表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第二章 不可視の旅団
70/71

30 仮面舞闘会(sideA and B)

※延期に延期を重ね申し訳ありません。

今週は本分の確認あるいは訂正を行うため、これ以上の更新はないかと思われます…。

***カレン


 一面紅色に染まっていた景色は、甘い蜂蜜色の色彩を取り戻し、

 雨も止んだ静かな月夜の空気が、夜会の劇場を吹き抜ける。


 ばらばらと、崩れ落ちていく屍の音が、磨き込まれた琥珀色の床に弾かれ響き、

 甲高い悲鳴が呼応するように方々から轟く。

 活気に溢れていた会場はその化けの皮を剥ぐように、くるり踊る賓客共々その姿を変貌させており、

 私はその真ん中で銀の剣を手に呆然と立ち尽くしていた。


 目の前にいた黒い竜は霧散して人影に潜ると同時に、

 入れ替わりに姿を現わした褐色の瞳を持つドラゴンが、飛び立ち会場の天井を舞う。

 彼岸花に覆われたシャンデリアの光を乱反射させる白銀の鎧を纏った双翼の竜は、舞台を舐めるように観察した後、私の元へと華麗に着地してみせた。

 舞い上がった風に煽られたサシェの香りが、私の意識を醒まし現実を再認識させる。


 ぼんやりしたのはこれで二度目だ……。片手の甲で目を遠慮なく擦って、私は状況を見渡した。


 私の目には、黒い獣となった人影と、逃げ惑う人々の姿が次々映し出される。

 そして、黒い彼らに銀の剣を向ける人の影も。


 今や劇場は赤い花に覆われた檻。誰もがそこから出ることも叶わず、また、入ることも叶わないはずだった。けれど、銀の剣を持つ騎士達はどこからともなく現われ、いつかどこかで見た鎧鳥と共に空を駆け回っていた。


「あれは、ランタナの騎士?」

 人型の参加者を間一髪のところで救い出し、黒い獣を葬送の剣で貫く。一体どこから湧き出しているのか一、二の単位ではない数だ。


 けれど、一体消えたところで事態は治まらない。彼らは霧散しては再び舞台上へと這い上がってくるからだ。騎士だけじゃない、こちらも徐々にその数を増やしているのだ。

「乗レ」

「え?」

 見ればジークが屈み、私の方へ身体を傾けている。

「コノ場所ハ危ナ……ッ!」


 彼は発言の直後、私の返答も聞かないままこの身体を両手で掴み、いきなり飛び上がった。


 ――いきなり何?!

