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確認と決意

さて、和気あいあいとは行かない初対面だった。

お母様達との挨拶が済めば、疲れてるだろうとのあの男の言葉で、私は自室に案内された。

案内された自室は、淡い色で纏められた、実に女の子らしい部屋。

飾られている花も、ピンクや白に黄色と、女の子が好きそうな可愛らしい色のもの。

これはきっと、慣れない所に来た私の事をお母様が気遣って下さったのだろう。


部屋の中央にある、無駄に広いベッドに横たわり、私はひたすら考える。

破れも継ぎはぎも染みひとつさえないふかふかのベッドは、大きい。

両手両足を広げた大の字になっても、あと10人位は眠れそうなくらい。

まるで雲の上で寝てるかのような今まで味わったことのない感覚で、気持ちがいい。

ただ、床に敷かれた薄くて汚れた布の上で、仲間と引っ付くように寝てた私としては、その大きさのせいで寂しい気持ちも沸き上がる。

本当なら、急に記憶を思い出した疲労感で寝てしまいたいが、そんな事してる暇はない。

私に残された時間は、少ないのだから。


「てか、何が疲れただろうよ。ただ、自分が戻りたかっただけでしょうが」

挨拶が終わった途端、私を一瞥もせずに立ち去ったあの男に怒りしかない。

悪態を付きながら、体を起こすと、部屋にあった文机から、紙とペンを取り出す。

書き出すのは、先ほどの挨拶で蘇った記憶とあそこで得られた情報。

自分の記憶力に、自信なんてない。

出来る限り、鮮明な内に書き残しておく必要がある。

ちなみに、貧しい家で育ち、孤児になった私だ。

この世界の言葉なんて、読み書き出来る訳がない。

なので、日本語で書く。

まぁ、誰にもバレては困るので、ちょうどいいだろう。



まずは、私。

私の本名は、ルーリェンではない。

だが、これからの私は、ルーリェンと呼ばれるので、ルーリェンと名乗ろう。

私が私の名前を名乗れるのは、全てが終わってからだから。

さて、さっきも述べたが、私はあの男の親友の忘れ形見を守るための形代である。

薄いとはいえ彼女と同じ金髪に、瑠璃色と言えなくもない瞳。

彼女に似た年頃。(実は、彼女の2つ下)

そして、貧民には珍しい魔力持ち。

よくもまぁ、探し出したものだ。

髪と目と年だけなら、なんとかなるだろう。

だが、貧民で魔力持ちは滅多にいない。

魔力は、基本貴族のものだから、少なくとも私をあの男の親友の忘れ形見に仕立て上げる為には必須である。

私を見つけ出した、その親友にかける情熱が熱すぎて、気持ち悪い。

現在、5歳の私だが本物のルーリェンより2つ下なのだから、当然幼く小さい。

あの男は、貧民育ちである為に栄養不足により成長が遅いと言い訳するのだろうさ。

ふざけるな!

5歳の子供に7歳のフリとか、普通無理だろうが。

体格もだが、身体能力もだし、何よりも精神の成熟度も理解力も違うだろう!

