表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第一章 神初めの儀
19/71

19

本当は前回の更新でここまで書く予定だったのですが、、

短いです

 無言で城門を開けて、私達は立ち止まった。

 城下町で私を呼んだ理由を語ったウィルは以降黙ったまま、私達の手も力強く握られたまま。話しかける為の勇気が湧かない。

 彼の静かな瞳が見据えるのは正面の道の先、きっとエルドラ様が眠る神殿の姿だ。

 通りがかる騎士が敬礼して去って行くけれど、隣の青年は一向に動く気配はない。

 私は、どうすればいいのだろう。


 やがて静まり返った雪の中で、ぽたぽたと、雫が落ちる音がした。

 曇りがついに雨に変わったのだろうかと、空を見上げるけれど、曇天は曇天のまま、涙一つ落ちては来なかった。


 私が音のありかを探している間に、また強く手が握られて、ある予感がする。

 背後で門が閉まり、雫は音から嗚咽に変わった。

 外の何も知らない人たちに向けた彼の仮面が、閉門と同時に剥がれたのだと、私は知った。

 ウィルが小さく蹲って、子供のように泣きじゃくる姿に、心はまた痛み始めた。けれど妙に愛しくもある。


 私は、どうすればいいの、どうしたら正解?

 彼が語った一年前の手紙、その頃の私が誰かに問いかけた記憶がある。


 かつて、その時に思い至った一つの答えを示すために、彼の背中を撫でさすってみる。

 それでも止まらないから、後ろから抱きしめてみた。

 右の道ではアルマス殿下が暴れるレーヴァテイン殿下を羽交い締めにしていて、どう見ても離れろと言っている。腰の剣を抜かれたら終わりだなと思いつつ、その口に従う気持ちは湧かなかった。

 正面から現われたサミが――いつも無表情か辛辣な言葉を放つ彼女が――聖母のような微笑みで私達を見ている。

「どこに行っていたの」

 つい咎めるような口調になったにも関わらず、彼女は一層笑みを深めただけだった。

「少々、この土地の歴史に興味が湧きましたので、資料を見に。少し、場所を移しましょうか」


 庇護の間に引きこもった私達を止める声は聞こえない。


***


 キッチンで待機していたアマさんは、私達の、特にウィルの顔色を見るなり、お茶を淹れてくれた。フラックスは庇護の間の外側で、誰も入ってこないよう見ていると言い、外に出た。部屋に広がったいつものハーブティーとは違う香りに、ささくれ立っていた心が取り敢えずの落ち着きを取り戻す。白い当陶磁のカップに注がれた琥珀色のお茶、そこにたくさんの砂糖とミルクが注がれる。

 甘さ抜群のミルクティーだった。


「ご迷惑をおかけしてすみません、ありがとうございます」

 泣き腫らした顔で小さくお礼を述べると、ウィルはまたお茶を口に含んでゆっくりと味わって飲み込む。アマさんがさりげない動作でカップの近くに濡れたタオルを置き、ウィルは当たり前のようにそれを目元に当てた。

「アマさんは、慣れているんですね」

「カレン様方のお手紙を拝見する際のセットでございます」

「……ふうん?」

 ウィルはよく泣く方だと認識はしていたけれど、アマさんの言いぶりだと、私達の手紙でも泣いていたのだろう。彼はタオルを開いて顔前面を隠している。


「二週間に一度。手紙を受け取った神子様は、エルドラ様の元で毎晩読み聞かせをなさっていて、そのお供にお茶と濡れタオルを所望しておられました。

――理由は一度としてお話くださいませんでしたが」

 アマは後半に口をとがらせる。ウィルが顔を隠したままであることを確認して更に嘆息した。


「それはともかく。

神子様、外出の際に何があったのかある程度理解はしているつもりです。

けれど、お二人が残るということは、儀式についてお話する必要があるのではないでしょうか」

「アマさん、そんな言わなくても、」

「大丈夫です」

 タオルの裏でくぐもった声で答えて、ようやく涙を出し終えたウィルが顔を出した。


「今更あんな言葉で泣くなんてらしくない」

 また、強がって仮面を被ろうとしている。そう思った。


 神子が役目を果たすのは、生死の儀式を無事終えるとき。

 彼は少女に遠回しに、早く死ね、そう言われたのだ。

 確かに傷ついていた証拠に

「そんなことないよ」と言う私の言葉にウィルが再び涙を流す。


 けれど、もう顔を隠すことはしなかった。

「僕はエルドラ様の先を繋ぐ。そんな簡単に消えるつもりはないし、自分が消えないと信じるのであれば、生け贄に出されてもそれは死の儀式とはなり得ない」

「――っ」

 そう言い切られてしまえば、何も返せない。

 他ならぬ本人に言われて、私は静かに口を閉ざした。


「それでね。


――歌を、歌ってほしいんだ」


 そしてまた、あっけなく開いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