 宙を浮く不安感を堪えて、手からこぼれ落ち床に打ち付けられた剣の先を見る。

 するとカンと痛々しく響いたその真上――数秒前私達がいた位置――に一頭の獣が食いちぎらんばかりの勢いで飛び込んで来た。

 急上昇しながらも、刹那に聞こえた獣の荒々しい息づかいが耳に残っている。不格好なまま両手に抱えられぶら下がりながらなお、温度を持った恐怖心が心臓をかき鳴らした。

 ――彼らの餌食になった私は、どうなってしまうのだろう。


 赤い舞台に黒と白の軍勢が飛び交っている。

 幕が上がれば留まることなく紡がれる舞台のように、眺める視点は次々繰り出される物語を追う観客のように、

 けれど間違いなく私も役者の一人で、


「サテ、コレカラドウスルカ」

「……」


 ジークの声音はどこか楽しげで、彼が首を回らしたその先をよく見れば、白の軍が厳重に取り囲んだ場所、指揮者の立ち位置にあの女性が立っていた。



***ジョワユーズ


「とにかく救出を優先して頂戴! レーヴァはどこ!」


 どんな展開に転んでも毅然と華麗に軽やかに。

 度胸やら勇気やらを身につける前にすでに慣れによって行動できている自分に半笑いを浮かべつつこの場に飛び込んで来た騎士の面々に指示を出す。

 ランタナ国の王妃として迎えられてから、あまり声を張ることもなく、好敵手もいない期間が長く続いた分、むしろ指示を出す度に心地良い気分になっていた。


 任を負った私達にとっては負けられない土壇場なのでしょうけど、どうにもこうにも国色に染まってしまったこの性分は仕方ない。

 スカートの下に仕込んでいた小型の猟銃を取ると、この上ない高揚感を得た。


 黒い獣、私達の言う人ならざるモノは、もはや目に付くもの全てを標的と認識している模様。

 彼らは地下世界を伝って騎士に囲まれた参加者の足下から這い出すが、急降下してきた一羽とその騎士によって貫かれ、床一面を隔てた向こう側へと堕とされた。

 黒い獣が突然姿を現わしたことと、会場の変貌を鑑みるに、今この時刻この場所は“裏”側との境目が薄く曖昧になっているのだろうと察せられる。


「境目を越える特権」を持った騎士は獣と共に一旦“裏”側へと消え、間もなく舞台上へと舞い戻ってくる。そして私の元に降り立った一人の金と赤の騎士は、律儀にも私に礼を寄越した。

 彼こそこの騎士群を率いて現われたランタナの第一王子で、詰まるところ息子である。


「……息子に敬礼されるのは、やっぱり変な感じね」

「この場で冗談は止めて下さい」


 普段は私情込み込みの言動が目立つものの、戦場では至って冷静。

 私よりも旦那寄りの性分らしいレーヴァテインは口調こそ丁寧だが、礼を解きやれやれといった仕草を見せ、そのまま不機嫌を隠さず再び鎧鳥に跨がった。

「現在。軍勢を抑えるだけで手一杯の状況です。又、彼らが増える原因は未だ掴めておりません」

「流石に無尽蔵のケースは初めてだものね」

「……まったく。今代に限ってどうしてこうなるのか」

 彼は私への報告をしながら且つ愚痴を零しながらも周囲への警戒は欠かすことはない。

 加えて舞台の中央で滞空している竜と少女の安否を確認しておもむろに溜息を吐いた。


 一体の黒が表へ顔を出せば、一対の白も飛び出し伸していく。

 現在。ランタナの民が使う隠し通路、通称アドナイの腔胴を通り、レーヴァテイン達はこの場所へと流れ込んできている。


 腔胴は“裏”側の一部であり、ある一定の場所を繋ぐ経路の役割も持っていた。元々調査目的でストレリチア邸と、この会場近辺を探っていた彼らは、異変に気付き集まって来たのだろうが、……それにしても、人ならざるモノも騎士も多いこと多いこと。

 ストレリチア領を調査していた全員が集まっているではないかとさえ思う。

「それにしても、すごい量を集めたわね。この場所に特別おかしな点でもあったのかしら」

「この場には、弟達が立ち会っているでしょう? 万が一が起きたらどうする」


 ……この子、本当に弟好きよね。

 今度は私が呆れ顔を浮かべる番であった。


 私達が言葉を交わす間に、黒の一体は床下から手を伸ばし私の足首を掴む。気配を察知したレーヴァは空へ退避して剣を構えるが、そのまま私を助けることはしない。


 けれどそれでいい。


 私がドレスごと銃で足下を貫き拘束から逃れると同時、他の数体の黒い獣が飛びかかって来た。銃身を持ち直し、先ずは目の前に迫る一体を真上に蹴り上げてから、打ち上げられた無防備な腹部を打ち抜く。流れのままに軽くステップを踏み、弾を送り、背後から迫る体躯を躱すと、逃げる背に銃口向けて一発。


 身を屈めて、両脇から攻めてきた二体の対処は、滑空してきたレーヴァに任せ、

手を打ち抜かれ苦悶の表情で這い上がってきた残りの一体に、今度は正確に照準を合わせ、その脳天から打ち抜いた。


 けれど、ここで一掃しても、彼らはまた甦る。

「もう完璧怨霊の類よね」

 苦笑交じりに充填して、真横に着地したレーヴァの横顔を見た。


「それは確か、アカツキの言葉でしたか」

 何か言いたげな顔を彼は、しかし口を一回つぐみ、改めて報告を口にする。

「……“裏”の世界についてなら、ここへ来る途中の腔胴内も様子がおかしかったように見受けられました。ただ、私共は“見えない”側ですので、詳細は分かりません」

「ちなみに、腔胴の異変はこのストレリチア近辺だけだったかしら」

「……いえ。今この場にいる騎士の中には他方から合流した者もいますが、似たような違和感を感じたと」


 私達は見つめ合い、それから揃って舞台へと下降を始めた竜を見た。


「うーん、これは、“見える”側の意見も聞きたいところね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