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生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第二章 不可視の旅団
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25 仮面舞闘会(sideB)

※今回は始終ジョワユーズ視点でお送りします。


「皆様知っていらして? 近頃、各地の名君やその一族の者が行方不明になっているとか」


 グラスワインを一口飲んで、気まぐれに数人とダンスも踊って、小耳に挟んだ噂話の体で切り出してみれば、皆一様に首を縦に振った。

「もちろん存じ上げております。行方不明の場合もあれば、人格が丸々変わってしまうこともあったとか」

 口火を切ったのは金髪に白と金の衣装を纏った若やかな青年。

 彼とはほぼ初対面だが、恐らく興味本位で近づいて来たにしては、容易にダンスに誘ったりせず、周囲の状況を見て観察を決めた分好感が持てる人物だ。ここぞとばかりに声を上げた彼のその得意げな口ぶりには、自分の認知している事と誰よりも先に提示できたことへの優越感が窺えた。


「……薬物が関与しているという噂も耳にする機会が多くなりました」

 次いで冷静なフリをして言い入れるのは褐色の肌を持った周囲よりも頭一つ抜きん出た背の高い男。彼はフィクスともランタナとも、アカツキとも違う異国の民。面と向かったことはないが、仮面越しの接点なら数多くある。

 前者が真っ白ならばどちらかというと黒、裏より闇寄り、内情に深く踏み込むべきではない相手だ。


「何年か前に、鉱物が似たような事例を起こした事がありましたね」

「鉱物?」

「! は、はい。確かイキシア、いえアカツキの方で採掘されていたもので、私は見たことないのですが、とても綺麗な銀色をしているそうです……」

 自分の発言が拾われると思っていなかったこの子は白寄りの中堅。私の下が安全だと認識しているようで、いつも取り巻き陣の中にいる。彼女は勘違いの線も多く発言は精査する必要があるが、嘘が吐けない人柄である点で信頼が置ける。髪色は金色に近く、ストレリチアの特色とは異なるが、間違いなくフィクス王国の人間だ。


「でもあそこは坑道自体がつぶれて、以降立ち入り禁止になったはずですわ。坑道で働いていた何名かがその下敷きになって、近隣の人間が誰も踏み込まないように厳密に管理しているのだとか」

 少しキツイ印象を受ける言い方になってしまうこの女性は、嫌な意味で頭が回る。女性社会で敵に回すと危険な人種だ。方々に伝手でもあるのか、情報を幅広く持っていて、私が現在のこの地位を会得した時からの付き合いになる。

 彼女はロートスの人間で、且つ、カトレア・ストレリチア側の人間だ。


 ……相変わらず、ここは地域性のない人種の坩堝ね。

 並ぶ面々を見比べながら、今はもういない戦友の姿を思い出しては、暮れそうになった顔を扇で隠す。


 元々夜会の華として君臨していたカトレア・ストレリチアは、何を隠そうカレン嬢の母親であり、混沌としたこの場を作った張本人でもあった。

 私の何かが気に障るのかと言えばそうではなく、ただ対等に争える相手が欲しかったらしい彼女は、ダンス、歌、楽器を演奏して見せたり、酒を浴びるほど飲んでみせたりと、事ある度に私に挑んできては、その結果が出るまで競い合った。


 そしてその争いは、ときに、情報戦の意味も孕んでおり、

 当時これといった戦果は互いに得られなかったが、だからこそ関係は長続きしたのかもしれない。と私は思っている。


 今現在。カトレアの情報源であった女性は味方に付き、私を夜会の華たらしめる。

 様々な国と地域の人間の、しかも貴族が集まる舞踏会の、絶対女王。自由が利く地位に戻りたいと思いつつ、何かと有用な立場でもあり、結局この座から降りられない自分もいた。


「イキシア、ガランサス、ロータンセ、ハミルトン、ロートス、あとアカツキからも噂は広まっているようですわ。夜の君?」

 彼女は私を通り名で呼び、取り巻く人々をざっと見渡した。羅列されたのは領と国の名前。それも全て都心から南に位置するものばかり。

 有能な彼女は私に告げ口することで何かを期待している訳ではない、ただ取り巻きの反応を確認して、

 ……思った収穫がなかったのか一人静かに息を吐いた。


「今度の会議でも取り上げられるでしょうね」

「もうそんな時期ですか」

「それでどうにかなればよろしいのですが……」


 それから一向にめぼしい情報も得られないまま、ざわめき出した群衆の様子に私とロートスの彼女は目を合わせ、諦め混じりに頷き合った。一旦この話は打ち切った方が良いと、これは言葉を介さないでも互いに分かる。

 それは「噂は不安を煽るためのツールではない」というかつてのカトレアのモットーであり、単純明快な彼女に振り回されてきた私達の共通語でもあったのだった。



「……さてと、と」

 団欒の波が一旦去り、ワインを一口含む。

 一緒に来た二人は今どうしているだろうか。異常が見当たらなければ思い切り羽を伸ばすよう、主に男の方に言い含めておいたのだが。

 彼らを守る要員は念の為配置しているものの、少し気になって姿を探すと、その内の一人、少女の方が別の男性と言い争う様子が目に飛び込んできた。

 さりげなさを装っていた目が静止して、その足は知らず歩き出す。


「どこへ行かれますの?」

 輪の中の一人がそう私に声を掛ければ、その場にいる全員がこちらを振り向いた。

 彼らを引き連れて行く訳にもいかずその場に踏み留まるも、言い争いの声は明確な響きでもって私の耳朶を打つ。


「あなた……人を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ!」

 少女カレンのその声は、良い意味でも悪い意味でもよく通る。見れば同じ文句を聞き取った人は、皆その諍い事に注目していた。当の本人は怒り心頭のようで周囲が目に入っていない。

 私が行かなくても大事になりそうな予感に頭を抱えつつ、息子の姿を探すが、

「発音がなに! 話し方がなに! ジークが一生懸命な姿を笑うあなたの方がほとほと可笑しいわ!」

 その原因が彼だと知り、頭痛がした。


 苦笑でいなしていた男性側も少女の暴露が癪に障ったようで、二人揃って臨戦態勢になる。


 もう、割って入るしかない。


 私が重々しく一歩踏み出したと同時

 ――――先んじて割り込んだ男がいた。


取り巻きも名前もたくさん出てきてますが、七割方覚えなくて大丈夫です。

※次話との兼ね合いで、

一生懸命に話す姿→一生懸命な姿 に変更いたしました。(5/17)



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