いつの間にかロックマ○X5で遊んでいる【五人少女シリーズ】
どこからでも読める短編シリーズ「五人少女シリーズ」です。
キャラ紹介は別の作品に簡単にまとめてありますが、サクッと紹介すると
留音→普通の人
衣玖→天才な人
真凛→怒ると怖い人
西香→うざいKY
あの子→女神
みんなあなたの思う美少女で変換すればだいたいOKです。
なおプロフィールページはこちらです
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衣玖は一人リビングでソファーの柔らかさに収まり、真剣にゲームのコントローラーを握って50型のテレビ向かっていた。遠くで扉が開く音がして、それからバシャバシャと水で何かを流す音が聞こえた。今は朝の早い時間で日も出ていない。この時間に起きているのはおそらく留音だろうと考えながらも衣玖はゲーム画面から目を離さない。
留音はリビングを通りがかり、ヘッドフォンを付けて真剣にテレビに向かう衣玖に「あ、またゲーム徹夜してら」と瞥見の後に日課のジョギングに出かけていった。
留音の考え通り、衣玖はゲームで徹夜をしている。衣玖はマルチタイトルを始めるとどうにも長くなってしまう節があるので、誰かが起きた時にやっと眠る衣玖というのをこの家に住む誰もが数回は目にしている。特に留音はほぼ毎日朝早くから出かけるので誰よりそんな衣玖を見ていたから何のゲームで遊んでいたかを特に気にしなかった。
だから一時間後にジョギングを終えて帰ってきて、汗でびっしょりになったピチッとしたジャージを着替えるために朝シャワーを浴びて出てきた留音がリビングでゲームをし続けている衣玖のプレイ画面を見た時にこう叫ぶことになる。
「だぁ!!なんであたしのX5やってんのォ?!」
買ったばかりのアニバーサリーコレクションに収録されたX5を衣玖はべらぼうに遊びまくっていたのだ。
留音は最初にプレイしたX3で挫折し、順当にX1からクリアしていくぞというところで。最弱ボスのアイシー・ペンギーゴにも負けながらやっとX4に入ったというところ。まだX5は起動すらしていなかった。
「もうX4までクリアしたの。ルーが推すだけあってなかなか面白いわね」
「え!買ってきてまだ四日なのに?!」
留音は最初の一日目でX1のシグマが突破出来ず、二時間くらい戦い続けてサブタンクを簡単に満タンに出来る方法を知った後にやっとの思いでシグマを打倒し「エックスバスターのかがやきとともに……」のエンドロールで留音の目にも揺れる輝きが灯ったというものであるが、衣玖は最初の一日でX2の昇竜拳を取るまで進めていた。
「X4は二週遊んだわ。エックスとゼロで」
IQ三億くらいの天才少女の攻略速度に慄きながらソファーの定位置に腰掛ける留音。やるせない気持ちで衣玖のプレイを見ることにした。
それから一時間後。喧騒が聞こえてくるのでリビングへ出ていった真凛は、そこで何やら口喧嘩している衣玖と留音、それからそれをわたわたしながら止めようとしているあの子に目を向け、大きなため息をついて仲裁に入った。
「もぉー!また喧嘩ですかぁ?!今度は何なんですかぁ?!」
ゲーム画面が付いているのでコントローラーの取り合いでもしているのだろうかと思った真凛だったが、状況はもっと複雑だった。いち早く留音が真凛に提案する。
「真凛!ちょうどいい、真凛に判断してもらおうじゃないか!」
留音が衣玖からコントローラーを奪い取ると「望むところじゃないの!」と喧嘩腰で返している。
それから留音がX5をスタートさせ主人公にゼロを選択すると、オープニングステージに降り立ったゼロが敵に向けて通常攻撃の三連切りを繰り出した。
『これ!』
「は?」
二人同時にその三連切りに対する意見を求めてきたので即座に疑問で返す真凛。留音はもう一度三連切りを繰り出した。
「これだよ!ゼロのボイスさ、えっ!さっ!はどう!!って言ってるよな?!」
「っ?」
真凛が何を言っているのかさっぱり理解できないという表情を作る。この二人はこんな謎の喧嘩を頻繁にしているのだが、今回のはいつもよりずっとわからない。
