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生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第二章 不可視の旅団
55/71

15

 毛布部隊と共に現われたアマ曰く、

 本日訪れるランタナからの使者は、ジョワユーズ王妃と、レーヴァテイン殿下の部隊だったらしい。何故ジークだけが早朝に着いてしまったのか、それは彼女にも分からないそうだ。

 毛布に埋もれ欠伸をかみ殺すジークの姿を認めたアマは、しかし咎めるでもなく、敬うでもなく、ただ幼子を見守る母親の眼差しを向けるのみだった。

「まだ目が醒めたばかりだというのに。……きっと、気になってしまったのでしょうね」

「神竜様が? 一体何を気にして?」

 アマの呟きに問いかけると、赤い髪を靡かせた彼女は獰猛な金の瞳で私を見据える。

 条件反射で身震いすれば、彼女の表情は打って変わっていたずらっ子の笑みになった。

「……“我ら”は血の臭いに敏感な生き物です。自分と同じ匂いに惹かれるものがあったのでしょう」

 アマの指先がゆっくりと私の目元をなぞる。ジークと同じ緋色の瞳であることを確かめてから、彼女は静かに手を下ろした。


 毛布の下にいるはずだった銀色の君が私にすり寄ってくる。

 眠気に抗い何度か瞬きをする緋色は私を捉え、それを見つめ返すと逸らされた。意味の分からないやり取り、傍で目撃したアマの方が理解しているとばかりに笑みを綻ばせている。


「……何なのよ」

「……」

「また、だんまりですか」

「……」


 行動の理由を問おうとしても彼は無言。

 どうにも、皆が集まってからというもの、ジークは言葉を発しない。私が硬い鱗に覆われた石頭を軽く叩くと、彼は鼻先で私の頭を小突き返した。

 こういうリアクションはすぐに返ってくるのよね。


 結局無言のまま、それを何度も繰り返し繰り返し。私が軽い疲労を感じても彼の勢いは止まらない。むしろ完全に目は醒めて上機嫌になっている節もある。じんわりと汗が滲んだ軽めのワンピースが涼やかな風に吹かれ、身震いを起こした。

 ジークが自分にかかっていた毛布を一枚剥いで私に覆い被せる。その様を見ていたアマが屋敷に戻るよう私の背を押した。


「そろそろ屋敷に入りましょう。身体を冷やしてはいけません」

「でも、彼をこのままにするわけにはいかないでしょう」

 ずるずると押し切られないよう石畳の上で足を踏ん張りアマを振り返ると、彼女にこてんと首を傾げられてしまった。

「もちろん、神竜様もご一緒に」

「でも、あの体格では屋敷に入れないと思います」

「……今代の神竜様は人の姿をとれると、聞き及んでいるのですが」

 ――――え、そうだったんですか?

 半信半疑の私とアマがジークを窺い見れば、彼はただ居心地悪そうに唸るだけであった。


***


 青みがかった銀色の髪、色白の肌に、全体的に華奢な印象を受ける体躯、騎士の正装をベースにして袂などゆったり感も備えた神子装束。ウィルと類似する箇所はいくらでもあるけれど、目の前の人物は、いつも儚げな雰囲気を漂わせていた彼とは違う。

 ジークは常に口を引き結び、他者を射竦めてしまいそうな鋭い眼光を放ち、厳格さを兼ね備えた有無を言わせない空気感を放っている。

 ……もっとも、今の彼は不機嫌そのものであり、それにより威圧感が上昇している線も否めないのだが。


 このところ頻繁に使用される応接室横の部屋に通された彼は、人の姿をとりソファで小さくなっていた。

 借りてきた猫状態とでも言うべきか。ジークは依然として一言も発せず、身じろぎもしない、むしろあらゆるものに“触れられない”といった姿勢を保っている。そんな行動制限がちがちの彼が放つ緊張感に感染した私も、ソファの隅で身動きが取れない。

 少しでも心が安らぐようにと、気を利かせたサミがお茶を淹れてみれば、彼はその香りに絆されたような笑みを浮かべはしたものの、やはり一切手を触れない。カップに手を伸ばしかけて、それを慌てて引っ込めた。

 事情を聞こうにも、向こうがだんまりを決め込んでいる。予定されたランタナの客人が到着されるまでの小一時間、そんな状態が続いていた。


***


「まさか、一人で先に飛んでいくとは思ってなかった。全く、こっちがどれだけ肝を冷やしたと思っている」


 挨拶もほどほどに。応接室からこの部屋に通され、更にジークの姿を確認したレーヴァテインは、さっそく彼に苦言を申し立てた。

 彼が説明するに、自分たちの飛行部隊はジークを中心に据え一団となって最初は航行していたそう。けれど、王都を抜けた辺りで、ジークがいきなりその速度を上げて飛んでいってしまったらしい。

 訓練された騎士たちでも、ジークの飛行速度には追いつけず、きちんとストレリチア邸に到着していたことを確認するまで、気が気ではなかったと言う。

「今代の神竜様はご公務に積極的、それはそれで面白いっすけど……空路は正しく渡って欲しいっすわ。

毎度毎度関所で注意を受ける羽目になったこっちの身にもなって欲しいっす」

 レーヴァテインと同時にやって来たフラックスにも疲労の色が見え隠れしていた。

「上空を通るのに、地上の関所も通るんですね」

「誰も取り締まれない空だからこそ、地上の枠組みに添った許可が必要なんだ。面倒だが仕方ない」

 レーヴァテインはジークを盗み見て、次いで私、サミ、兄上、クロエ、ソニア、アマ、フラックスを一通り見回してから、突然深い溜息を吐いた。ちなみに現在ジョワユーズ王妃は父上と別件で会談しているためこの部屋にはいない。

「全員、揃ってはいるな」

 私達の様子をざっと見回して、自分が見られていることを自覚したレーヴァテインは、その中心で堂々と頭を下げた。


「改めて例の件で協力して欲しいことがある。力を貸してはくれないか」


このとき私が思ったのは、

この人、真面目にもできるんだ、であった。


明日は上げられない、です。


時間経過の意味も兼ねて「***」を追加しました。(6/28)

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