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生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第二章 不可視の旅団
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12

小休憩。

今回は短めです。

 ランタナの国を出て、何かと巻き込まれがちだった旅も、ようやく終わりを迎えた。

 自室のベッドに横たわり、開けっ放しの窓辺から星がきらめく夜空を見上げる。何となしに眺める白いカーテンがランプの光に透かされ夜空を舞い、湯浴みを終えた身体にしんと染み入る風には、雨上がりの香りがした。

 部屋に一人なんて状況は、何日ぶりだろう。

 庭先の葉擦れが聞き取れるほど静かな空間に、溜まりに溜まった溜息をついた。


 アマは死者が生き返るとんでも現象の調査と本来の目的のため、この地にしばらく滞在する運びとなり、

 同様に、ソニアは一旦家で預かることになった。サミとの仲は未だ険悪だ。

 セシリアは何故この屋敷まで来たのか分からないまま、すぐにロートスへ引き返した。


「なんというか……」


 私は誰に話しかけるでもなく、ただ吐き出したい一心で言葉を口にした。


「ついて行けないわ」


 自分が無知であったことも一因だが、

 現状の非現実さ、

 いきなり知り合いと出くわしたり、

 知り合いが増えたり、


 とにかく。こうも状況が重なると追うこと自体が面倒くさくなる。

 帰宅という一種の無防備な身に起こった様々な出来事は、私の心身に破格の倦怠感をもたらしていた。こちらはただ来る状況に振り回されていただけだというのに。

 身体が重い、眠くないのに眠い。動きたくない、頭も考えることを放棄し始めた。

 全身にかかる重量感を押し出すように大仰な溜息を吐くと、風が私を優しく撫でた。


 その風に煽られて、私の机から一枚の紙が舞い上がり、絨毯の敷かれた床に着地する。

 暫く落ちた紙を呆然と眺めていた私だったが、その正体を思い出し慌てて拾いに立った。

 真っ白なそれは手紙。差出人の名はウィル。

 ランタナで受け取った、最新のものである。

 埃もついていないそれを光にかざし、汚れがないか丹念に調べ、染み一つ無いことに安堵の息を漏らした。

 ちゃんと仕舞う為に、唯一鍵のかかる机の引き出しを開けると、ずらりと並んだ彼からの手紙たちが顔を出す。


 ……そういえば、文通は続けられるんだっけ。


 ウィルとニコライの別れ際の会話を思い返して、私ははたと気づいた。


 ……今思えば、あの国こそ非現実的で不思議な世界だったな。


 でも、思い出せば思い出すほど疲れが飛び、気づけば机に向かっていた。

 別の引き出しから紙を取り出して、思いの丈をぶつける。

 彼の状態は今どうなっているのか。

 どこにいるのか。あの竜の中にいるのか。

 帰り道に見たこと。

 今の私を取り巻く人のこと。


 重だるさが嘘であったように、手は動き、脳も動く。


 ふわりと漂う香りに我に返れば、手紙が広がる机にひっそりとティーセットが置かれていた。背後に置いたらしい侍女の姿はない。

「気を遣わせちゃったかな」

 ハーブティーを一口飲み、またペンを走らせる。


 すっかり書き慣れた結びの挨拶を終えた頃、世界はすでに夜中を迎えていた。

 ポットの中は空っぽで、頭も空っぽにした私は、

 満足そうな顔で机に突っ伏したという。


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