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生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第二章 不可視の旅団
57/71

17

 私が参加する舞踏会は、過去何度か拝んだあの煌びやかなステージで男女がくるくる踊るアレ

ではなく、

 自己主張の強いお面を付けた男女が、日頃の鬱憤を晴らすために踊り狂う「仮面舞踏会」であるという。

 今度我がストレリチア領で開催される予定のそれ。身分は貴族以上という制限はあるものの、他国参加者不可の制限は確かにない。そもそも身分を隠す舞台だからどんな人がいてもおかしくはない、危険と隣り合わせの場所である。


 私も存在は知っていたけれど、実際に行くのは初めての事。

 しかも一緒に行く相手がジークって、イレギュラーにも程がある。


 会議が終わり皆退室していく中で、私はレーヴァテインの腕を強引に引っ張り部屋に引き留めた。あまり会話することのない相手と二人きりになるのは少し怖い。けれど、真意を確かめるのには打って付けでもある。

 私が見上げ、彼が見下ろし、視線がかち合ったと同時に扉の閉まる音が空間に響いた。


「何故、私なのですか」

「……“嫌”ではなく、“何故”なんだな」

「嫌?」

 私の問いに驚きも呆れもしないレーヴァテインは、引かれたままの姿勢で、ただ私を見下ろしていた。どう見てもイメージカラーは赤の熱血漢なのに、こうも冷静に謎めいた反応でもって返されると調子が狂う。

 それに、答えるでもなく唐突な自己完結で事を済ませるのはやめてほしい。うっかり流されちゃうでしょう。


 半ば睨みつけるようにして彼に視線を返すと得意げな笑みを浮かべられた。

「そうだな、じゃあ答える前に聞きたい。そもそも協力する意思があると取っていいんだよな?」

「? いや意思があるもないも、そもそもこの件はあなたが――」

「俺はただ“参加するといい”と、提案しただけで、強制はしていない」

「な、なんという、こじつけ」

 遠回しの上の更に遠回しの対話の末に唖然とした私の前で、彼は快活に笑う。

 それからローテーブルを挟むソファにどっかりと腰を下ろして、私にも座るよう指で指し示した。


「そう取られかねない、という話だ。俺も失敗したとは思っている。

現に、お前の侍女とやらも、お前の兄も、今頃他の候補を立てるか不参加の理由作りに取りかかっているだろう。“社交会が苦手な”お嬢様が、義務でもない舞台にわざわざ参加したいなんて思ってもいないだろうしな」

「げ、」

 ……そんな情報いつどこから漏れたのよ。

 ふかふかソファの上で両手で顔を覆い落ち込みと恥じらいを表現する。これでも、ランタナの次期王様候補。流石というべきなのか何なのか、話すだけなのに、なかなか気が抜けないわ。

「……苦手だと分かっていたのに、話を持ち出したのですか?」

「分かっていたからこそ、慣れさせるべきだと俺は考えた。

それに一応、番の“候補”には上がっているからな、ランタナ国の事情も見せられる範囲で見せておかなければならない事情もある――」

「……げげ、」

 ……色々ありすぎて、その書状の存在もすっかり忘れておりましたわ。


 自分の将来に関わる大事を改めて思い出した私は、レーヴァテインからゆっくりと視線を逸らす。だが、相手は逃しはしないとばかりに、冷や汗垂れる少女の顔面に向けて人差し指した。

「……そして。それら込みで尚且つ、お前が、あのメンバーの中で一番暇そうだったから。理由としては、そこら辺だな」

「――――し、失礼な!」


 両手をテーブルに叩き付ければ、ばんと激しい音が返ってくる。痛み振動する手の平を支点にして、向かいに座るレーヴァテインの眼前へと前のめりの態勢を取るけれど、現状言い返せない私は口をぱくぱくするだけに留まった。

 ワイルド寄りのお顔が笑いを堪えて震えている。

「でも、事実だろう」

 くぅー!

