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生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第二章 不可視の旅団
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名前がごった、がえして、いる……。


※一度人名、地名を整理する回を挟んだ方がよろしいのでしょうか……。

※文章中は振り返りとしているけれど、今までにその記述はない。→矛盾しているように読めなくもないかと。

再度書き方を変えるかもしれません。

 ……話を続ける前に、振り返っておこうか。

 と、今年で50歳を迎えるストレリチア伯はひどく沈鬱な面持ちで前置きをした。

 頬に十字を刻んだせっかくの厳めしい顔つきが、困惑で歪むのは珍しい。


 その原因? もちろん私カレン・ストレリチアにあります。


 応接室に入って早々、二枚の手紙を検め言伝も受け取った父上の返答は、縁談は前向きに検討。イキシアの少女からのものは今答える、はずだったのだが。

 恥じらうことすらおこがましい程に、私の知識不足のせいで話が全く進まなかったのである。

 一応話に割り込んでしまうのもいけないと思い、黙っていたのだけれど、私の顔は雄弁に語っていたよう。いやはや正直一辺倒に生きる癖がこんなところで効果を発揮するなんてね。


 後ろに並ぶ三名の内、客人二名から非難の声は上がっていない。

 けれど屋敷の主人が重苦しい息を吐き出した辺りから、実はサミの圧倒的威圧感が増しましている。振り返ったりはしていないけれど、こちらは日頃の積み重ねにより、今彼女がどのような様相で私を睨んでいるのか容易に想像できました。


「まず、我が領がフィクスの最南端に位置しているのは、分かるな?」

「は、はい。分かりまして候」

 父上がゆっくりと、幼子に言い聞かせるように私に問いかけてきた。

 その言い方を不服と感じながらも、背後にそびえる恐怖の象徴から目を逸らし――むしろ逃れるため――私は食い気味に答える。

「では、その南にアカツキ国、西にロートス領、東に海、他領を挟んだ北にイキシア領までもいいな?」

「はい」


 シノノメの故国、アカツキ国は南。

 西のロートス領は、セシル……じゃなかったセシリアの故郷。

 更に付け加えれば、北のイキシア領の真北がフィクス王のお膝元。憎き第二王子がいる王都が広がっている。

 今回の旅の往復経路だった事もあり、地理の点は大丈夫であります。と、自信満々に返答すれば父上もわざわざ「よかった」と口に出すほどに安堵した。


「――では話を続けるぞ。

アカツキ国とストレリチア、そしてロートスは現在友好関係にある。しかしアカツキ国はフィクス王国と仲が良い訳ではない。過去に、イキシアとアカツキ間で事件が起きたことが要因だ。

もっと言えば、イキシアとアカツキは接触も禁じられている」

「…………? それって、今の状況もすでにまずいのでは」

 私は恐る恐る振り返り、立ち並ぶ三人を一瞥し、また正面に戻した。

 ソニアはイキシアの人間で、隣に並ぶサミはアカツキの人間だ。他にも屋敷内にはクロエがいる。

 それだけじゃない、このストレリチアは旅行の名目で気楽に訪れ宿泊する者が多く、ソニアからすれば接触厳禁の相手と町中で遭遇する危険性が最も高い土地なのだ。

 私の呟きに父上は「体面上はな」とだけ答え、ソニア女史、次に私を見た。


「――そこで今回の件だ。

このソニア嬢が預かった言伝では、イキシア領主の了解の下、彼女を我が領で匿ってほしいとの事」


 ……、

 ……いやいや。

「アカツキと友好関係を結ぶ我が領で、イキシア民を匿えと?」

「あくまで、ストレリチアへの要請だ」

 イキシアとアカツキの関係がどれほど悪いのかは理解できていないけれど……、少なくとも逃げるなら、北の領土とかもっと別の場所の方が彼女も安全だったろう位は察せられる。

