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生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第一章 神初めの儀
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※続、兄上視点

※稚拙ですが、バトル描写あり。ありそうでない流血表現

※また、本文中の数字表記に大分ぶれがあるのですが、一区切りついた後、徐々に直していくつもりです。もう少々お時間をください。

 その晩、約束のために俺が庇護の間三階の寝所からクロエと共に抜け出すと、二階の出入り口に立つサミに一礼された。

「お嬢様のことはお任せ下さい」と。やはり彼女は聞いていたようだ。


 元々諜報員としてクロエと共に母上が家に迎え入れたのだが、昔は裏稼業専任で行っていたらしい。ひっそりと部屋の主を起こさないよう気配を殺して佇む妹の侍女の姿を見ながら、彼女に寝首かかれたら終わりだなと俺は溜息を吐いた。

「……ずいぶんと、この国に染まってきたのですね」

 彼女が無表情のままで指摘したのは俺の服装だった。

 俺は今、赤と金の騎士衣装を身に纏っている。言いたいことは解るが、俺は別に彼に共感した訳じゃないぞ。

「……ここで剣を振るつもりは、はなからなかったんだ。借りるにも選択の余地もなかった」

 俺は言いながら視線を過去へ彷徨わせた。


 昼間に話を持ちかけてきたウィルは、未だ振り向かないカレンを確認した後、動き易い装備と剣を持ってくるよう追加で要求してきた。

 そこで、何をするつもりなのか察した俺は、剣はともかく服装の不備に気づく。

 けれど、ウィルと交渉する前にカレンが話に割り込んできたのだ。


 ひっそりと後を追ってきていた顔見知りのレーヴァテインに相談して、「あいつは外見に似合わず一撃が強烈だから気をつけろ」と励ましの握手を求められたところまで、サミは知っていたのだろう。

「そうですか、それは安心しました。

……ですが、もしもの時の為に。その年でカレン様に泣きついたりおにいちゃん呼びを強要した暁には、覚悟しておくよう、この場を借りて釘を刺しておきます」

 そういう彼女はホラーの意味で怖かった。


 このままこの階層にいれば、物理的に刺されそうな気配を感じ取って、俺は早々に会話を切り上げて一階に降りた。

 庇護の間は思っていたよりも、そして視認している大きさよりも巨大。上は五階まで、地下も五階まであるそうだ。地下層のほとんどはリネン姉弟のテリトリーになっているので、それを聞いた瞬間から俺は立ち寄らないことを決めた。

 なので深くは見てないし、知らないし、狂った叫びが聞こえたこともない。


 各階層の端に設置された木造の階段を使い、応接フロアに降り立つと今度はアマの方が出入り口に待機しており、びくんと肩が跳ねた。サミと雰囲気が似ているから勘違いすることも多々ある、そんな彼女は俺の服装と、クロエが剣を所持していることをさっと確認してから、音もなく扉を開けた。

 その視線の意味、さっき聞いたから言わなくていいからな!


 神殿横を通り穴の周囲にできた階段を降りる。加護の影響が強いのか厳しい上下移動でも足に負担を感じない。けれど、

「明日は筋肉痛で苦しむ俺が見える」

「私も、明日は皆揃って庇護の間に篭もっている気がします」

 お互いにそんな予感がしていた。


 階段が現われていることはウィルが先にいるということを示す。俺たちが足早に降りていくと、水色の騎士衣装を纏った若い青年が壇上の真ん中で、剣を前に立て跪いている場面に出くわした。外周の大理石にはいつかどこかで叫んでいたフラックスが静かに控えている。


 俺が壇上に足を置くと甲高い音が響き渡った。見た目以上に固く、何より歩きやすいことに単純に驚いた。

 ウィルが立ち上がりゆっくりと振り返る。その凪いだ青い双眸はどこぞの神竜様を彷彿とさせた。

「私の都合にも関わらず、お越しいただいたことへ。まずは感謝を」

 凜としていて、穏やかな独特の雰囲気は健在だ。この周囲の心を掌握する、ある種の暴力的な空気感を俺は割と気に入っている。2年前別れ際に見せた弱々しい雰囲気より、こっちの方が神竜の子という名がしっくりくるな。

