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生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第一章のおまけ
39/71

NG集もどき(21ー23)

*いつも通りの注意事項*

※シリアスをお求めの方は、即刻退避をお願いします。

※うp主の気晴らし。シリアス漫画の表紙裏にあるようなもの、小話を目指して。

※これは本編とは全く関係がない、ようであるようでないような…。

※兎にも角にも、これまでの雰囲気を壊したくない方は即刻退避を!


21(歌うことを頼まれた少女、しかし、歌詞カードが読めなかった)

 隠している物がある立場として、

 考え事をする場所の確保は重要である。

庇護の間の二階。自分に与えられたフロアに鍵を掛けて、私は据え置きのソファに座りサミはいつも通りその横に立っていた。

カ「まずいことになったわ……まさか公の場で歌うことになるなんて」

サ「理解しているのなら、何故承諾なさったのですか」

 サミの言葉に私は頷くことしかできない。

 私は、ある二つの理由から、歌うことができなかった。


 一つは、歌詞が読めない。こうなると知っていたらウィルの鼻歌をもっと真面目に聞いていたのに。


カ「今までこの国内で難なく過ごせていたのだって、神子様方の配慮があったから。通訳がいなくては、何もなすことができない。

そう、必要不可欠な存在なの! それなのに!」

サ「盛り上がっているところ申し訳ありませんが。――ただの勉強不足のせいでは」

カ「くっ」

 私は項垂れ、歌詞が載っているとされている紙をしぶしぶ眺めた。

 いやぁ、読めない。何書いているのかさっぱりだわ。達筆すぎて絵柄にも見える。通訳がいるからって高を括っていたからこうなる、って言われても今更よ。

カ「将来、外交は諦めて、自国に引きこもると決めたわ」

サ「自国の王子の事を散々言っていた口で、そう申しますか」

カ「それはそれ、これはこれ」

サ「過去か過去、今は今、ということですか。それならば、尚更歌えるようにしませんと――」

カ「お願い、それ以上は勘弁して」

 痛い痛い、耳に痛い。しかしサミの口は止まることなく動き続ける。

サ「しかもお嬢様はおんt――」

カ「ぎゃぁーーストップ、サミストップ!」


 慌ててサミの口を塞いでも、彼女はそれを強引に動かし、ふにゃふにゃと声を発する。

カ「それ言う? それ言っちゃう? いや音痴だって自覚はあるけどさ、禁じられるほど酷くはないとおも」

サ「知っていますか? 音痴は周囲の音を聞いていないからずれるそうですよ?」

カ「あーあーあーあー」

 声を声で隠す、そこにはどうしようもない虚しさしかない。私はずるずると床に滑り落ちてへたり込んだ。

 まさにそういうところを指摘しているのだと言うサミからの追撃に、もはやぐうの音も出ない。

カ「だって、何かしてあげたかったんだもん」

 床に丸まり顔を埋め、呻くように口答えする。

 しかし待っていても返答はなくまたしぶしぶ顔を上げた。


 そこには何故か出入り口を見つめるサミの姿。

 不思議に思い彼女の視線を追うと、その先にいたのは、神子様。

 ……いや待って、いつからそこにいたの。


サ「お嬢様はこう仰っておりますが、何か良い案はございますか」

サミに問われた彼はしどろもどろになりながら答えていた。

ウ「ええと、何だろう。――口パクとか?」

カ「音痴の下りはしっかり聞かれていたのね」

 私が落胆を表わすと、彼は肩をすぼめてしまった。

ウ「……申し訳ありません。叫び声が聞こえたものですから、トラブルがあったのかと思い、その、立ち聞きする形になってしまいました」

カ「可愛げ皆無の雄叫びまで聞かれたわけね」

ウ「う……はい」

 ……うん。気まずそうに視線を逸らす彼を見ていたら、なんか、もういいや。って気になってきた。


 歌詞カードが読めないのは、通訳してもらっている段階で察しがつくことだし。

 華の都出身なのに音痴の件は今知られたわけだし。


 ――そう。これ以上、失うものはなにもない。

 だってこの程度の恥で人は死なないじゃない。

 もう、どうとにでもなれー。

 

