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本当は前回の更新でここまで書く予定だったのですが、、
短いです
無言で城門を開けて、私達は立ち止まった。
城下町で私を呼んだ理由を語ったウィルは以降黙ったまま、私達の手も力強く握られたまま。話しかける為の勇気が湧かない。
彼の静かな瞳が見据えるのは正面の道の先、きっとエルドラ様が眠る神殿の姿だ。
通りがかる騎士が敬礼して去って行くけれど、隣の青年は一向に動く気配はない。
私は、どうすればいいのだろう。
やがて静まり返った雪の中で、ぽたぽたと、雫が落ちる音がした。
曇りがついに雨に変わったのだろうかと、空を見上げるけれど、曇天は曇天のまま、涙一つ落ちては来なかった。
私が音のありかを探している間に、また強く手が握られて、ある予感がする。
背後で門が閉まり、雫は音から嗚咽に変わった。
外の何も知らない人たちに向けた彼の仮面が、閉門と同時に剥がれたのだと、私は知った。
ウィルが小さく蹲って、子供のように泣きじゃくる姿に、心はまた痛み始めた。けれど妙に愛しくもある。
私は、どうすればいいの、どうしたら正解?
彼が語った一年前の手紙、その頃の私が誰かに問いかけた記憶がある。
かつて、その時に思い至った一つの答えを示すために、彼の背中を撫でさすってみる。
それでも止まらないから、後ろから抱きしめてみた。
右の道ではアルマス殿下が暴れるレーヴァテイン殿下を羽交い締めにしていて、どう見ても離れろと言っている。腰の剣を抜かれたら終わりだなと思いつつ、その口に従う気持ちは湧かなかった。
正面から現われたサミが――いつも無表情か辛辣な言葉を放つ彼女が――聖母のような微笑みで私達を見ている。
「どこに行っていたの」
つい咎めるような口調になったにも関わらず、彼女は一層笑みを深めただけだった。
「少々、この土地の歴史に興味が湧きましたので、資料を見に。少し、場所を移しましょうか」
庇護の間に引きこもった私達を止める声は聞こえない。
***
キッチンで待機していたアマさんは、私達の、特にウィルの顔色を見るなり、お茶を淹れてくれた。フラックスは庇護の間の外側で、誰も入ってこないよう見ていると言い、外に出た。部屋に広がったいつものハーブティーとは違う香りに、ささくれ立っていた心が取り敢えずの落ち着きを取り戻す。白い当陶磁のカップに注がれた琥珀色のお茶、そこにたくさんの砂糖とミルクが注がれる。
甘さ抜群のミルクティーだった。
「ご迷惑をおかけしてすみません、ありがとうございます」
泣き腫らした顔で小さくお礼を述べると、ウィルはまたお茶を口に含んでゆっくりと味わって飲み込む。アマさんがさりげない動作でカップの近くに濡れたタオルを置き、ウィルは当たり前のようにそれを目元に当てた。
「アマさんは、慣れているんですね」
「カレン様方のお手紙を拝見する際のセットでございます」
「……ふうん?」
ウィルはよく泣く方だと認識はしていたけれど、アマさんの言いぶりだと、私達の手紙でも泣いていたのだろう。彼はタオルを開いて顔前面を隠している。
「二週間に一度。手紙を受け取った神子様は、エルドラ様の元で毎晩読み聞かせをなさっていて、そのお供にお茶と濡れタオルを所望しておられました。
――理由は一度としてお話くださいませんでしたが」
アマは後半に口をとがらせる。ウィルが顔を隠したままであることを確認して更に嘆息した。
「それはともかく。
神子様、外出の際に何があったのかある程度理解はしているつもりです。
けれど、お二人が残るということは、儀式についてお話する必要があるのではないでしょうか」
「アマさん、そんな言わなくても、」
「大丈夫です」
タオルの裏でくぐもった声で答えて、ようやく涙を出し終えたウィルが顔を出した。
「今更あんな言葉で泣くなんてらしくない」
また、強がって仮面を被ろうとしている。そう思った。
神子が役目を果たすのは、生死の儀式を無事終えるとき。
彼は少女に遠回しに、早く死ね、そう言われたのだ。
確かに傷ついていた証拠に
「そんなことないよ」と言う私の言葉にウィルが再び涙を流す。
けれど、もう顔を隠すことはしなかった。
「僕はエルドラ様の先を繋ぐ。そんな簡単に消えるつもりはないし、自分が消えないと信じるのであれば、生け贄に出されてもそれは死の儀式とはなり得ない」
「――っ」
そう言い切られてしまえば、何も返せない。
他ならぬ本人に言われて、私は静かに口を閉ざした。
「それでね。
――歌を、歌ってほしいんだ」
そしてまた、あっけなく開いた。