「ちーがーいーまーすー!ゼロは『セイッ!ヤッ!トウ!』って言ってるんですー!」
衣玖は子供みたいにそう反論した。
「おい真凛聞いてくれればわかるよな?!衣玖は昨日今日しかプレイしてないゲームでこんな事言ってんだぜ?!絶対『えっ!さっ!はどう!!』なのに。言ってやってくれよ、そんな神輿でも担いでるような声なワケがないってさぁー!」
本当に呆れるわ!と留音。
「何言ってるのよ!仮に三段目の掛け声が『ほいさ!』だったらルーの言葉もわかるわよ!でも何よ『はどう!』って!ゼットセイバーに波動要素はありませんー!」
「甘いな衣玖ー!ゼットセイバーエクステンドをつければちゃんとした波動は出るんです-!しかもゼロの流線型の斬影はX5までだと実際に波動っぽいからあってますー!」
威圧的な敬語でのマウント取りに移行する二人にイライラしてくる真凛。
「だったらX4のときにパーツシステムないのに波動って言ってるのおかしいじゃないの!」
「もう一度言うけど流線型の斬影が波動っぽいからです~!実際X6では三連切りの三段目が棒状になって『はどう!』って言わなくなってるんだからな!」
「ちょ!私がまだ未プレイの作品持ち出すなんて卑怯じゃないの!!」
「あたしの方がゼロに詳しいって言ってるんだろ!!」
なんだか一人の男を巡って本妻と愛人が喧嘩している図にすら見えるというもので、真凛には呆れしか無い。
「二人共!!!うるさい!!」
そんな風に加熱する二人より更に大声で真凛が叫ぶと、真凛の怒りで世界が破壊される可能性を思い出して少し冷静になって黙る二人。真凛は説教じみた口調でこう言った。
「あの、大体ですねぇお二人共。これどっちも正しくありませんね。この赤い人は『セッ!サッ!ソゥ!』って言ってると思いますよ?」
『いやいやいやいや』
真凛の意見に声を合わせて首を振る留音と衣玖。
「それはいくらなんでも無いわ。あたしらでもまさか三段目がさ行で始まらないことはわかるよ、なぁ?」
「そうね。さ行の言葉では無いわ。ソゥ!なんて、絶対無いわね。大体何ソゥって。日本語の掛け声的におかしいでしょ」
二人は仲直りしたみたいに目を合わせて頷いている。真凛は仲直りさせたい気持ちはあったが、自分の意見が否定されるのは物凄くシャクなのでここで終わらせる気にはならなかった。
「お二人は今熱くなってるから聞こえないだけですよ。わたしがこの中で一番冷静なのはわかりますよね?ソゥです。三回目の斬り攻撃の掛け後は『ソゥ』。絶対そうですからね」
『ナイナイナイナイ』
留音は十年以上定期的にリピートしてきたX4でも聞いていたボイスに絶対の自身を持っているのだ。
そこに今度は西香までもが「うっさいですわねぇ」と鬱陶しそうにリビングに入ってきて、あたふたしているあの子にだけにこやかに挨拶をし、喧嘩の経緯を聞くとこうやって嘲った。
「あなた方、まいどまいど思いますけど本当にとんでもないバカですわよね。ちょっとわたくしにも聞かせてもらえます?決着つけましょう」
すると置かれたコントローラーを取った衣玖がギリギリ三連切りが成立する程度の遅いリズムでゼロの通常攻撃を繰り出した。
「このセリフですの?……あなた方、たったこれだけのセリフでそんなに喧嘩してたんですの?」
言葉もありませんわ……と憐れむような目で三人を蔑む西香は更に続ける。
「こんなの聞いた瞬間にわかるではありませんか。掛け声は完全に『フッ!ヘッ!ハゥ!』ですわよ」
『なんで』「だよ!?」「なの!?」「ですか!」
西香の言葉に他の三人が仲良く声を合わせて否定する。
「こんなにかっこいいゼロがよぉ!ハゥ!なんて掛け声使うわけ無いだろ!それ可愛い女の子が困った時に言うヤツだろ!はぅ~って!」
「例えなくていいわよ気持ち悪い!でも一部は同意ね!ハゥは無い!」
「はい……流石にお耳の心配をしちゃいますよぉ西香さん……」
「ちょっ……あなた方のほうが明らかに耳悪いでしょう!?ちょっと衣玖さん!もう一度その声のヤツやってくださいます!?」
西香の抗議に応え、再びゼロにセイバーを振らせる衣玖。ゼロはさっきから公園のようなエリアのど真ん中で無駄に素振りさせられている。
