1
新章に入ります。
物語全体のテイストが変わってしまいますが、楽しんでいただけたら幸いです(*^・ェ・)ノ
(恋愛・西洋舞台<<<ファンタジー要素)
花満開、眠りを誘う陽気に身も心も委ねてしまいたい今日この頃。
皆様いかがお過ごしでしょうか。
頬を撫でる風は心地よく、空を仰ぎ見れば雲一つない快晴が広がっています。
優しい花の香りに包まれながら、花粉症について思いを馳せるのは無粋ですかね。
まぁ現実逃避したくなるのは許してください。
仏頂面騎士団に包囲され、身体的且つ精神的圧迫でとても苦しいのですよ。
遡るところ、無事神初めの儀を終えてから一時間経ったか経たないか。庇護の間を出て温かな気候に身を晒しながら、内心沁み沁みとしていた私達は、案内役の双子ら騎士団一同に取り囲まれました。
理由は帰国の護衛だそうです。
必要以上に強面が多いのは気のせいだろうか。あからさまな要人アピールは苦手なのだけど、ここにいないウィルからの命令だというのなら、聞く他ない。
ちなみに現在は総員連れだって、城下町を下っています。
花が咲き乱れすっかり春めいた街は一面パステルカラーに染まり、仄仄とした空気が流れている。雪が溶け顔を出した地面からは草花が芽を出し、緩やかに枝葉を伸ばしていた。石畳の歩道が無ければ足の踏み場に困るところだったろう。
お花摘みに勤しむ幼子の可愛いこと可愛いこと。
――それに対して、数人の護衛を伴いその合間を抜けていく我ら一団の怖いこと怖いこと。
悲しいかな、私たちは大人しく厳めしい部隊に護送される身でございます。
……まあね。“護衛”としては正しいんだけどさ。
面識のない仏頂面長身騎士集団に取り囲まれ、多方向から高身長による圧迫を受けるこの怖さ。「護送中」の私は、どちらかと言えば犯罪者として監視され囲まれているような気分でここにいます。
彼らの衣装は白を基調としている分、意味も無く明るさを感じたりはするけれども。
身長とか、記憶容量とか、動じない精神力とか、様々な人間構成要素の評価において“どちらかと言えば低いで賞”を何度も受賞している私が、顔二つ分の身長差がある彼らを引き連れ街中を白昼堂々闊歩できるはずもない。
遠巻きに眺めていた人が怯えて物陰に引っ込む姿に、大変申し訳ないと思いつつ同意の念を送っていた。
……先頭を行くフラックスはこんな時に限って真面目を発揮しているけれども、こういう時こそ小憎たらしい発言の一つや二つしてほしい。
……アマは私とサミ同様包囲の中にいるけれども、先程から意味深な笑顔で私を見つめていて、これはこれで話しかけづらい。
肌を突き刺すぴりぴりとした緊張感に苛まれながら、ウィルからの手紙を胸元で握り占める。常に斜め後ろに控えているサミの気配を感じ取り、小さく息を吐いた。
「普通に帰りたい」
「それが無理ですから、今のこの状況なのでは」
「そうよ。……それは重々承知しているけれども」
私はぶつぶつと文句を言いながらアマと、その彼女の手元を盗み見る。
現在ウィルが遺した命に従って私達を守り下山させる任に就いているのはフラックス。これも包囲網を形成する一つの理由ではあるのだけれど、
実はそれと関係なく輪に加わっている、彼女が持っている書状の方が重要で、
何の書状かというと、
――ずばり、婚約お申し込みの書状なんだって。
誰のかって?
