表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生け贄の神子と華劇を  作者: 犀島慧一
第一章 神初めの儀
10/71

10

※前の話からまた一年経ってます。

 やっと題名に内容が近づいてきたかなぁ。


 あの日。決意を新たにしたまではよかった。


 私の精神が荒れに荒れた更に一年後、帰郷を知らせる手紙に私はすぐさま返事を送り了承を得た。

 兄上も行きたいとごねたため調整の期間を設けて、私はともかく兄上は一週間の期限付きでウィルの故郷ランタナ国へ出立した。

 街一番の温かさを誇る外套を羽織り、毛布と呼びの外套も準備して、温かい環境作りは完璧だと思っていたの。馬車を乗り継ぐ時も皆で敷き直して居心地も最高にして。


 慣れてきた頃には小旅行楽しいって気にもなったわ。

 もう一度言う。

 決意を新たにした“まで”はよかったの。

 ほら、何事も準備は楽しいものじゃない。ちょっと気が緩むじゃない。


 だからいざその時になって知ったのよ。冬のまっただ中、元から極寒の地、おまけに山の上に呼ばれるとは、どういう顛末を迎えることか!


「寒い、寒すぎる」

 一同は王家から直々に使わされた直行便に乗っている。

 群青色に銀の文様が入った特別感溢れる箱形の客車を見た時は、登山に際してはどうかと思う形状だけど隙間風はないだろうし防寒はばっちりね。なんて思っていた。

 けれどいざ出発すれば、運転が上手いのか振動ないし乗り心地は最高、でも籠の壁から直に入ってくる冷気だけで凍えそうという真逆のオチ。寒い、このまま眠りそう。


 自国では経験できない寒さに震えが収まらない私、兄上、兄の従者クロエ、サミの四人は毛布を掛けて揃って予備の外套を羽織っていながら、

――全員顔面蒼白である。


「……事前にランタナが極寒の地だと聞いてはいたけれど。想像以上だわわわ」

「日照の少ない極北で尚且つ高山地帯ですから、ある意味想定通りです。天気に恵まれているだけ幸運だと思いましょう。あ、すみません、お茶尽きました」

「嫌だ。すぐ隣で温かいものが消える不運が起こったわ」

「いやすでに冷めていた、問題ない。むしろ俺は乗る馬車を間違えたのではないか不安になってきた」

「むしろ御者はなんで外套一枚で走れるの。私達より薄手よね。狂気の沙汰だわ」

 ずんぐりと丸いご当地四つ足動物が自前のもっさりとした毛皮一枚で走るのに合わせなくていい。生死をかけたマゾヒズムは自重しなさい。

「一番過酷なのはこの道中らしい。希望を持っていこう」

「ありえない、ありえないわ」


 私は冷えて痛みを増した肩周辺を両手でさすった。彼と別れた二年前よりは身長も、図太さも、し、脂肪も多くなったこの私が、寒さごときに負けるはずないの。負けてはいられないのよ。

 だって、絶対に行くと決めたんだもの。


 ていうか、ウィルもこの土地出身なのよね。あの細い身体に脂肪があるとは信じがたいのだけど。ここの人たちの防寒機能どうなってんの。


 御者台の紳士が進行方向の小窓を開ければ、私達を凍えさせる風が吹き込んできた。

「具合どうですか。一応高山ですからたまにそう仰るお客様もいるのですが、悪ければすぐに――」

「大丈夫です! 大丈夫ですからその窓閉めてください!」

 人が好さそうな御者からの鬼畜所行に肩を怒らせて叫ぶ三人の魂の声が聞こえないのか、彼は小窓を全開にしたまま不思議そうに首を傾げた。

「元気ならいいんです。……でも。寒そうですね。エルドラ様が寝坊しているのでしょうか」

「――どういうことですか」

 ずっと口をつぐんでいたクロエが、感情を押し殺した声で問いかけ、自らを窓の前に立たせた。サミと同じ黒髪黒目、兄上の右腕としてかつては盾として活躍していたその頑強な身体が、真正面から寒風の洗礼を受ける形になっている。傷に耐性があっても、寒さは別の枠組みだろう。


「や、やめろ、死にたいのか!」

「ダメ、もう顔に霜が! お願い返事を!」

「いやぁぁぁ」

「クロエ! お前の勇姿は忘れないぞ!」


 とまあ、後半は冗談だったのだが。馬車が急停車して彼の身体が抵抗することなく倒れてきたときは本当に驚いた。


 彼をシートに寝かせ肌色が正常に戻ったことを確認して安堵の息を吐く三人は、同時に気付いた。

「あれ、温かい?」

 数秒前の寒さはどこへ行ったのか。春の日差しを浴びている時に近い温かさが充満している。ショックから目覚めたクロエは勢いよく身体を起こし周囲を警戒して、私達以上に訳が分らない、納得がいかないと全身で語っていた。


「みなさーん」と開けっ放しの小窓からアルトボイスが聞こえてきて、耳を澄ませる。その声の主が鬼畜御者と二言くらい言葉を交わして、私達が根城にしていた客車の扉を開けた。

 そこには薄い青みがかった銀髪、藍色の瞳、青と銀の薄手の騎士衣装を身に纏った穏やかそうな好青年。見間違えようもないウィル神様、御年十七歳がいた。


***


「ようこそお越し下さいました」

 と言って彼は胸に手を当てて騎士の礼をとる。儚げで幻想的な雰囲気は消え去り、精悍さが増した顔つきになった。長身の兄上と並んでも引けを取らない高身長のせいで常に見下ろされる形になっている。

「ウィル。あ、ウィル様」

「呼び捨てで構いません。我が国の大切なお客様なのですから」

「あ、ああ、じゃあウィル!」

「はい」

「……元気? その、手紙に書いてたこととか、」

約一年前の手紙、と具体的に言った方がよかっただろうか。迷い視線を合わせると頭を撫でられた。

――――はい?!

「おかげさまで。皆様もお元気そうでなによりです」

 落ち着いた声音で言いながら、悪戯が成功した幼子のような笑みで私を見る。瞬間凍結していた頭が再稼働を始めて、顔が一気に熱くなった。

 身長伸びて、色々なところで成長期を迎えてから、撫でられることがなくなっていたのに!ちなみに一番成長したのは二の腕の贅肉だよ、わるいか?!

「ニコライの手紙を読んでいるとカレンが妹に見えてしまうから不思議だ」

 背後のサミが笑いを堪えている。クロエは努めて平静を保ち、兄上は「手紙の内容、少々考えた方が良さそうだな」と明らかに笑いを堪えた声で言う。

 どうでもいいけど、

「そ、そろそろ撫でるのやめてもらえませんか!」

 せっかく極寒から生き返ったのに、このままでは恥ずか死ぬよ!

「うん、ごめんね」と言って割とあっさり手を引くものだから、叫んだ自分が恥ずかしくなった。だからと言って、遠ざかる背中にもう一度とは言わないけれど。



「では、ここからは、私が案内します。質問があれば何でも仰ってください」


 質問、それならまず、


「エルドラ様って、誰?」


 私達、その人が寝坊したおかげで凍死しかけたらしいんだけど!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