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生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第二章 不可視の旅団
47/71

結局、2日、切った。あぅ…。


※次話との兼ね合いで、最後の文章を微妙に訂正(4/5)


 イキシアの名を持つことは、すなわちこの伯爵領主一族と親類関係であることを示す。

 菫に近い紫の色を持つのは彼らに限ったことではないが、確かに家を象徴する色でもあった。

 サミは彼女が血縁だと踏んでいたのだろうが、菫色の少女は一呼吸挟んだ後、それを真っ向から否定した。

「私はソニア・リリーです。イキシア家とは関係ありません」

 断言したソニアは私達を窺い見た後頭を垂れる。

 サミは彼女の一挙手一投足を不躾なほど観察してから「そんなはずないか」と私に聞こえるぎりぎりの音量で呟いた。


「そうですか、それは失礼いたしました」

 サミがいつもの無表情に戻って淡々と謝辞を述べれば、ソニアは気まずそうに私達から目を逸らす。

 なんなんだ。彼女らの挙動が気にかかって私は落ち着かないんだけど。

 でもこれ以上の詮索はせっかくまとまりそうだった所に波紋を投じるようなもの。

 頭を切り換えて、私はソニアに向き直った。

「自己紹介がまだでしたね。私はカレン「私はカレン様の侍女サミ」」

 ……相手がフルネームで名乗ったのだから、私もフルネームで返そうと思っていたのに。まさかの“侍女”から妨害を食らいましたわ。


 彼女の強引な割り込みに驚いているのはソニアも同様なようで、長い睫に縁取られた大きな瞳を目一杯広げていた。

 アルマスじゃあるまいし、サミが無用な妨害をする人間でない事は知っている。私はちゃんと名乗ったとふんぞり返って大人しく口をつぐみ、視線だけを寄越した。もちろん、後で問いただきますけど、いいですよね?

 私達の睨み合いで停滞しかけた会話を継ぎ、アマがのぞき込むような態勢からソニアを見上げた。

「遅ればせながら、私はアマですわ」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「ちなみに、何故自国の交通機関を利用しなかったのか、お聞きしても?」

「……」

 ――ちなみにの流れで聞くにしては重い内容よね。依然としてにこにこ笑顔を浮かべたままのアマも、中々遠慮がないわ。

 質問ばかりで疲弊しそうな状況下だが、ソニアもこの流れ手放す気が無いのか、アマの質問にも答えようとしていた。自分の頭を揉んで小さく唸っている。


 ――ちなみに私はそんな少女にエールを送っていた。


「ええと、端的に述べれば、私は家から抜け出して来たのです」

「家出、ということかしら」

「世間一般では、そうですね」

 ソニアの答えはどうにも心許なく揺れている。気づいたら訊ねた私も同調して身体を揺らしていた。サミに静かに止められるまで気づかなくて、少しだけ恥ずかしい気持ちになる。

 ソニアは私の仕草に緊張がほぐれ仄かな笑いを浮かべていたが、すぐさま態度を一転させて、まるで今この世で最も恐ろしいものを見たように、両手で自身の肩を抱き戦慄いた。そして震える口で恐ろしい言葉を紡いだ。


「監禁されていたんです。そこから逃げ出してきました」


「監禁……」

 そこからどこで? どうして? と繋げられる雰囲気ではなく勇気もなく、私はそっと黙りこんだ。

「穏やかではないですね」

 そう言ったのはアマである。


「手紙の件は領主様直々の命です。しかしそのすぐ傍で仕える男が、私が外に出ることを拒んでいたのです」

 話せば話す程ソニアの震えはその激しさを増していった。

「……あの男は、異常です。異常なんです。私を見る目が、何て言うかおかしいのです」

「大丈夫よ、取り敢えず落ち着いて、深呼吸してみましょう」

 アマから背中をさすられ、優しくしかけられることで、ソニアは少しずつ平静を取り戻しているようだったが、表情は暗いままだ。


「あの男は領の外へは簡単に出られません。状況を知った領主様が屋敷から逃がすまではしてくださったのですが、乗り込んだ馬車は彼の手の者の妨害に遭って」

「それで、私達の車両を見つけたのですか」

「他に逃げる術が思いつかなかったので、一か八かで馬車の前に出ました」

 ……なんて無茶を。

 この美少女は見た目と違ってやることは大胆らしい。御者も度肝を抜かれただろう。

 今も業務を遂行する彼にお疲れ様の念を送る。それと同時に、私は目の前に座るソニアの表情が大分柔らかいものとなった事を確認した。


「ですから。この馬車がストレリチア領に向かうと知って、運が味方したのかと思いました。逃げ出して、その理由としてくださったストレリチア伯への手紙の任も果たせるのですから」


それが、全てだ、と。

私を見上げた菫色の瞳がそう語っている気がした。

左右に広がるのどかな田園の姿からは、想像しがたい話ではあるが、

――彼女の話もやはり嘘ではないと私は感じる。


そもそも私たちの客人なのだから、

詰問ではなく丁重に扱ってしかるべきよね。うん。


侍女軍の無言の圧力に再び萎縮して、俯いてしまったソニア。

私はそんな彼女の眼下に右手を差し出して、返された手を掴みしっかりと握手を交わした。


数日後、

領主の娘一人にその侍女一人、

ランタナとイキシアの客人計二名を加えて、

馬車は無事ストレリチアへとたどり着いた。


意気揚々とその玄関口を開けて、

若干疲弊した彼らの前に現われたのは、


ストレリチア現領主とその息子と、

彼の”婚約者”であった。



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