***


 かくして、私は、神初めの儀の客人として、

 その威風堂々とした歌唱を口パクで披露したのである。


22(儀式改造計画)

 今日も今日とて歌詞作りに励むため、宛がわれた部屋に篭もって旋律を辿る。

 しかしこの日も私から発せられるのは鼻歌ばかりで、詩を口ずさむ兆しは見えない。サミが私の手元にある紙を覗いて溜息を吐くのも、慣例になってきた。


カ「あのね。元々自分が決めたことでもあるし、やる気もいつだってあるのよ。

けれど、どうあがいてもフレーズ一つ浮かばないの」

 サミの呆れように言い訳するのも何度目か。流石に飽きるこの状況を打破するため、私は昨晩夜中テンションになりながら思いついたものを提示してみることにした。


カ「だから、別の方法を考えてみた」

 そう切り出せば、サミは胡乱げながらも溜息をしないで私を見る。

サ「何のですか」

カ「神初めの儀を盛り上げる方法よ」

サ「主旨が大分ずれているような気がしないでもないですが、一応聞きましょう」

カ「いつも話が早くて助かるわ」

サミは腕を組み私を見下ろした。若干威圧感が増した気もするが、ここで引き返すことはできない。

カ「――では一つ目、彼が舞う舞台に花吹雪」

サ「却下。花弁はどうせ現地調達でしょう。舞台の花なのに摘んでどうするのですか」

カ「じゃあ、紙吹雪」

サ「踊りづらいに一票」

カ「くぬぬ……」

 まあ、夜中テンションの時点でましな案が出ているとは露ほども思っていなかったけど、こうも一言で返されるとちょっと傷つく。


カ「二つ目、楽器演奏」

サ「お気持ちは分かりますが、あの大穴へは搬入が難しいかと」

カ「違うわ、楽器演奏のような声で歌うの。伴奏つきの音楽みたいに賑やかよ、きっと」

サ「では技能を持っている人がいるのかという問題がありますね。提案者たるお嬢様もできないことですし、却下」

 ほんと切り返す間もなくばっさり切られる。今日は機嫌が悪いのかしら――いや悪いのか。ほぼ私のせいで作詞の方の進捗状況が芳しくないし。


カ「三つ目、脚本ありの演劇風」

サ「更に、難易度が上がっている気がいたします。

……演劇をする余裕があるのであれば今の作詞作業に専念した方がよいかと思われますが」

カ「じゃあ、四つ目」

サ「まだあるのですか……」

 サミも流石に聞く気が削がれてきたようで、言い方がおざなりになってきている。

 仕方ない。ここらで割と本気で考えていた、本当にしたい真面目な話をしよう。


カ「四つ目。ウィルを逃がす」


 この場の空気がその様相を変える。サミも考え込むような素振りになった。

 そりゃそうだ、これが一番の禁句で禁忌でしょうから。

 方法は考えていない。それに本当に実現したいわけではない。

 けれど自分が言うことに同意する人はいるのか、それが少し気になっていたのだ。

サ「……カレン様、それは」

 発言に困る彼女を見れば、大体は理解できる。

 自分に言い訳するように答えて、溜まった息を吐いた。

カ「却下でしょ。流石にこれは分かってる。そもそも彼の気持ちに水を差すような真似は私も嫌だし、本人も気分悪いでしょ」


 それからしばらくの間。サミは呆れもせず、ただ無表情で。いや、感情を押し殺すとか、そんな意識的な無心で私を見ていた。

 ……ちょっと悪いことしちゃったかな。

 気分転換のために、やや大げさに両手を天井へと伸ばし背筋を引っ張る。きょとんとするサミを視界の端に捉えながら、自分は自由気ままにストレッチし、それから意を決したように冗談を吐いた。


カ「仕方ない。一つ目にするか。ゴンドラに乗って登場」

サ「ですから。そもそも難易度が――」


 不意打ちでサミの表情は崩れ、それは正直に呆れへと変貌する。


 調子を戻した彼女にこの後出した案を悉く却下されながらも、その裏側で私はこっそり勝者の気分を味わっていた。


23(突然見えた白昼夢、その内容が異世界)

