なのに、虫食いで信頼性も不確かとか、凹む。
そんな風に項垂れていると、再度ドアがノックされた。
知らぬ間に夕食時になっており、チェルシーが迎えに来てくれたのだ。
案内されたのは、きらびやかで広い食堂。
えっ、食べるの私とあの男を初め、5人だけなのに!?
ほへぇ~と、開いた口が塞がらない。
なんてスペースの無駄遣い!
つい一昨日まで、もっと狭い部屋で仲間達とぎゅうぎゅうに肩や腕をぶつけ合いながら、食べていたのに。
そもそも、食事をするためだけのスペースって、何?
食事だけなのに、こんなにきらびやかにする必要があるの?
「はっ」
と、小馬鹿にするような声に我に帰り、慌てて口を閉じる。
目をやれば、既に席に付いていたディールが、こちらを見て嘲笑っている。
その態度に腹が立つ。
しかし、びっくりした姿を見せてしまった自分に、一番腹が立つ。
ここは、敵地でそんな弱味を見せてしまうなんて。
なんとかつ~んと澄まし顔を作り、チェルシーの案内に従って席に着く。
正面には、お義母様。左には、ディール。右には、ラウディ。
そして、左側、入り口から一番遠い上座にあの男。
私が来て、全員席に付いた為、食事が始まる。
食事を配膳してくれる人達の前で、食べるのって、緊張する。
でも、それ以上に、出てくる料理に感動した。
出てくる食事の殆どが、見たことない物で、美味しいものも美味しくないものもある。
ただ、どの料理も丁寧に調理され、綺麗に盛り付けられている事は、分かる。
勿体なくて、全部食べ尽くしていく。
私が、ここに来る前に食べていたのは、ただ量を嵩ましするために水多めに煮たスープとカチカチのパンだった。
スープなんて、調味料がないから、本当に煮ただけのものだった。
盛り付けなんて、ただ、縁の掛けたお椀によそうだけだから、そんなことしたことなかった。
そんな粗末な食事すら、口に出来るならいい方で、ひたすら空腹に泣くお腹を宥める日々の方が多かった。
なのに、貴族であれば、こんなに様々な料理が一度に食べられるという事実に、怒りすら沸いてくる。
お肉なんて、一年に一度も食べれなくて、食べれてもほんの一口くらいだった。
なのに、ここで既に私が今まで食べた分以上のお肉を口にしてる。
お肉って、こんなに柔らかいんだと、感動すら覚える。
最初の方に出てきた、野菜を煮込んだスープなんて、しっかり味が付いてて、初めてスープを美味しいと思った。
ところで、食事って、こんなにシーンとした中で食べるのが、貴族の作法なの?
仲間とがやがやワイワイしながら食べる食事しか知らない私には、驚きでしかない。
私に教えられたのは、最初の挨拶の時の作法のみで、食事の作法なんて習って居ないから、良く分からない。
ディールもお義母様もあの男も、見ているとうっとりするぐらい流れるような綺麗な動きで食べていて、そこは素直に尊敬した。
余談だが、ラウディはあまり綺麗とは言えない食べ方だったけど、他の人達は慣れているのか何も言わなかった。
とりあえず、隣のディールの動きを真似ているが、真似事でしかなく、カチャカチャと食器とぶつかって、私が一番大きな音を立てている。
まぁ、それをしょうがないよね、知らないし。
で、割りきってこちらを見て嘲笑ったり、顔をしかめたりするディールを無視して、美味しく食べれる私の図太さは、我ながら素晴らしいと思う。
うんうん。
この図太さは、私の武器になるなぁ。
と、考える余裕すらある。
ここにいるのが、本当に私で良かった。
私の大事な仲間達が、こんな居心地の悪い所で過ごす羽目になったらと思うとぞっとする。
仲間達は、皆優しくて、気配りが出来るから、気疲れで胃や体をやられてしまうかも知れない。
あっ、いや、そうでもないのもいるか。
ふと、頭を過った仲間達の姿に、思わず笑みが溢れる。
いつか、仲間達を初め、出来るだけ多くの人が、こんな食事を気兼ねなく食べれる時が来てくれれたら、いいのに。