「ここへ呼んだ理由とか、聞きたいことは山ほどあるが……念の為、俺も礼をしておくべきか?」

「構いません。どうせここには四人以外いないのです」

 ウィルは壇に刺した剣を抜き取りその切っ先を俺に定めた。なお、壇に跡はない。神秘の力、発動中である。

「剣を抜いて下さい、私は今夜その為にここに立つ」

「握れない、の選択肢は端からないわけか」


 銀髪の青年は俺の言葉に形ばかりの笑顔を見せると、剣を向けた手を力なく下ろして、


 一つの足音と共に襲来、真っ向から剣を振り抜いてきた。


 不自然に空いた俺たちの間にクロエが乱入して、甲高い衝撃音に直撃を免れたと知覚する。


「クロエ、俺の剣を貸せ、鞘ごとだ」

「ですが、ニコライ様」

「大丈夫だ。真剣相手に丸腰は自殺行為だろう?」

 ウィルは一旦離れ、俺がクロエから剣を受け取る様子を確認している。見る限り、息をつく暇はくれるようだ。

 鞘からゆっくりと抜いて、深呼吸の間を置く。


 ……ほんと、何年ぶりだろうな。

 手入れだけは欠かさなかったかつての相棒は、周囲の青い明かりを受けて、俺を誘うように妖しく光っている。

 構えれば手が震え、思うように狙いが定まらない。けれどウィルは構わず二撃目を斜め下から掠めるように放ってきた。


 たった一回の衝撃で剣が浮く。それはかつての俺への侮辱に他ならない。


 ウィルが様子を窺うために再び距離を取る。歯がみして抜き身の両刃剣を両手で構え直す。

 ……何故、彼が俺の領域に踏み込もうとしているのかは理解しがたいが、

 この機会を利用してよいと言うのなら、遠慮なく利用してやる。


「君は武の民、でもそれは悪じゃない。守るには力が必要だ」

 俺の姿勢が変わったと見たウィルはまた地を蹴った。

「君はかつて凶刃に斃れた母の姿を見た」

 つばぜり合いに持ち込み、押し負ける。

「……でもそれで生き方を変えるのは卑怯だ」

 傾いた剣戟を見極めて、限界とみたウィルが加減しては互いに弾き合う。


 どう見ても接待の喧嘩だけれども、

 一撃に篭めた気迫はお互いに本気だ。


「君たちは優しすぎる、確かに僕はそれで救われた。でも世間に優しさを振りまいていたら、家もろとも崩れるよ!」

「知っている!」

 ――キィン、と悲鳴に似た音を奏でる舞台で、いがみ合い怒りの様相を込めた視線がぶつかり合う。


「僕は、巡った中であの領地が一番好きだった。それを無力の一言で消されたくはないね!」

「そりゃ光栄だな!」

 もう一度、一度と剣を交わる度に、相手の剣に翻弄されるばかりだった切っ先は安定し、凪いでいた闘争心が打ち震えた。


「相手は自分たちの見たい姿を見てる、本人達の意思なんて知るよしもない」

 少しずつ、

「僕らは自分の意思で生き方を作る。あんたらの見たい偶像なんざ知ったこっちゃない、その姿勢でいい」

 少しずつ、彼の叫びが、

「全部、全部認めさせればいい、誇り高き武の民なんだから」

 本心が暴かれていく。


「僕の生き方が誇れるものだと言ったのはそっちだ、責任取って下さい、よ!」

「それこそ、知ったこっちゃない、な!」

 ほぼ同時に力を篭めて、同時に相手の力を弾いた。


 距離を置いて互いを見つめ合い、これが戦場だったのなら絶望的だと、乾いた笑いが浮かんだ。俺は防ぐのに精一杯だと言うのに、相手は呼吸の乱れすらない。それどころか晴れやかに笑っている。

 ……流石はあの神の子、化け物だな。

 息をつく暇も惜しいとばかりに、一瞬で不敵な笑いに切り替えたその神子様は、瞳孔を開き獣のような獰猛さでもって、

 防ごうとした俺の剣を容赦なくはじき飛ばした。


 巻き込まれた光の花が散り、空に舞い上がる。


「ねえ、儀式に向かう僕を君はどう見ている?」

 淡々と、丸腰の俺に至近距離で剣を向ける。

 動くことを制限された俺は無言で対峙した。カレンに問いかけたものと同じでいて、篭められた意味は全く違う。

「死は悲劇の象徴とでも言うつもり? ――ふざけるな」

 それは戦いに及び腰の、我が家へ向けたもの。

 俺はクロエから渡された剣を再び握り、ウィルの首元に差し向けた。


「2年前、何も言わず家を去ったお前には言われたくない」

 切っ先を首に当てても彼は身じろぎ一つしない。

 けれど、背後のクロエとは別の意味で、俺は息を呑んだ。


「過渡期ってやつだよ」

 俺の動揺に気づいたウィルが俺の剣を素手で掴み、自身の首に押し当てた。

 けれど、それが刺さることはない。突き立てられたその細い首も、剣を握るその手も、彼は異常な堅さで守られている。


「君が三日後に帰るのは、君たちが帰る場所を守るため。僕らが会える機会はこの先にない。

だから、これは僕からの選別」


 俺の剣を放し、自身の剣も背後のフラックスに手渡した。

 その空いた右手は俺の前に差し出される。


「安心していいよ、僕は神子、1年前から身体は竜へと変わり始めている。

なまくらの剣ごとき全て弾く」


 さあ、と急かされても、俺の身体は震えて動かない。

 何も持たない手が差し出されていることに、勝手に恐怖を感じている。


 じっと動かないまま時だけが過ぎる。


 すると「これでもダメかー」と気の抜けた声がウィルの口から漏れた。


「僕はね。儀式で、剣の舞を踊るんだ。

そしてこの壇上に深い傷を作る。この下の地面からたくさんの芽が出て、地表一杯に花を咲かせるために」


 その場で儀式用だろう軽いステップを踏んで、ね? と振り返って微笑む。

 彼の空いたままの右手が握りこまれ、今度は自身の胸に打ち付けられた。

「最後には、満開の華の中で、僕は剣を胸に。それでおわり」


 歴史書には決して描かれない、儀式の内容に息を呑む。そんな俺を見る青い双眸は、再び獰猛な光を宿し俺の戦意をかき立てた。


「本気でかかってきなよ。

全部、抱えてこの壇上にぶつけてやる」


 再び差し出された右手に、俺が全力で応えれば、

 それはウィルの手にしっかりと受け止められた。



兄上を励ましたくて書いたけど、自己満感が否めないぞ…大丈夫か


所用により、明日の更新は控えるかもしれません。

するとしても一回。今回並に遅いかも…(→それは明日と言うかすら怪しい


よろしくお願いします。

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