 確かに私は他のお嬢様方よりもお茶会だって呼ばれないし、舞踏会の参加経験だって浅いし、そもそも友達少ないし、その自覚もある。けど、けど、

「ひまは、ひどいわ!」

 持てる全ての負の感情をひっくるめて、それだけ吐き出した私はソファに引き返した。


「じゃあなんですか、私が暇人貴族だったから都合もいいし自分たちの用事を手伝えと」

「具体的に言えば、神竜様の手伝いだ。母君は放置で構わない」

「ジークの?」

「…………。あいつは、俺たちよりお前の傍にいようとする、それなら一番余裕もあるしお前に託すのが一番合理的だ。俺はまだ動き回らなきゃいけないから、あいつの傍にいてやれない。

――――すこぶる、極めて、甚だ、不本意ではあるが!」

 レーヴァテインは苦い顔で言い切ると、その激しい感情を抑え込むように、大仰に吐いた。会議の時より重苦しい空気を纏った彼は私を見据えて、おもむろに溜息をつく。


「……あと、そうだな、行く気があるならこれをやる」

 彼がそう言いながら抜いたのは、白銀の懐剣だった。

 竜の鱗と似てひんやりとするそれは、女の私でも両手なら振えるほどの重さを持っていて、角度を変えて眺めてみると妖しく光る。装飾は控えめだが、「神初めの儀」で使われた細剣も彷彿とさせた。

「これは?」

「葬送の剣と呼ばれる、ランタナの騎士が持つものだ。

護身用に一本もなければいざという時に逃げられないだろう。弟の為にもお前は持っていろ」

「……? いやあの、護身用って。これから行くのは、舞踏会ですよ」

「あいつに安全な場所などない」

「え?」

 レーヴァテインは剣を持ち固まっていた私の肩を掴み、一切の力加減もせずに前後に揺さぶってきた。視界に映る天井が揺れに揺れて気持ち悪い。

「いいか、くれぐれもあいつに傷一つ付けるんじゃないぞ、もし、そんなことになったら――――覚悟はできているな」

 止まるどころか加速する振動に加え、相手を射竦める為に放たれた声。野生の生存本能で身体を震わせれば少しは和らぐが、

「ジークを守るためですね、はい、分かりましたから、揺らすのやめて下さい!」

 私の不用意な発言により、その勢いは別ベクトルへ振り切って要らない火種を燃やした。


「…………ところでお前、さっきからジーク、ジーク言っているが」


 ぴたりと止まった男から放たれたのは、会議中に感じたのと同じ殺気、不本意と言ったときと同じ激情が燻っている不穏な空気、

 いやはや、どうにも嫌な予感しかしない。


 レーヴァテインが一旦私から手を離し、闇に捕らわれた亡者のごとき人相で頭を抱えている隙に、私はソファを立ちそろりそろりと後ろ歩きで扉へ向かった。


 しかし中間地点の辺りで、顔を上げた彼とばっちり目が合ってしまう。二人の間をとても気まずい沈黙が流れた。


「どうやって名前を聞き出した」

「――なまえ、ですか」

「しらばっくれるな! どうしてあいつの名前を知っている、目覚めた時からだんまりで、今まで誰も聞き出せなかったんだぞ!」

「え! そこ?! ちょ、待って待って」

 私の必死の制止の声も届かず、自分より遙かに高い男が亡霊のごとき姿で立ち上がり追尾してくる。その目には悔し涙が光り、声音も怒りというより駄々をこねるのに近い印象を受け、

 詰まるところ、全く怖くない。


 転ばないよう慎重に引き下がり、壁に背中を預けて見上げる形となった私に、対面に立って見下ろすだけの男。こっちの身動きが取り辛いのは確かで、傍から見れば私が責め立てられているように見えなくもないこの構図は、

 まぁ、闖入者に誤解を与えるのには充分過ぎた。


 勢いよく扉を開けた無言の闖入者は、

 相も変わらず無言且つ無表情のまま、思いも寄らぬ速さでレーヴァテインの懐に潜り込むと、鳩尾に強烈な一撃を食らわして撃沈させた。

「「……」」

 何故君がここにいるのか、とか。君が手を下した人物は君の味方じゃないか、とか。色々と問いたいところではあったが、

 崩れ落ちた赤の騎士と、その傍らに立つ下手人の銀の竜(人型)。それを呆然と見ているこの光景に、私は「……デジャヴ?」とだけ呟き彼を見る。


 過去の映像では、銀髪の青年が赤の騎士をそのまま連行していたが、

 この度の青年は私を振り返って、彼自身状況が読み込めていないとばかりに、とても困ったような表情を浮かべていた。




もう少し話し合う時間を与えたいけれど、話し合い始めると話が終わらない。

どうしたものでしょう…(;´Д`A

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