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※侍女の視点からお送りします。
※想像力に自信のある方はグロ注意です。
ずっと、おかしいとは思っていた。
ウィル様の従者は出会った時こそ彼を守る素振りを見せていたものの、一列に並べばウィル様の傍ではなく私達の後ろに立ち、
お茶に関してはウィル様に先手を取られていたものの、彼が泣いたときは対処しようという動きも見せなかった。むしろ彼を観察していた。
「見ていれば分かること、」
私の背後を取ったのは、私が彼を手に掛けないよう警戒して。
観察していたのは、監視目的だったから。
「あなたたちは、同業者だったのですね」
屋敷の敷地外に勢揃いしていた“五人”に、私は話しかけた。
中心に立つ見慣れない鮮やかな赤い髪の男が振り返り、血に飢えた獣のような金の瞳で私を見やる。不躾に私を見回してその白い顔を不気味に歪めた。
夕餉に一緒だった女性と顔の作りまでそっくりだが、明らかに声は男だ。
「そうだとも、そうじゃないとも言えるかなー」
彼女とは違って、彼とは相容れないと肌で感じながらも、私は自分の目的のために問うことを止めることはできない。
「どういう意味でしょうか」
「あなたの相手は生きている者、ですが我々はそれに限らない」
男はおもむろに肩をほぐし私を手招きした。残りの四人に囲まれ動かなくなったそれを指さす。暗くてよく見えないが、臭いだけでその呼称が分かる。
「神子様の血には命を育む力がある。こいつらはその臭いを辿って集まってくる」
「死者の蘇生が、できると」
「そんな力はないよ。ただ、あるなしに関わらず集まってしまうのさ」
取り囲む四人の内の一人がそれを担ぎ上げ、暗闇の中に姿を消した。それが生前どんな姿をしていたのか分からないのは、幸か不幸か、私には判らない。
「この領地は楽ですよ。各所で咲く綺麗なお花さんが、血の臭いを隠してくれる。こいつらが寄りつく量が格段に違う」
「そうして、あなたたちは裏で神子様を守る。では、彼を監視しているのは何故?」
「他国のあんたが気にすることではないでしょ」
「……客人を気に掛けることは可笑しいことかしら」
「……相容れないなぁ」
お互い様、とばかりに私は男を睨み付けた。少しだけ殺意を見せると彼は「怖いなー」と軽口叩いておどける。少しは反応してほしいようだが、私が一貫して無反応を示していたため諦めたようなあからさまな溜息を吐いた。
「あの人に同情するほど無意味なことはないよ。どうせ数年後リセットされてしまう」
男とその奥に佇む三人の言いようのない剣幕が消えて揺らぎ、見慣れたものに切り替わる。わざと、とは言い難い人並みの感情に直面して、動揺を悟られないよう私は目を伏せた。
「何百年繰り返そうと、どこまで逃げようとも、この地で生きている限り、生け贄の血からは逃れられない。
国の神に見初められてしまった無垢で哀れで可哀相な神の依り代。
誰にも代わりを求められない――だから、もう二度と逃がしてはいけない」
「そう言いながら、あなたたちは……」
彼らはずっと裏側で泣き続けている。
***
屋敷に戻ると神子はニコライ様とカレン様を連れて台所に向かっていた。
彼が裏側を知っているのか、知りたくて。私は背後からこっそりと近づいていった。
……兄妹は絶対に気付かない。
そういう環境を私は守り続けてきた。彼らの母君に頼まれた通りに、ひっそりと。
思い通りの結果が嬉しくもあり、寂しくもあった。
だから、かの神子が鬼気迫る表情で振り返った時、
私は何も言えなくなってしまった。
彼は知っている。きっと、気付いている。
「お疲れ様です、その、ご迷惑をお掛けしています」
「……ええ」
それしか、言葉が出なかった。
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