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生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第二章 不可視の旅団
68/71

28 side???

今回はメインの子達ではないメンバーです。

サブタイトルは追々…。

初っぱなから誰やっ? て名前が出てますけど、前々話辺りで一人語りしていた人です。

***シオン


 初めてソニア・リリーを見た時の衝撃は今でも忘れられない。

 彼女とよく似た、菫色。顔立ちも、その後ろ姿も、彼女がまだこの地で生きていて、笑っている、

 性格は似ても似つかないけれど、それでも、

 そう錯覚した。信じられた。

 ああ、リナリアが生きているんだって。


 ……そこまでは良かった、そこで踏みとどまれば良かっただけだったのに。あの男が目の前に現われてから、俺の世界は変わってしまった。

 俺だけではない、このフィクス全土に及ぶその現象は、誰も彼もを置いて侵攻していく。もう誰も止められない、発端を作った男は嗤いながら傍観を決めている。


 今宵も一つの舞台が赤く赤く染まってゆく。止め方も分からず、俺はただ見ていることしかできない。ただ焦りと後悔が俺の胸を締め付けて、呼吸ができなくなってきた。

 俺が堕としたソニア女史のような犠牲者がまた増えてしまう。

 俺はただ、君が生きていて欲しかっただけだったんだ。

「ごめん、ごめん、リナリア、」


 そこに事態の元凶とも言える男がふらりとやって来た。

「おやおや、こんな所で何をしているのですか? シオン殿」

「――――お前!」

 俺が掴みかかっても、そいつはへらへらと何の感情も持たずに作り笑いを浮かべただけ。

 いつ何時怒りをこいつにぶつけたところで事態が変わるはずもなく、自分が同罪であることにも変わりがない。

 荒く息を吐きながらも、俺は掴み上げた襟元をゆっくりと下ろした。


「おーこわいこわい。今日はもう退散するとしますかね」

「……何?」

 この金の仮面の男はいつもであれば事が終わるまで眺め続ける。今日もその悪趣味に興ずるのかと思っていたが、むしろこの場から早々に立ち去ろうという意思が感じられた。

 俺が疑問を投げかけると仕方ないとばかりに口を開く。

「今宵の舞台にはどうにも無粋な観客が紛れていたようでね。君も目を付けられる前に大人しく帰るといい」

「無粋な客?」

 こいつがこうも警戒する相手とは、一体どんな奴なんだ。

 けれど金の仮面の男は、俺の問いにただ視線を寄越しただけで何も言わず、むしろ用件は済んだとばりにその場を立ち去っていった。


 なんだ、

 こいつが嫌煙するのは誰なんだ、

 そいつは、この状況を変えてくれるか?


 ――――そいつは、俺を、裁いてくれるか?


 これは、

 生と死の境界線にたつ舞台の上で、ある一組のペアが舞を踊る、数分前のこと。


***ニコライ


 ストレリチア領主館で作業を続けていた俺は、屋敷の窓越しに映る雨を眺めていた。

 栽培事業が盛んなこの領に降る雨はまさに天の恵みだが、今夜はどうにも喜べない。

 妹を舞踏会へ一人で行かせている事への不安を助長させるのもあるし、

 自分がこれから王都へ向かうことを、天から邪魔されている気分にもなるからだ。


「すまないな。本来なら、会議に私も行かなければならないのだが」

「元より王都行きは私が自ら申し出たことです。ランタナ国の件も含めて、私が報告に参りますよ。向こうにはロートスの方々もいますから、心配は無用です」

「そうなんだがな……」

 エントランスに立って、俺と父上二人揃って窓の外を物憂げな顔で見やる。流石家族、父上も考えが同じなようだ。


 俺が参加する会議は、3ヶ月毎に一度行われるもので、主に自分の領の成果や状況を報告するために各領の領主やその地位に準ずる人が王都に集まるのである。

 今までも参加したことは何度かあるし、それ自体を懸念している訳ではないことは互いに明白だった。

 ただただ漠然とした不安感が胸の内に巣くったまま消えないのだ。


 まぁ、出るのは明日の早朝で間に合うか。

 準備を早めに済ませてできた空白の時間をどのように使おうか考え始めた時、何やら慌てた様子のクロエがこちらに向かって走って来ていた。

 あいつが血相を変えるなんてよっぽどだ、無意識の内に俺は息を詰めた。


「旦那様、ニコライ様、ご報告します」

「……どうした」


「ソニア様と、サミが、屋敷中を探しても見つからないのです」


 窓の外の雨は止まない。

 無言の空間に激しい雨音だけが響いていた。


次回投稿時にタグ変更しようかと思ってます。

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