 話の最中、それは何の前触れもなく訪れた。

ウ「――っ!」

 ウィルが見えない鈍器に当てられたように上半身を大きく反らせて、座り込んだままの私の方へと倒れてきたのだ。

 慌てて受け止めると、衝撃に備えて強ばっていた身体から緊張が解かれ、代わりに身体の重みが増していく。

カ「何が起きたの?」

 彼はすぐさま答えず、神殿内を見渡してから口を開いた。

ウ「分かりません。ですが、変な音が聞こえていて、おかしな白昼夢みたいなものも……」

 一体何を見たと言うのか、言いかけた口を閉じて、振り返って見せた笑顔は弱々しい。一度視線が私から離れれば、彼は無意識的に耳に手を当てて放してを繰り返す。虚ろな瞳は遠くを見て瞬いていた。


ウ「白くなった人、真っ赤な彼岸花…………」

 思わずといった風に呟いた言葉は人の死を連想させる。


ウ「――と、蒼い空、白い雲、まぶしい太陽の下沸き上がる歓声、青春の一幕」

 いや違う、めっちゃ活気溢れてるわ。


ウ「楽しくなるはずだった修学旅行、飯ごう炊さん、美味しそうな臭い、その傍で一人だけご飯よそる係」

 ちょっと、雲行きが怪しくなってきたわね。


ウ「部屋で一人先に寝る、せっかくUNO持ってきたのに。別の部屋の子を誘おうとしたらそこは修羅場、原因は、自分?――なんで、皆、信じていたのに!」

カ「起きて、ウィル今すぐ起きて現実を見て!」

 傍観している場合じゃない。次回予告のような叫びから詳しい状況は理解できないけれど、とにかく今すぐ止めなければ!

 そう直感して訳の分からない単語を繰り返し頭痛を訴え始めたウィルを、その薄い肩を強引に揺さぶれば、開いていた瞳の焦点が私に合わせられる。何度かぱちぱちと瞬きした後、

今やっと現実を捉えたようにその瞳は改めて開かれ、その口から「あ」と声が漏れた。


ウ「ああ、カレン。おはようございます」

カ「よかった。戻って来たのね」

 一転して大人しくなり、乱れた髪を梳き、小動物のように目を擦る

元美少年の一連の仕草に可愛いと思ってしまったのは内緒だ。


ウ「すごかったんです」

カ「……うん、突然話し出した内容は理解できなかったけど、すごさは伝わってきたわ」

 私が苦笑を浮かべる前で彼は心穏やかに微笑む。

 ……まあ暗い内容じゃなくて、ほっとした。そう思った矢先。

ウ「三途の川の向こう側って、あんな風になっていたんですね。勉強になりました」

 全然大丈夫じゃなかったことが発覚した。


カ「そ、それでよく帰って来れたわね」

ウ「当たり前です」

 いやいや三途の川は一度渡ったら帰れない場所なのよ? そんなさも当然とばかりに答えられても私が困る。

 話がかみ合っていない不快感に頭を悩ませていると、ウィルはこの私の姿を不思議そうに見つめていた。

ウ「あちらの世界は便利で、ご飯もたくさん食べられて、争いもなくて平和でした。

ですが、僕にはそれこそが不可解で、不快でした。

おかしなはなしです、夢にまでみた世界を、心の底から夢物語だと否定してしまったんです」

 いったいどんな光景を見たのか、彼の感想は至って真面目で、私の頭はかえって混乱する。

カ「ええと。つまり?」

ウ「こちら側の世界の方が僕に合っているという話です」

カ「は、はぁ……」

 にっこりと私に微笑みかける銀髪碧眼の美男子に、

 夢物語について語られる非現実味を覚えながら、頭の隅で思う。

 ……なんか。

 ……上手くまとめられてしまった、と。

 あと絶対そんな壮大で深い内容ではなかったと。


 ぼっちを経験し修羅場を迎え悟りを開かせる三途の川の向こう岸は、絶対行くべきではない。

 取り敢えず、それだけは確かだということを、私は胸に刻むことにした。



※おまけはここで一旦切れます。

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