 いたいけな女の子になんて無茶をさせるのだと、見たことのないイキシア領主の幻影を、想像の中でひっぱたいた。

「アカツキとの密接な関係があるストレリチアならば、あの男が手を出すことはないとのお考えです。

……この話はあくまで“願い”です。蹴っていただいても構いません」

 他ならぬソニア自身の未来がかかっているというのに、彼女の声は至って平坦である。領主も領主だが、ソニアもソニアだ。

 怒気も押さえられないまま、いったいどんな顔で発言しているのかと振り返ってみれば、硬直もできない、ただ震えるだけの少女がいた。

「……ソニアさん」

「み、見ないでください」

 彼女は泣きそうな顔を慌てて両手で覆い隠したが、本心は丸わかりだ。

 そんな少女を我が父上が放っておくわけがない。私は期待を込めて自身の父親を上目遣いに見つめた。

「……その目はやめなさい、カレン。

とにかく。アカツキ、イキシア間の問題については、我が領は中立だ。匿う事は許容できるが、国家間の仲介はできない」


 ――つまり、外に放り出すことはしない。けれど完全に庇うこともできない、と。


 恐らくすでに決めていたであろう答えをしっかりと紡ぐその口には、柔和な笑みが浮かんでいる。間をおいて顔を上げたソニアは目元を拭い、深呼吸してから父上を見返した。

「分かっています」

「長くて三ヶ月と言ったな」

「はい」

「分かった、この件は引き受けよう」

「ありがとうございます」

 恭しく一礼するソニアだが、彼女の緊張はまだ解けないようだ。というのも、まだ手紙の件が残っているからだろう。つかの間の決着に私も小さく深呼吸して、こんがらがりつつある脳内をリセットした。


 ところで、この判断をサミはどう思っているのだろう。

 恐る恐るサミに視線を向けると、毅然と立ち身じろぎしない女性から、普段通りの無表情で見返される。馬車の中では散々厳しい言葉を放っていたが、今はとても大人しい。

 ……嵐の前の静けさ、とか言わないよね?


「ではもう一点、この他領にも送られていると言う文についてなのだが――」

 父上の厳かな声音につられて私たち四人の視線は一点に集まった。


「死んだ人間が生き返るとは、どういう意味だ?」


 至極真面目な顔のまま、眉をハの字にする父上。真っ向から戸惑いを受け止める私も真面目な表情で眉をハの字にした。

「えっと、そのままの意味、です」

 その文を託されたソニアの答えもたどたどしい。いまいち状況が読めない以上、私と父上は首を傾げるしかできなかった。

「それをどうして信じろと」

「それは……、信じてほしいとしか」

 空は晴れ渡り、開け放たれた窓辺から風がゆったりと流れ込む。温かい日が差し込んでいて、この空間自体は明るいのだが、

 対話にはまたもや暗雲が立ちこめどうにも怪しい雰囲気になってきた。

「……」

「……」

 互いに思案と沈黙を続ける中、


 ついに割り込んで来たのはサミだった。

「あなたが、リナリア・イキシアでしたら話は楽でしょう」

「――!」


 その名を聞いた途端、この場にいた全員が息を呑み、表情を強ばらせた。

 けれど、やはり私だけがそれを知らない。ここまでくると、誰かに記憶操作させられて忘却したのではないかって勘ぐらざる負えない。

「リナリア・イキシアって誰よ」

 ふくれっ面で漏らした言葉に、この時は誰も返してはくれなかった。

 話を振られたソニアは力なく首を横に振り、か細い声で「ちがいます、ちがうんです」と繰り返す。取り敢えずそこから事態の深刻さだけは理解した。


「暁の民を差別し追い詰めた、前イキシア領主の実娘。確かに彼女は争いに巻き込まれ亡くなりました。

ですが、遠い昔、故国で見た姿にそっくりなんですよ、あなた」

「……ちがうの、私は」

 どうにも話は悪い方向へ加速している模様。弁明できないソニアが過呼吸になり、無意識に自分の首元を押さえた、

 

 その時だった。


「一つ、提案があります」

 

 はきはきとした女性の声。

 見れば赤い髪の異国の使者が悠々と右手を上げて、にっこり笑顔を浮かべた。


「その真偽の判断は、我が国の神竜様にお任せ願えないでしょうか。そもそも人の道理を外れた者への対処は我らの管轄でございます」


bkmありがとうございます!

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