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生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第二章 不可視の旅団
59/71

19(ミツキとサラサ2)

※R15(殺傷行為)事後、それでも苦手な方はお控え下さい。

※サミ(サラサ)視点。

※4/30 本文訂正、追加しました。



 まっさらな少年の手の平を、生命の雫が滴り落ちていく。

 彼の足下には、少年の父であり師と仰がれていた男が斃れ、周囲には銀色の鉱石が散らばり妖しい光を纏って明滅していた。

 強烈な鉄と油のニオイが漂う薄暗い坑道で、凄惨な光景を照らす小さなランプが、じりじりと嫌な音を響かせている。


 私はそれを、見ていることしかできなかった。

 男に直接手を下す役目は私、そういう命令だった、

 息子が父親を手に掛けることは、通常阻止ししなければない事だと、頭の片隅では理解していたのに。


 彼が片手間に弄んでいる薙刀は、斃れた男が所持していたものと全く同じ型のものだ。

 ミツキは“黒ずんだ何か”を浴びたその切っ先を眺め、手を伸ばし直に触れてはその感触を確かめた。


 少年が、ふと私を振り返る。

 ランプは一度消えては点き、また辺りを薄く照らしだした。


 ……オカシイ。

 想定していた光景との相違に私は眉をひそめる。


 いつも通り真っ直ぐに私を見る彼は、その手で初めて人を刺した新人とは明らかに異なっていた。

胴を薙いだその力量も、手際もよくない。

 けれど任務への義務感もなければ、彼には肉親を殺めたことへの罪悪感・後悔の色もない。喜色もない、憤怒もない、悲哀もない、ただただ能面のようにまっさらである。

 ミツキが私達が住む「ミクラ家」に出入りしてから日は浅いはず、それに坑道に入る前までは、人並みの後悔を抱えた一般寄りの少年であったと、私は確認していた。


 ……受容力の限界に達した為の防衛反応と見えなくもないけれど、どうにも落ち着きすぎている、

 そんな気がして仕方が無いのだ。


「どうしたよ。さっきからそこで突っ立ってばかりで」

 ともすればいつもと同じ明るい調子に戻った少年。その姿に、想像以上に動揺してしまった私がいた。

 元々無口を装っていたのをいいことに、私は胡乱げな目つきのまま彼を見据える。

「? なんか、いつも以上に仏頂面じゃん。何かあった?」

 ――こういった場に慣れている自分も自分だが、この場に限り、ミツキにだけは言われたくないと、それは正直に思う。

 そのまま辛口を返してもいいけれど、必要以上に彼の関心を引きたくなくて無言を貫くことにした。


「ま、いいや。この坑道、落とすんだろ」

「…………う。そうよ」

 けれど質問されれば仕方が無い。私は小さく頷いた。


 今回の件で我がミクラ家に下された命は二つ。一つは神域もとい立ち入り禁止区域となったこの坑道を封鎖すること。

 もう一つはアカツキ、イキシア間を不法に行き来する一団の始末だ。


 物理的に封鎖するための爆薬の設置は、すでに他の仲間が済ませている。

 故に私達の担当は後者。数いる標的の内、私達はサクヤ・シノノメ氏への用件を済ませれば終わりだった。

 もっと具体的に言えば、彼とイキシアの人間と取引の事実関係を洗った上での始末。それは今し方滞りなく終えられた。


 それまではいい。今更、彼が何を望んでいたのか、私には関係ないから。

 ――――けれど、ミツキはどうなの?


 尚も平然と振る舞う彼に、私は早々の帰還を勧めようとしたけれど、その矢先、件の少年はいきなり薙刀を鉱石に向かって振り下ろした。

 うるさいほど甲高い音が冷たく坑道内に響き渡る。

 同じ物質でできた、薙刀と石。人の力が加わったとしても、それらは互いに傷一つ付かない。状況を静観する私の前、それを認めたミツキは、ぽつり「やっぱりか」と言葉を零した。


「葬送の剣」

「は?」

「フィクスの北にある国で使われている剣さ。白銀に似た外見なのに、軽くて、硬くて、不思議な色合いに光り、互いに傷つけ合うこともない。……但し、ある場合を除いて」

 ミツキは流暢に語りながら自身の持つ薙刀を優しく撫でる。

 ……いきなり何なのだろう。

 彼の持つ“白銀一色”の刀身に違和感を覚えつつも、いきなりの話題転換とその行動の意味がくみ取れない私は、首を傾げるのみであった。


「この薙刀も、ここでとれる鉱石も、葬送の剣も、全て同じ性質を持っている。だから封鎖するんだろう? これ以上イキシアに触れられないように」

「……」

 そこまでは、知らない。私はただ常に自分の任務を全うするだけの人間だというのもある。

 そもそもミツキもこちら側に付き任を負った身分ならば、私情を挟むのは得策ではない。下手な勘ぐりでミクラ家に害をなすと判断されれば元も子もないのだ。

 私の無言を肯定と捉えたミツキは、一旦会話を切り、倒れた男に視線を戻した。


「サクヤ・シノノメは、崩落事故に巻き込まれた。それでいいんだったな」

 俯き加減で呟いたそこに、感情の色は見えない。

 ただ分かるのは、事故に巻き込まれたというのは、ミクラ家が用意したシノノメ家の(じじつ)ということ。私はただ命令通りにイエスとだけ答えた。

「それは、こういう理由もあったんだな」

「なんの話?」


 言葉の代わりに彼が指し示したのは斃れたままの男。私をからかっている気配はない。ミツキは真っ直ぐに私を見てこう言い募った。

「そうじゃないと、余計ややこしい話になる。親父の命日は今日ではなかった」

「あなた、何言って――」

「葬送の剣は転生者の魂をこの地から葬るために使われるらしい。支給されたこれで、この男を切ったのなら……そういう事だ」

「???」


 未だ状況の飲み込めない私を見かねてミツキが感情のない面持ちで手招く。

 彼の下で倒れたままの男は、見間違えようもないサクヤ・シノノメで、

 彼を切ったのは、見間違えるはずもない、ミツキ・シノノメであるけれど、


 ただ一つ、

 彼の身体には薙刀による傷が一つもなかった。


***


 カレン様と葬送の剣、想定外の取り合わせを目にして、私はあの日のミツキの姿をふと思い返していた。

 お嬢様にも彼と同じ道を歩ませよと言うのか、

 

――そんなことは許さない。

 “彼女(あるじ)”の最期の命令を守るの。


 脳裏に響く無機質な声に従って、服の下に刃物を隠した私は、迷路花壇へ向かう二人の後を追った。


 そもそも、神竜の番という立場は、国の中枢で保護される地位ではなかったか。

 一番安全な場所だと聞いていたから、彼らの自由にさせていたというのに。

 今からでも遅くはない。

 とにかく、彼らから離さなくては。


 感情を悟られぬように無表情の仮面をつけて、足音を殺して歩く先に見えてきたのはある一つの行き止まり。死角に入り、彼らの会話に耳を欹てる。

 竜の姿になった時は肝を冷やしたが、こちらに気付いた様子は見られなかった。

 けれど、私は衝動のままに出てきた事をすぐさま反省することとなった。


 竜には、文字通り、刃が立たない。


 元より神竜を害するつもりは毛頭なかったが、これでは脅しもできない。


「……取り敢えず、一旦引き返して頭を冷やそう」


 自分らしくないと自嘲しつつ、私は静かにその場を後にする。

 自分の仲間とその主に、見られているとも気づかずに。



わかりにくかったらすみません(特に後半部分

もっと書きようがあったのではないかと思いつつ投稿→また書き直すかもしれません。

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