「えっ」「セイッ」「セッ」「フッ」
「さっ」「ヤッ」「サッ」「ヘッ」
「はどう!」「トウ!」「ソゥ!」「ハゥ!」
お互いの相容れないゼロのセリフ談義に顔をしかめる四人。
「もうわかったわ。ちょっとここで意見を合わせましょう。ちょっとこれ聞いてくれる?」
そうしてゼロ選択時のみ使用可能なレア武装「ゼットバスター」を放ち「これはなんて言ってる?」と衣玖。
『ひ』
これは何故か全員一致だった。それについては留音は解説をできるだけの知識を持っているようで、まぁそうだろうなという表情で話し始める。
「まぁこれはね。X5はX4からの素材がかなり流用されてるし、これX4で龍炎刃の攻撃する時のセリフだしな。X4やってればわかる。火属性の攻撃だからゼロが『火!』て言ってたのが流用されてるし。その点エックスは何故か声優変わってるからなぁ」
そんな風に得意気に話す留音に衣玖が興味深そうに尋ねた。
「えっ?エックスの声優変わってるの?撮り直しただけじゃなくて?」
「そうだよ。イトケンって人からショーちゃんって人に変わってるらしくてさ。X5だとジャンプの時の声とか特に違うでしょ」
「そうだったのね……ゼロは同じなのに……」
「そう。ゼロは全シリーズ同じなのに、エックスだけしょっちゅう変わってるんだよな、何故か知らんけど」
「へぇ……」
衣玖が少ししょんぼりしながら留音と冷静に会話を始めたことで真凛と西香が置いてけぼりになっているのだが、そんな事に構わず衣玖は思い出したように留音に詰め寄るように訊く。
「あ!ちょっと待って!ということはX4のときにフロストタワーを使った時のやたらかっこいい『ハァッ!』って声もX5じゃ聞けないってこと?!」
「あ~、あれな。そうなんだよ、それっぽいボイスはあるけど。衣玖もやっぱわかるか、フロストタワーの声はマジでかっこいいよな。ダブルサイクロンの「はっ!」っていうのもいいけど、フロストタワーはダンチでかっこいいと思う」
「私、ヘッドパーツ手に入れてからフロストタワーとツインスラッシャーのチャージだけでステージ攻略したわよ」
「あ~わかってる。衣玖はわかってる。X5はその点特殊武器のボイス消えたのが本当に残念なんだよなぁ……」
「え!消えたの!?ほとんどゼロで遊んでたから気付かなかったわ……前評判は耳に入れてたけどそこまで低予算作品って感じなのね……」
「X6も含めてこの頃はなぁ。でもX5にはX VS ZEROって超名曲を作った功績があるからな」
「あ~っ!いいわよねあのシーン!エックスがかなり強かったけどシナリオの山場って感じで……曲もかっこいいのはわかるわね!」
「だろ?!あれって後々……たしか今からほんの数年前なんだけどさ、ボーカル付きの楽曲でファンディスクみたいなの出てるんだよ。色んな人が歌う曲になっててさ、それがめっちゃかっこいいのよ!」
「へぇー!そんなのあるの?!聴いてみたいわ!」
「お、あたし持ってるよ?聞きに来る?あたしの部屋のPCに入ってるからさ」
「あ~いく~!」
「まじで名曲よ?野沢○子さんとかまで使って一曲仕上げてるのよ」
「なに!?悟空の?!それすごい!早く行こ!」
こうして留音と衣玖は仲良くリビングを後にする。残された真凛と西香は呆気に取られながら二人を見送った。
「結局、掛け声の件はどうなったんでしょう……」
疲れた表情で真凛がそう言うと、同じような表情で西香がゲームの電源を落とした。
「考えてみれば至極どうでもいいことでしたわね……まぁ正しくはハゥ、ですけどね」
「ソゥ、ですよ……」
「ハゥ」
「ソゥ」
「ハゥ……!」
「ソゥ……!」
名曲をボーカライズ(造語)した「エックスバスター」はアニメも含めて当時は脳汁出ちゃう出来でしたね。
今でもプレイヤーに入れてます。後々シャーロックで好きになったナノさんが歌っていたのが嬉しかったですね。X5は確かに低予算作品だと思いますが、システム的には挑戦的だった部分が多く、賛否はあると思いますが嫌いではありません。
X9はいつ出るんだろう。ずっと待ってます。