――私と新たな神竜様のものなんですって。
どうにも胡散臭い話だけれど、この包囲網は嘘じゃない。
だってここまで厳めしいから、ではなく。
彼らが身につけている銀の装備品は薄く軽い物ではあるけれど、それは動きやすさを重視した結果のもの。無駄な装飾を省いた、シンプルなデザインの鎧だ。彼らが持つ武器だけが無骨な臭いを漂わせている。
故郷にも、同系統の装備で身を固めた“騎士”がいた。察せないほど、私もお馬鹿じゃない。
ついでに言えば彼らがその手に掴んでいるのは長い丈の剣と槍。
……想定しうるは馬上戦、かな。
花が舞う可憐な儀式から一日も経たずして争いの臭いに、思わず顔をしかめてしまう。
それにどうやらここまで状況が変わるのかと、感傷に浸る間もないらしい。
町外れに待機していた一群に一同足を止め、先頭のフラックスが一礼した。
取り巻き部隊もそれに習い腰を曲げたので、取り残された棒立ちの私は辛うじて顔を出すことができる。
長身の壁の向こう側には銀色の髪の王子が確認できた。その背後には銀と水色の騎士部隊、
――詰まるところ、アルマス殿下の部隊が待機していたのである。
「祝福に群がる”モノ”共のせいで、護衛もなしに下山はできない状況です。
ですから、神子様から直々に命を下された私共が、国にお戻りになるまでの護衛を務めます」
「まあそうだろうね」
あのフラックスが丁寧語で話している。とか言っても彼らは取り合わない位の生真面目オーラに、茶々を入れないよう口を塞いだ。
……それにしても、アルマス殿下はどんな意図で町外れにいるのだろうか。外は危険だから、城に篭もった方がいいのではなかろうか?
大して働かない頭を傾げただけの私を見て、第二王子はやあやあと軽く手を振った。
「包囲網お疲れさまー」
「お疲れ様です……? アルマス殿下は丸腰なんですね?」
――そして彼の部隊の面々は騎士の制服ではあるけれど武装しているように見えないですね。
私の不躾な視線を真正面から浴びながら、自分の身辺を見回したアルマスはああと合点いったとばりの声を上げた。
「俺は前線に出ないから大丈夫」
「ああそうなんですか、じゃあ大丈夫……なのか?」
護衛王子の身の安全が確保されているのならいいのか、そういうものか……。
じゃあ私の方が身の危険があるということか…………そういうものか?
「疑問ももっともだけど、まぁ、今を逃すとしばらく外に出辛くなるからね。楽しんで下山するといいよ」
そうアルマス欠伸混じりに言うけれど、何故だろう、彼の適当感には不安しか覚えない。
武装部隊引き連れて下山を楽しめってどういうこっちゃ。いやいやと私は手を扇いだ。
「いや、楽しめませんて」
「大丈夫大丈夫――あの”ウィル”が不安要素を残すわけがない」
そう彼は軽い調子で言ったけれど、
――ちくっ。と、
“ウィル”の単語で瞬間的に私の息が詰まり、周辺に痛みを発した。
「あれ? 何で?」
繰り返し痛むのど元に首を傾げると、苦笑したアルマスを目が合う。
その彼がもう一人の銀髪の青年を重なれば、涙がぽろぽろと無抵抗に落ちた。
おかしいな、もう儀式は終わったのに。
送る瞬間は痛みなんて無かったのに。
今の今までも平気だったのに。
意味が分からない。
分かるのは、
私はまた手遅れになってから泣いているという事実。
サミに背中をさすられながら、深く息を吸いゆっくりと吐き出す。
今は泣いている場面ではないと自分に言い聞かせ、服の袖で目元を乱暴に拭い、呼吸を安定させる。
鮮明になる視界にアルマスの姿を捉えれば、今度は正しくこの目に映った。
やけに気だるげな彼は、私と再び視線が交われば、その両の手をひらひらと振る。
「まぁ、我が国の飛行部隊はある意味アトラクションだから、見たら気が紛れるかもね」
「いや、アトラクションって」
――その言い方はどうなのよ。
言いかけて、私は頭上を駆けるそれを見た。
大きな白い鳥と、それに跨がる騎士たちを。