私に記憶が蘇らなきゃ、本当に好きなように操れる都合のいいお人形だったろうよ。

ああ、腹が立つ。

落ち着けと、頭をかきむしりたくなるのを我慢する。

さて、とりあえず私のもので、私のものでない記憶を振り返える。

しかし、思い出せるのは、どんな所で生きてきたのかと、私の未来やあの男を始めとしたこの世界に関することだけ。

私が、何をしていたのか、どうやってこの世界の未来について知ったのか一切思い出せない。

ついでに云うと、記憶というには感情が含まれていないから、知識という方が正しいだろう。

それによると、私があの男によって断罪される羽目になるのは、17歳。

ルーリェンの年で17歳ということは、今から10年後。

その間に、知識を蓄え味方を増やさないといけない。

はぁ~と、重い溜め息がこぼれる。


気を取り直して、あの男について。

あの男は、有力貴族の当主であり、若いながらに、優秀な文官だ。

容姿端麗で有力貴族でなおかつ優秀であれば、当然優良株だ。

幼い頃から、女達から媚びを売られ続け、母親は浮気性で可愛がられることもなく、不仲だった。

だから、彼は女性不信になり、女性を軽蔑している。

そうであったから、妻であるお母様に対して非常に冷たいし、子供達と必要最小限の接触しかさせない。

子供に対して、多少なりとも情があるが、あくまで自分の跡継ぎと有力者と繋がりを持つ為の駒という領域をでない。

男性に対しても、優秀であったが故に、無能者が嫌いだ。彼の基準では、残念ながら、殆どの貴族は無能者である。

そして、容姿にも能力にも家柄にすら恵まれた彼は、弱者の気持ちなど基本理解しない。

さて、人に対して冷徹な彼の唯一大切な人が、親友だ。

彼の幼なじみでもある親友グレイシーは、兄貴肌の陽気な性格であの男の親友の席を得た。

グレイシーの子供とあの男の子供が、異性であれば結婚を、同性ならば親友にと約束するぐらいには仲の良かった彼ら。

ルーリェンが忘れ形見であるという事から、想像はつくだろうが、グレイシーは既に亡くなっている。

強盗に殺されたとなっているが、手引きしたのは政敵である。

あの男は、私が偽物であり、それを企んだのは、グレイシーを殺した政敵だと巧みに持って行き罪を暴く。

ちなみに、グレイシーが殺されたのは、今から4年前。

隠し部屋に居たルーリェンを、あの男が保護したのもこの時。

では、何故お母様を初めとして他の人々にルーリェンの存在が示されのが、今なのか。

ヒントは、あの男はグレイシーを殺した政敵をまだ罪に問えていないということ。

つまり、あの時すぐにルーリェンの生存を明かした場合、おそらく早々にルーリェンは殺されていただろう。

あの時点で、ルーリェンを守るだけの力も地位も証拠もあの男は持って居なかった。

だから、彼はルーリェンを隠し、身代わりとなる存在を探した。

親友の敵を取り、忘れ形見を守るために。

そして、私を見つけたのが約2年前。

あの男の出した条件に合致した私が見つかり、やっとあの男は政敵を追い詰める為に動き出せた。

私を見つけてすぐに動かなかったのは、まぁ、私の責任ではないが私のせいだ。

現在5歳の私は、2年前に見つけられた時は3歳。

流石に3歳の子供を5歳と偽ることは、出来ない。

成長すればそうでもないが、幼い内は1歳違うだけで大分違うのだから。


てか、本来の私では7歳のふりも流石に難しい。

あの男、“私”の知識が蘇ったことに感謝しろ。

今の私の記憶や思いは、知識が蘇る前の私とほぼ変わらない。

性格と精神は、知識のせいで若干変わっている。

なんというか、一気に成長したというのが正しいだろうか。

少なくとも知識が蘇る前の私なら、蘇った瞬間即座にあの男に喧嘩を売った。

お母様達の前であの男の企み、自分が形代であることを叫び、詰め寄っただろう。

元々、短気だし。

だが、知識が蘇った瞬間、世界が一気に広がり、精神面も育った。

急変と言うにふさわしい変化は、正直倒れたいくらいの頭痛と疲労感をもたらした。

それを負けん気と気合いでこらえ、今に至るのだから、思わず笑ってしまう。

「本当に、私は、負けず嫌いだ」


あぁ、例えどれだけの知識を得ても私の本質はきっと変わらない。





私は、我が儘な人間だ。

自分のしたいようにしか、出来ない。

他人の気持ちを読むとか、気を遣うのは苦手だ。

だから、隠し事とか陰謀とか、本当は面倒くさいし、向いていない。

基本、終わったことは終わったこととして、気持ちを切り替えるのが得意で、1つのことに執念を向けるなんてしないし、前向きに生きている。

なのに、あの男に復讐しようと向いていないことをしているのは、私を利用しようとしたことに怒っているからだ。

あの男のおかげで、私の居た孤児院が援助して貰えているのは知っている。

それは、今あの男に与えられた身分も地位も仮初めで、只の孤児である今の私では出来ないことだから、素直に有り難いと思う。

もしあの男が、私に無断でなく、幼く、ただの利用しやすい貧民だからと馬鹿にせず、誠意をもって利用することと理由を説明してくれていたなら、私は全力であの男が利用しやすいように協力した。

結局のところ、私は私が無断で利用され、勝手に未来を狂わされることが許せない、ただそれだけなのだ。




だから、さぁ、復讐を始めよう。






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